第5話
「なあ。遠くに船影が見えるんだが」
遠い海原を見つめるセハルは、目が良いらしい。舵を操るミロクに代わってルタが確認してくれるが、「どこだ?」と必至に目を凝らすだけで終わった。残念ながら、船に望遠鏡は乗っていない。
「観測区の奴等が、海の調査でもしてるんじゃねえか?」
「出掛ける時はカウムディーさん、そんなこと言ってなかったっすけどねー」
ミロクの言葉に応じるフェイファは波打つ景色に飽きたのか、船室の傍で釣りのまね事をしている。アウシュニャを出る時に戯れに拾ってきた細い棒きれに、ポケットに入っていた糸を括りつけてある。糸の先に錘代わりの六角レンチが付いているものの肝心の針がないため、魚が釣れるわけではない。
「そういえば、海の生態って、今どうなってるんだ?」
舵を操りながら、ミロクは背後のルタに問う。
「人員不足で、そこまで調査の手が回っていないのが実情だが。地上よりも如実に影響を受けているかもしれない。浜辺で、貝の一つでも見たことがあるか?」
「無いな」
そもそも、海に近付くこと自体があまり無い。稀にレイに引っ張られて浜辺を歩くこともあるが、ミロクは足元に注意しながら歩くということをしないので、見たことが無いと言うよりは気付いていないと言うのが正しいかもしれないが。
「ただ、海は浄化作用がある。それに期待したいところだな」
ルタは遠くを見ることを止めて、フェイファの隣りへと移動した。動くことのない棒の先を見守ることにしたようだ。
「島が見えてきたな」
「ああ」
隣りにいるセハルに応じながら、ミロクは目を凝らした。船は、着岸する時が一番難しい。注意深く岸を見て、思わず唸った。
「誰か倒れてないか?」
ミロクの声に、フェイファが棒きれをルタに押し付けて、船首に駆け寄る。
「ほんとだ。一人だけじゃないっすよ」
振り返るフェイファに、セハルと逆側に陣取っているレンリが首を傾げた。
「警備隊が、やられたということか? 海岸線には一応、そこそこ腕に自信がある者を置いているはずだぞ?」
「つっても、倒れてんのは事実だし。確認するしかねえだろ」
ミロクは手早く船を着岸させる。桟橋に船体が当たって揺れたが、この時ばかりはレンリも文句は言わなかった。
真っ先に船から降りたのは、セハルだった。彼は着岸するなり桟橋に飛び移り、砂浜に倒れている警兵隊員の一人に駆け寄った。力が抜けた腕を持ち上げると、脈を計りだす。
「大丈夫。気絶してるだけだ」
遅れて浜に着いたルタとレンリも、それぞれに倒れた警備隊員の容体を確認する。フェイファと共に桟橋に船を固定させていたミロクは、うめき声を上げた男の元へ行き、しゃがみ込んだ。
「何があった?」
男の黒い目が、弱々しくミロクを見上げる。痺れているのか唇は小刻みに震え、しかし懸命に声を紡いだ。
「し、島のお、んなたち、が、つれ、てい、かれた」
ミロクは、血液がすべて足元へと下がってしまう感覚に陥った。
「レイッ」
走り出したミロクにレンリが呼び止めようとするが、彼の耳には届かなかった。
レンリは、大きくため息を吐く。
「ったく。あいつは私が追おう。ルタは職人街、セハルはロータスの街、フェイファは観測区に向かって様子を見てきてくれ。ルタとフェイファには、後で迎えを寄こす」
レンリの指示に、ルタは目を見開いた。
「職人街まで結構あるぞ。そこまで体力に自信が無いんだが」
「つべこべ言っている暇など無い。行くぞ」
レンリはルタを一睨みすると、右手をルタの肩に、左手をセハルの肩に置いた。途端に風景が波打つように歪み、歪みが解消された頃には職人街の景色に変わっていた。役場の前に、男達の人だかりができているのが見える。
「な、何がどうなってるんだ?」
「説明している暇など無い。後は任せたぞ」
大慌てするルタの肩からレンリが手を離すと、再び風景が歪んだ。
