競輪の神様と非実在の競輪予想師2022 パート②「GI第73回・高松宮記念杯競輪」編

鉄弾

第1話 八百万の神々

「拝啓、皆さま。どんな日々をお過ごしでしょうか?六月になり、じめじめとした日々が続きます。そんな中でも、わたくし・静所アリサは元気にしぶとく、図太く生きています」

「お姉ちゃん、誰と話しているの?」

 アリサが座るしたソファー。その隣には高校生になる妹・静所おとなし見事みことがいた。


 ここはアリサの暮らす立川市内のアパート。静所おとなしアリサは、魔法使いにして、立川市内の飲食店アルバイト従業員。勤務先はステーキハウスで、美味しいステーキやハンバーグなどが食べられるので、そこそこ有名な店だ。

 今日は土曜日。本日のシフトは『2』。つまり、17時からの勤務開始だ。ちなみに、『1』は11時からの勤務。『3』が所謂いわゆる・『おそばん』。20時からの勤務開始となる。

 妹の見事は、こうして自分の暮らすアパートを訪ねてくる。見事は母・静所おとなし雷鳴らいめいと調布市で暮らしている。


「お姉ちゃん、最近、変なことを言うよね?」

「なによ?いつお姉ちゃんが変なことを言ったって言うの?」

「だって、異世界へ行ったって言っていたじゃない?」

「あれは事実よ!」

 見事には何度か話した出来事。アリサが競輪の神様によって、平行世界へ連れられて行き、そこで競輪の予想バトルをしたこと。

 前回は負けてしまったが、それまではさん連続れんぞく勝利しょうりを飾っていた。


「ママが言っていたわ。ちまたじゃあ、異世界に行くアニメばかりだから、そのせいで変なことを言っているって」

 妹の発言にムッとするアリサ。

「酷いわ、見事ちゃん!異世界アニメにも、競輪にも、私にも、まったはないのに、何でそんなことを言われなくちゃいけないの!どれくらい落ち度が無いかと言えば、たりとも落ち度はないのに!」

 アリサは本心を語るが、妹にはそのオーバーなが余計に胡散うさんくさく見えてしまうようだ。


「そこまで言うなら証拠が欲しいところね。例えば、異世界の競輪場で買った車券とか?」

「異世界じゃなくて、並行世界よ!いいわよ、そこまで言うなら、今度並行世界に行ったら、そこで買った車券を見せてあげるわよ!」

 アリサとしては嘘など吐いていない。しかし、悲しいことに、その必死さが裏目に出てしまっているようなのだ。

 見事はため息を吐き、ソファーから立ち上がる。


「この後、用事があるから、これで帰るね?」

「そんな!お姉ちゃんを放置して、帰るって言うの?酷いよ!放置ほうちするなら、スポーツ報知を買ってきてよ」

「また、そんなことを言って。平気でサンスポ買うくせに」

「いいの!色んな所から情報は仕入れる必要があるのよ。こういうのをって言うのよ?」

「オシントですって?じゃあ、今度宇宙人襲来の記事が載っていたら教えてね。じゃあ、これで。ごきげんよう」

「もう!見事ちゃんのおバカ!」と言うものの、なかば無視されてしまうアリサ。見事はさっさとアリサのアパートを後にした。


「ふん!本当に競輪の神様はいるんだから!」

 一人取り残されたアリサは拗ねたように言う。

「その通り。競輪の神様は存在する」

 不意に聞こえた声。

 まさか!と思い、その方向に目を向けた。妹が去り、自分以外には誰もいないはずの部屋の中。そこには思わぬ人物がいた。

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