RYANGA--リャンガ・【俺の性格上それは無理】

錬寧想 リンロ

プロローグ: リャンガを名乗る者

 黒い海の波の音は、金属がれるような嫌な音だ。   

 また、そこで泳ぐ黒い男も同じような嫌な声で歌う。


 だがおかしなことに、近くの島に住む島民達は何とも聞き心地良さそうな顔でそれを聞いている。ましてやそのまま寝ている者までも……。


 その理由はおそらく、その日現れた黒い海に浮かぶ無数の陽の色をした柱の影響だろう。


 柱は音を吸収すると長く伸び、音はたちまち幻想的な音へ変わり排出され柱はまた縮んだ。


 よく見ると、柱の上に上がりその伸縮しんしゅかく遊戯ゆうぎかのように楽しむ青年がいる。

 

 ぱちぱちぱち  

  

 青年は黒い男に拍手を送り下を見下ろす。


 気が付けば男は、どこから来たかも知れぬ万のありとあらゆる生物観客達に囲まれ黄色い歓声を浴びていた。


 そんな異端いたんな景色の中、より一層目を引く建造物がそこにはそびえ立っていた。


 神々かみがみまくらと唱われる『邸下ノ番神塔ていかのばんしんとう』である。

 

 そして今、その塔内で一人の男の尋問が始まろうとしていた。


 

(なぜだかボクには生まれつき沢山の嫌われる理由が具わっていた、そして今もボクはこのつぼの中で嫌われ漬けにされている…………)



 尋問が行われている広間の前には多くの兵が待機させられ、広間の中入り口付近には亜九録閃番あきゅうろくせんばんと呼ばれる19人の塔内選とうないえりすぐりの強者達が配備されている。


 そして周りを奈落で囲まれる広間の中央部。結界が張られたその中には高重力を帯びた漆黒しっこくの棒を何本も複雑に絡ませ作られた、形のいびつな玉座のような椅子があった。


 そこに座わらせられているのは、上半身裸でボロボロの下穿したばきの貧相な身なり・蒼白い肌・まるで竜の角を生やしたかのような翡翠色ひすいいろの長髪を垂れ流した若い男。


 男は目隠しをされ身動きがとれぬよう拘束こうそくされ、終始俯しゅうしうつむいている。


 そんな男の向かい、豪壮ごうそうな背もたれの高い椅子と高価な木で作られた重厚じゅうこうな机。

 その机にひじをつき余裕を見せ座るのは、男とは正反対の豪華ごうか華麗かれいな身なりをした尋問官だった。


「さて説明してもらおうか。貴様を含むあの化け物共が一体何なのかを……」 


 尋問官がどことなく面倒くさそうな眼差しで男に問うと。


 「テュフッ」


 男は不気味な笑みを浮かべ苦笑した。

(……今日はそれか)


 それから続けて男は質問に答え始めた。


「ち……ちが…………うよ」

(ボクにとっては至極凡常しごくぼんじょうな理由―――根底的存在否定こんていてきそんざいひてい


「今……キミらが化け物と呼ぶ……ボクらの存在は…………」



 ブチィッ!! 


 

 急に男の目隠しが引きちぎれる――


 すると次の瞬間、突如とつじょとして男の身体がゆがみ始めた。


 広間内に緊迫感が張り詰め、周囲の警戒が高まる。


 男の両足・両肩・胸・背からは、みるみる内に男とは似ても似つかぬ小さな6つの身体が出てきた。


 そしてその6つの身体は男とは違い容姿だけで異様と分かるほどの存在だった。男同様、尋問官らが化け物と呼ぶそれだ。


 6つの身体が各々おのおの口を開く。


 牛のような角を持ち背中には不思議な機械を背負い、そこからポンプで繋がる機械の左腕は自身の身よりも大きい。綺麗な顔立ちに金髪の七三分け、額には金色のあざがある身体が言う。


 「来世でもし尋問をする機会があったのなら、次は相手をよく見て選んだ方がいい」



 天使の羽のような角・宇宙人のような大きな目・新雪のように柔らかく白い長髪・着物姿・扱いの難しそうな大きな太刀を持つ身体がバリバリ殺気を飛ばし奇声を上げる。


 「ムジュヒィッ!!!!」



 獣の姿・白い眼に大きな耳・あごからは長い尻尾・頭に生えた長い毛をプロペラ代わりにし宙に浮く身体が言う。


 「人見知りのペジュヒュムが、人と会話とは珍しいのうっ」


 

 名状めいしょうしがたい姿の武器に乗り・赤い髪に鹿のような長い角・角の先からは炎・ポンチョを着た好奇心旺盛こうきしんおうせいな身体が言う。


 「わーおっ何ここっ! 面白そーなところだねっ!!」



 黒装束くろしょうぞくまとい頭の上には何が入っているのか見えないが長く、頂部には王冠おうかんをかぶっている。黒装束の隙間からかすかに幼い少年の顔を見せる身体が満面の笑みで言う。


 「よく言えたね、さすがペジュヒュムくんだっ」



 大きなビーチボールのような体から飛び出たバネの首・ハート模様のニット帽からはみ出たブタのような小さな耳・ピエロのような顔にたらこ唇とちょび髭をつけた身体が言う。


 「元の姿に戻っちゃうまで10秒前よっ」



 そして最後に彼らにペジュヒュムと呼ばれる尋問を受けていたその男が紫色の瞳を大きく見開き、自身らをこう言い表した



 「リャンガ」と───────




 その後、その場で何が起きたのかは分からない。


 ただその場所には尋問した跡とは呼べない悲惨ひさんな跡と、調査報告書の断片だんぺんなるものだけが残っていたという。


 調査報告書の断片には、実戦の際に得られたRYANGAのもつ2つの能力について記述されていたようだ。


 内容はこのような内容だったとされている。


 1.【触殺能力しょくさつのうりょく

 RYANGAは人間に触れることで、人間の細胞に拒絶反応を引き起こすことが可能。最悪の場合死に至る。

 また触れられてから死に至るまでの時間は一定ではなく、それぞれのRYANGAの持つ細胞濃度によって異なる。


 2.【敵意テンジャ】…………

 そこからは途切れていたため、分かっていることはほんの些細ささいなことだけだ。




 そしてここより3年後───このほとんど何も分かっていない世界から始まるのは、リャンガとして生きる一人の少年の物語である──────

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