次に現れた景色は、研究所の廊下だった。セハルの肩から、レンリの手が離れていく。
「先にヒヨクに頼むことがある。悪いが、ここから街を一周してきてくれ」
「それは構わない。けど、あんたは何者なんだ?」
セハルは眉をひそめて、レンリの顔を見た。
「何者でもないさ。時間ができたら、昔話くらいはしてやろう。ではな」
彼女は目を細めると、研究室のドアの向こうへと消えた。
ぜっ、ぜっ、と音がするほど息が切れている。喉に、貼りつくような違和感を覚えている。
それでもミロクは駆けに駆けて、自らの家にたどり着いた。ドアノブを持つ手が震えるが、無視して勢いよく開いた。
ドアの向こう側に立っていた人物が視界に入り、目を見開く。
「レ、ンリッ!?」
腕を組んだレンリは、呆れたと言わんばかりの視線をミロクに向けていた。
「ここまで走ってきたことは褒めてやるが、取り乱しすぎだ」
名前を呼ぶにも苦労するミロクに比べて、レンリは息も切らさず流暢に話す。
「飛んだ、のか?」
「緊急事態だからな」
レンリは腕を組んだまま、器用に肩をすくめた。
「先にヒヨクのところに行って、島中の防犯カメラを分析してもらった。どうやら本当に、島中の女が連れ去られたらしい。更に言うと、連れ去りを指揮していたのも女だ」
「なんでだ?」
「分からん。今、ヒヨクに何者なのか、画像から割り出してもらっている」
「誰だか分かるのか?」
ようやく息切れが治まってきたミロクに、レンリはうなずいた。
「たぶんな。島中の女達を連れ去ることができるほどの人員を動かせる人物だ。そんな奴は、この世界に一握りしかいまい」
「ミロクッ」
名前を呼ばれて振り返ると、開けっ放しのドアの向こうに息を切らしたセハルが立っていた。ミロクの後ろで、レンリが「ほう、速いな」と感心した声を漏らす。
「本当に、いない。研究所も、低い階は、やられてる」
「いざという時は、上の階に行く術を断つからな」
レンリの言葉に、ミロクとセハルは怪訝な顔をする。
「まさか、こうなることを見越して?」
「いいや。本気で引きこもりたい時のために、ヒヨクが勝手に設定した」
真顔のレンリは、嘘をついているようには見えない。ミロクとセハルが脱力していると、ルタを乗せた車が、やや遅れてフェイファを乗せた車も到着した。研究所に寄ったレンリが手配していたらしい。
「職人街の女は、みんな連れていかれた。抵抗した輩が数人怪我を負ったようだ。今、テンガが診てる」
「観測区も同じっす。カウムディーさんが素直に従うよう指示したみたいで、怪我人は出てないっす」
二人の報告を聞いたレンリは、うなずいた。
「どこも同じか。みな、ごくろうだった。そろそろ結果が出ているかもしれん。ヒヨクの所に向かうぞ」
レンリがミロクを見る。意図を察したミロクは、頭を掻いた。
「あー、車は浜辺に置いたまんまだ」
「……そうだったな」
ルタとフェイファを運んできた車も、既にどこかへと走り去ってしまった。仕方なく、研究所まで徒歩で行くことにする。道中、レンリの小言が続いたが、ミロクはすべて無視した。
ヒヨクの研究室を訪ねると、彼はおどおどとしながらも出迎えた。
「指揮していたのは、パーパの現国王の婚約者だったよ。名前は、ヒカ」
「パーパ国王の指金ってことか?」
ルタが問うと、ヒヨクは首を傾げる。口元に置かれた手は、長い袖のおかげで指先しか見えない。
「そんな回りくどいやり方をするような人とは思えないけど」
レンリも同じ感想なのか、同じように首を傾げている。
「まあ、本人に聞いてみた方が早いだろう。連絡は取れそうか?」
「準備はしておいたけど。とりあえず、やってみるね」
ヒヨクが、両手の指でキーボードを打つ。研究所内で一番速いと言われるタイピングを見て、フェイファが「おおっ」と感嘆の声を上げた。
