第40話 仲間の過去を知った

 マルちゃんは、里のニンジャである父と、この世界に召喚された異星人との間に生まれた。


「あれが生きていれば、里の長候補だった」

「長老、『秘密の愛』、というのは?」

「我々の里は、異星人との交際を認めていない。我が国の役割は、この世界にいる重要人物の警備と、異星人の調査だ」


 なるほど。マルちゃんが強いのは、悪い宇宙人との戦闘に備えて鍛えていたからだろう。


「宇宙人との交戦がなおも続いている以上、無用なトラブルを避けたい」


 そっか、スパイと思われてしまうからか。


「よりによって、あれが愛した宇宙人は、魔将の一人だった」


 獣人の要素も、女性が持っていたらしい。


 その女性宇宙人はニンジャの里がある場所を特定しようとした。が、戦ったニンジャの男性と恋に落ちる。そのまま、里に対して降伏したらしい。


 だが話し合いの末、父親は里を追われた。


「数年後、あやつが血まみれで帰ってきた。幼いマルグリットだけを連れて」


 宇宙人の女性は、他の魔将との戦闘で命を落としたらしい。


 魔将も、二人がかりで戦ってようやく倒したそうだ。


 娘を頼むと言って、マルちゃんの父親も息絶えた。


「里が親代わりだったから、寂しくはないよ」

「うん」


 僕は、マルちゃんの頭を撫でる。


 マルちゃんが人懐っこい性格なのも、両親がいないからだろう。会社で働いてくれている、孤児たちにも優しい。お風呂も独占せず、必ずみんなと一緒に入る。ケガをしないかちゃんと観察しているのを、僕は知っていた。まあ、僕も一緒に入らされるからだけど。


「マルちゃんはいい子ですよ。みんなマルちゃんが大好きです」


 僕が言うと、マルちゃんが「ありがと」と僕に身体を預けてきた。


「アユム殿なら、本当にマルグリットを嫁にやってもよろしいと考えている」

「あ、そんな」

「愛人でも結構だ。本妻はいらっしゃるようだから」


 長老の視線は、エリちゃんに向けられる。


「いえいえ、私は本妻だなんて」


 手をバタバタさせながら、エリちゃんは否定した。


「僕だって地球人、あなた方からすれば異星人だ。僕とマルちゃんが一緒になったら、まずいのでは?」

「これは、里の常識を遥かに超えた存在。里の空気に染まっておらぬ。いずれ里を出るのはわかっていた」


 長老は、マルちゃんと向き直る。


「マルグリット、我々は、お前の両親を受け入れなかった。こんな閉鎖的な里など捨てて、掟も捨てよ。お前だけは、自由に生きるのだ」


 長老の言葉はもっともだ。が、宇宙人の血を受け継いでいるマルちゃんが里にいたら、いずれは彼女を狙って宇宙人が攻めてくる。もう、秘匿できない。


「じっちゃ……うん。わかったよ」


 マルちゃんも、冒険者として宇宙人狩りの実績を積んでいる。自分がいたら里に迷惑がかかると、わかっているんだろう。


 ここにマルちゃんが留まることは、彼女にとっても里にとってもプラスにならない。


「お別れだ、マルグリット。守ってやれずにすまぬ」

「大丈夫じっちゃん、大好きだから」


 長老と、マルちゃんが抱き合う。

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