第十一話:2WCC

リンロがトゥーチョから『大変なことになった宣言』を受けて以降、ネカルバフの森の中は静まりを取り戻していた────────────────────


 依然変化のない景色の中、胡座あぐらをかき軟らかな草地に座っているリンロ。


 「……!…………!………………むんッ!」


 どうやら先ほどから背後が気になっているらしい彼は、度々後ろを振り向いてはソワソワと落ち着きない素振りを見せていた。そんなリンロの背後にあるのは、今にも動き出しそうな雰囲気を帯びた真っ二つの巨大な骨。


 俺はさっきトゥーチョに大変なことになったと言われた後すぐ、まーとりあえず座れとトゥーチョに向き合い座らされた。

 大変なことについての説明を始めるのだろうと待っていたが、一向にその気配はないまま既に10分くらいは経っている…………。

 その間俺がひたすら見続けていたのは、トゥーチョの落ち着き具合がエスカレートしていく様だった。ちなみに今は仰向けになり、四肢ししを広げて口を開けたまま首をかしげている。

 何が大変なのかは不明だが保身に走ったトゥーチョがこのままロコイサ王を見捨てる気なんじゃないかと、何故か俺があせってしまっている現状だ。


 「なあトゥーチョ。大変なことになったんなら、こんなとこで呑気のんきに座ってちゃダメなんじゃないかっ?」


 「別に今すぐ急ぐことでもない大変なことだから問題ないっチョよ。とりあえずロコイサ王様は、今は絶対無事だっチョから心配いらないっチョ」

 

 「…………。

 何で今は無事だって確信持ててるんだよ。さらわれてるんだから急がないとまずいだろっ」


 「あ……まさかオレ様を疑う気っチョかぁ?」

  

 怠慢たいまん限界突破げんかいとっぱを迎えあおってきたトゥーチョに、リンロが間髪入れず容赦ようしゃなく信頼のない目を向ける。


 「チョワーーーーっ!! 今すぐその目やめろっチョーっ!!」


 駄々だだをこねる芋虫モンスターのように転がり、リンロの目に拒絶反応を示すトゥーチョ。


 「………………な」


 (根拠こんきょは分からないがどうやらトゥーチョは、本当に今はロコイサ王が無事だと思い込んでいるらしい)


 「じゃあ、大変なことっていうのは何なんだ?」


 俺がそう聞くと、トゥーチョは口を尖らせ滅茶苦茶嫌そーな顔をしながら気だるそうに立ち上がり答えた。


 「チョはぁ~~~~、もうチョっと現実逃避していたかったが仕方ないっチョ。

 いいか? 聞いたことを後悔するなっチョよ? 

 大変なのはなぁ~~───────────


 ロコイサ王様を連れ去ったというのが【2WCC】だってことだっチョッ!!!!」


 「……………。

 ツー……ダブリューシーシー?」


 「そう……ヤツは通称【ダブルホワイトコットンキャンディ】。とんでもなく恐ろしい生命体だっチョ」


 (只でさえロコイサ王の力量に面食らわされてたのに、そのロコイサ王を拐う更に猛者………ダブルホワイトコットンキャンディ…………まさかまたリャンガじゃないだろうな)


 自分の不甲斐ふがいなさを知ったばかりの昨日の今日の俺で果たしてこのアクシデントを無事に乗り切ることができるだろうか。

 なんか雲行きが怪しくなってきた。


 「それでそのツーダブリューシーシーってやつは、一体どんなやつなんだ? もしかしてリャンガなのか? 

 まぁどちらにしてもロコイサ王を救出する際に遭遇不可避なヤツなら、鉢合はちあわせる前に少しでも情報を知っておきたい」


 「ほう、中々いい心構えだっチョねリンロ。

 よしっ! その姿勢に免じて今からヤツの特徴を丁寧に教えてやるっチョから、しっかり頭の中にインプットしろっチョよ!」


 それから俺がトゥーチョに丁寧に教えられたダブルホワイトコットンキャンディの特徴は─────────

 フワフワ・フサフサ・サラサラ・モコモコ・モサモサ・ファサファサ・ワッサワッ多分全部毛の特徴だ。

 リャンガではないらしいが……もっと何か……………そうだっ! 


 「あのっトゥーチョ、ザッとでいいんだが……そいつの絵とか描けたりできないか?」


 「……ったくオレ様の皆無な画力にまで頼らなきゃいけないとは、リンロの想像力は余程乏しいらしいっチョね」

 

 そう言いつつトゥーチョは、落ちていたモンスターの小骨を使って草の生えていない地に絵を描き始めてくれた。


 カキカキカキ


 「ほれっ、これでどうだっチョ」


 トゥーチョの絵を見たリンロは固まっていた…………。


 「…あ………ああ…ありがとうっ」


 せっかく描いてもらったところトゥーチョには申し訳ないのだが、その絵から俺が得られた追加情報は何も無かった。

 なぜならトゥーチョに描いてもらったその絵は、俺の想像中に何度も頭の中を横切ってきた絶対これはないだろうシリーズの一員だったからだ。

 結局判断要素は皆無だがトゥーチョの怯えようを見るからに一見モフモフしたくなるような見た目をしておきながら、実は狂暴といった感じなんだろう。とりあえず大量に毛があるやつには気を付けよう。


 「よしっチョんじゃあ、昼飯食ったら偵察に出発するチョから──────各自食いに行ってくるチョーっ!!」


 そう急に意気込んで、勢いよく飛び出して行ったトゥーチョの横顔からは何故か笑みが溢れていた。


 (あーあれは……俺よりいっぱい食ってきて、後でマウントをとるつもりだろうな) 


 その程度ならリンロにとっては別にどうでも良かったことなのだが、何故か事はトゥーチョが行方不明になるという予期せぬ事態へ発展した。二人が合流できたのは夕方の少し前、鳴り止まないトゥーチョの腹の音をたまたま近くにいたリンロが聞きつけてだった。


 おもむろに歩くリンロと少し痩けているように見えなくもないトゥーチョ。

 歩く最中トゥーチョは終始元気がなく、悲しげな表情でチラチラとリンロの持っている物を見ていた。

 ようやく巨大な骨のあるところまで戻ると、リンロはそこで止まって腰を下ろしトゥーチョに言った。


 「まー座ろうぜっ」


 (暗くなれば食べ物探すのも難しくなるし一応、俺とトゥーチョの晩の分も採っておいて良かったな)

 

 「こういうのしかないけど、食べれるか?」


 リンロが風呂敷のように持っていた大きな丈夫な葉を広げると、中には雪だるまのような形をし甘くさっぱりとした匂いのオレンジ色の果実が沢山詰まっていた。


 「チョッ!!? いいのかっチョっ!!?」


 「言っておくけど今全部食ったら、晩の分はないからな」


 そう言ってリンロがトゥーチョに差し出した果実は、自分の分も含めた全てだった。 

 

 「チョホぉ~~リンロぉ~~ゴメンだっヂョ~~ありがどだっヂョ~~!!」


 トゥーチョの食後。

 少し遅くなってしまったが過去に一度ダブルホワイトコットンキャンディー(2WCC)に接触したというトゥーチョの俺の左耳真横から流れる音声案内に従って、俺たちはダブルホワイトコットンキャンディーの巣へ偵察に向かうことにした──────────────────


 


 

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