13



side.Subaru





「………イヤ…?」


拒絶されたんだと勘違いした円サンは、

あからさまに表情を曇らせ、瞳を濡らし始めて。


俺は動揺しつつも、急いで首を横に振る。






「そっ…そうじゃなくて…えと、俺汗かいてるからっ…」



早く円サンに会いたくて。


バイトが終わると着替えもせず、

暑い中そのまま全力疾走で帰ってきたものだから…。


…と説明したんだけど。






「オレ、平気だよ?昴クンの匂い好きだもん…。」


そう平然と答え立ち上がると、首筋に顔を擦り寄せてくるから…


円サンの大胆な行動に、

俺はゴクリと喉を鳴らした。






「…いい匂い……コーヒーかな?」



くんっと鼻を鳴らす円サン。





「…今日、美味しい煎れ方を教わったんです。円サンにも飲ませてあげたいなって…」


「そっか……うん、昴クンのコーヒー飲みたい…」



自然な流れで目と目が合って、

顔を寄せ…キスをする。


当たり前みたいなその一連の行為が。

何より幸せで仕方なかった。






「ね…昴クン……」



“シよ…?”────と、首に腕を絡め、

色気を醸し出して俺を翻弄してくる円サン。


ここ数日ギクシャクしてたし、

バイトも重なってお互いご無沙汰だったから…





「あっ…でも先にここ片付けなきゃ…────」


我に返った円サンが、

辺りを見渡しシュンと眉根を下げる。



けれど一度誘惑されてしまった、俺の中の獣は…





「わっ……!?」



─────もう、止められませんからね?










勢いよく円サンを腰から抱き上げると、

反動で驚いた円サンが首へとしがみついてくる。


俺は困惑する恋人を抱えたまま…

構わずにリビングの方へとスタスタ歩き出した。





「…ぁ…昴くっ……」


寝室まで向かう時間すら、惜しい。


些細なロスすら耐え切れず、

俺はリビングのソファの前で止まると…


ゆっくりとそこに円サンを下ろした。





目が合えば頬を染め、

上目遣いで無意識に俺を誘ってくるものだから。


俺もうっとりと目を細め、

その愛らしい姿を堪能しつつ…



一気に食らい付いた。







「ンッ…ふぅ…ぁ…ッ……」



こんなに深いキスも、

なんだか随分と久し振りな気がして…。


まるで初めてキスした時のような興奮が蘇り、

急速に熱を上げていく。





俺はラグの上に跪き、

ソファーの背もたれに手を付いて。


円サンが俺の首へと腕を絡めてきたから…

そのまま顔を寄せ、キスに没頭した。




唾液が溢れ円サンの顎を、厭らしく濡らしても。


お互い唇を離す事はなく、

クチュクチュと舌を交わらせ…激しく貪る。






「ふぁ…キスもっ…コーヒー味、だ……」



唇を震わせ、伏せていた目を開いて微笑む円サン。






「…おいしいねっ…昴クンのキス…」



そう甘ったるく囁いて…

ペロリと舌を出し、ねだるように口を開いたから。


俺もそれに応えるよう…より深く唇を奪った。




すると円サンが言ったとおり、

仄かな珈琲の苦みと、砂糖みたく甘いキスの味が混ざり合って…。



俺達は更に欲望の深みへと、

いざなわれていくんだ。

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