第19話 報告

「今日はお前達に伝えたいことがある!」


 俺はカメラに向かって叫ぶ。その声が届かなくとも。


「まず、この世界が西暦何年か判明した!!」


 この情報を伝えるかどうか、俺はしばらく悩んでいた。視聴者が今、一番気にしているのはこの情報だ。間違いない。しばらくこのネタで引っ張ることも出来る。しかし……俺は伝えることにした。


 カメラで地面を映す。そこにある文字は──。


『この地球は西暦……』


 コメント:ちょっ! いきなりかよ!

 コメント:待って!! まだ聞きたくない!!

 コメント:うおおおおー!! 来たー!!

 コメント:俺は覚悟出来てる。

 コメント:やだやだやだー!!

 コメント:来い! ルーメン、来い!!


『2119年!!』


 コメント:セーフ!!!!!!!!!

 コメント:俺死んでるわ。セーフ!!

 コメント:ほぼ全員死んでるだろ

 コメント:長生きしたらルーメンに会える可能性

 コメント:私! 長生きするううううぅぅ!!

 コメント:いや、よく考えろ。割と近い未来だぞ……


 その通りだ。よく考えろ。俺のいる時代が2119年というだけで、いつから地球がこんな風になったとは、まだ言ってない。


『地球は異世界と融合する……』


 コメント:……そゆこと!?

 コメント:融合とか初耳なんですけど!!

 コメント:豚がオークになったわけじゃないの!?

 コメント:異世界融合って?

 コメント:地球と異世界が繋がる?

 コメント:エルフチャンス来たあぁぁぁ!!


『異世界融合は西暦……』


 コメント:ちょっと待って!!

 コメント:情報多いて!!

 コメント:怖い怖い怖い

 コメント:お前等、生きてる内にエルフチャンスだぞ!!

 コメント:ウオオオオオオー!!

 コメント:……いや、虫もでかくなるんやで……


『2032年!!』


 コメント:十年ごおおおおおおおー!!

 コメント:お前等、ほとんど生きてるだろ……

 コメント:えっ……仕事やめようかな

 コメント:ヒャッハー!!

 コメント:マジ……? 家買ったんだけど

 コメント:これ、株価やばくね?


 あっ。株価とか全く考慮してなかった。まぁ、大丈夫だろ! ルーメンチャンネルにそこまでの影響力はない!! 筈!!


 そして、まだまだ伝えることはある。カメラは次々と事実を突きつける。


『富士山噴火が異世界融合の合図』


『電気使えなくなる』


『魔素? が拡散』


『魔素 イズ 何?』


『ここのボスの名前は一条院』


『最初にあった娘の名前は世奈』


 コメント:魔素ってなんだよ!?

 コメント:俺達に聞くなよ!!

 コメント:電力株死んだぁぁー!!

 コメント:富士山……

 コメント:ちょ、これマジなの?

 コメント:農業始めよう

 コメント:ちょっとルーメン、まさかあの小娘と……

 コメント:へー、世奈ちゃんね

 コメント:あの厳ついオッさんが一条院ね

 コメント:魔素で虫が巨大化!?

 コメント:もうお腹いっぱいだよ


 思ったより皆、落ち込んでいないな。まだ十年先だと余裕なのか? それとも実は変革を望んでいる?


 って、そうだ。忘れるところだった。これから何をするのかも伝えないといけない。


 俺は棒切れで地面に殴り書きをする。そしてカメラに──。


『なんかモヤモヤするからオークの集落を潰す!』


 ──と映した。


 コメント:wwwモヤモヤってなんだよ!

 コメント:とんだ八つ当たり!!

 コメント:どっちが悪者www

 コメント:オークに人権はないのか!?

 コメント:まぁ、人権はないかな……

 コメント:オーク食べるの?


「オークなんか食わねーよ!! ただ潰すだけだ!!」


 ──ハッ! 多くの視線を感じる。見渡すと集落の子供達に囲まれていた。仕事の帰りなのか、どの子も大きな籠に収穫物をいっぱい入れている。


「虫のニーチャン。オークを潰すの?」


 いつの間に虫のニーチャン?


「……まぁな」


「じゃ、これあげる。頑張って」


 そう言って渡されたのは緑の小さな粒々だった。俺はこれが何かを知っている。これは……胡椒だ! 俺が望んでいたもの。


「任せろ! ぶっ潰してやる!!」


 そう、強く宣言して俺はその日の配信を終えるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る