第3話 水

 竹の様な節のある植物──直径5センチぐらい──を切ったものをコップ代わりにし、俺は水を飲んでいる。水と言っても河から汲んだものではない。


「ぷはぁー生き返るうぅぅぅ!!」


 配信者としての癖でつい大袈裟なリアクションをとってしまうが、どうせ一人なので問題ない。


「そろそろ配信しておかないと、視聴者が心配するな」


 何故かずっと充電中になっているアクションカメラを設置してライブ配信を開始すると、すぐに接続数が一万人を超えた。なかなかの滑り出し。


「皆さんに残念なお知らせがあります。河は見つかりません出した」


 コメント:ルーメン、生きてた

 コメント:どうした? 元気ないな

 コメント:相変わらず音聞こえない

 コメント:水、見つかった?

 コメント:河あったの?

 コメント:結局、何処なんだよ。そこ


「しかーし! 水は手に入れましたー!! ぱちぱちぱち!!」


 俺は何本も溜めた竹の水筒の一つを取り出し、カメラに見せる。そして視聴者の前で大袈裟に飲んでみせた。


 コメント:おお、水じゃん

 コメント:命拾いしたな、ルーメン

 コメント:あとは虫とかゲテモノがいれば安心

 コメント:その水、どうしたの?

 コメント:河?

 コメント:海水?


 いや、海水は不味いだろ。余計に喉が乾く。俺はアクションカメラを持って白樺に似た水の取れる木のところまで移動し、サバイバルナイフでその幹を傷付けた。


 ──ピューッ!!


 勢いよく水が噴き出し、俺は慌ててそこに口を持っていく。


「うめえええ。やっぱ一番搾りが最高よ」


 水の勢いは次第に弱くなり、ポタポタと垂れる程度になった。もったいないので竹の筒を当てがい、水を溜める。このようにして作った水筒があと五本ある。当分、水には困らないだろう。


 コメント:何、あの木? 水が噴き出したぞ

 コメント:やっぱり、地球じゃなくね?

 コメント:ルーメンさん、何処いるの?

 コメント:異世界っしょ!

 コメント:虫食べる系配信者、異世界転移する!

 コメント:いや、マジそうじゃね?


 視聴者のコメントに頷きそうになる。こんな真水が大量に取れる木なんて聞いたことがない。少なくとも地球では見つかっていないはずだ。じゃあ、ここは一体……。


 ──グウウウウウウ。


 地響きの様な音がする。俺の腹だ。喉が満たされると、途端に腹が減ってきた。どうする? 俺は棒切れで地面に「はらへった」と書き、視聴者に見せる。


 コメント:フナムシっしょ

 コメント:フナムシだな

 コメント:フナムシ一択。リベンジしろよ

 コメント:踊り食い!!

 コメント:お前等、止めろ! また死にかけるぞ

 コメント:でも、フナムシ食べるんだよなぁ。ルーメン


 チクショウ! こいつら調子に乗りやがって!! しかし、食べがられそうな生き物が今のところあのデカいフナムシしか見つかっていないのは事実……。どうする? 一度試してみるか……。


 幸い、手元にはタモ網がある。こいつがあれば捕まえられる筈。俺は森から出て、また海岸へと向かった。

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