と同時に、プツッという小さな破裂音がした。ミロク達が周囲を見回す中、タイピングを続けるヒヨクだけは気付かずに、ぶつぶつと早口で言い続けている。
「周波数自体は、ヒガンが前に教えてくれて。たぶん、繋がるとは思うんだけど。向こうが答えてくれるかどうかは」
『その声は、ヒヨク博士かな?』
「うわぁっ」
回線を繋げたのは本人であるはずなのに、ヒヨクは飛び退いた。その拍子に椅子とぶつかり、共に床に転がる。尻もちをついたまま辺りを見回すと、「どうしよう、どうしよう」と言いながらルタの足にしがみついた。
『相変わらず、騒々しい人だ』
ノート型のコンピューターの向こうから、笑い声がする。繋がっているのは音声だけのようで、画面は真っ黒のままだ。
『ということは、そこにレンリもいるのだろう?』
「ああ。久しいな、シエン」
『うん。まさか、そちらから連絡を取ってくるとは思わなかったけど』
「用があったからな。率直に尋ねるが、うちの女達を連れ去ったのは、おまえの指示か?」
『いいや』
即答に、レンリの目がわずかに細くなる。
「しかし、集めた情報によると、どうやらおまえの婚約者が指揮していたようだが?」
『ヒカが?』
何か考えているのか、数秒の間が開いた。
『心当たりは無いが、そちらに迷惑を掛けていることは間違いないようだね。私が足止めをしよう。こちらに入ってからの足も用意しておく。悪いけど、迎えに来てもらえないかな?』
「何か、策略があるんじゃないか?」
訝しむセハルの声は小さかったが、相手に聞こえたようだ。『ははっ』と短い笑い声がする。
『どう思おうが構わないよ。それで、来てもらえるのかな?』
「ああ、行こう」
『分かった。それでは、準備もあるから明後日の十時頃でも構わないかな? スルガ港で、お待ちしているよ』
再び、プツッという音がする。通信が切れたらしい。レンリは、ミロク達を振り返った。
「策があろうと無かろうと、どのみちパーパには行かねばならん。ミロク。悪いが、パーパまで送り届けてくれ。他は、来なくても構わない」
「いやいや、行くっすよ。女の人達、みんないるんすよね? 絶対、手伝いが必要でしょ?」
フェイファの言葉に、セハルとルタもうなずいた。
「護衛だって必要だろ? 向こうに、あんたを捕られるのはまずい気がする」
セハルの言葉に、「そのようなドジは踏まないがな」とレンリは笑った。
「スルガ港に明後日の十時ってことは、明日の昼までに出発すれば間に合うな」
ミロクは、これまでに諜報部員達を送り迎えした経験と船の大きさを元に、だいたいの計算をする。船の明かりが頼りないので、夜中の航行は計算に入れていない。そこにフェイファは気付いたのか、「じゃあ、寝袋取ってきたいっす」と訴えた。
「ついでに、煙幕とか武器になるもの色々見繕ってこないと」
「おいおい、フェイファ。国際問題になるようなことはするなよ」
指折り数えるフェイファに、ルタが呆れたように言う。
「先に、国際問題になるようなことしでかしたのは向こうだけどな」
「そうだな」
ミロクの言葉に、セハルが深くうなずく。
「まあ、それぞれに準備したいこともあろう。フェイファは浜の方が近いな。明日、十一時に浜に直接来い。他の者は、十時にミロクの家に集合だ。それまでに、ミロクは車を取ってくること。良いな?」
「は? 良いなって」
「良いな?」
有無を言わせぬ笑顔を浮かべたレンリは、ミロクとフェイファの肩に手を置いた。途端に、ミロクの視界が渦を巻くように歪む。ミロクは、あまりの気持ち悪さに目を閉じた。袖を引っ張られて目を開くと、袖を持つフェイファと二人で浜に立っていた。わずか数秒の出来事だ。
「飛ばされたのか」
脱力してその場にしゃがみ込むミロクをよそに、フェイファは「すごいっすー」と飛び跳ねて喜んでいる。先ほど倒れていた男達は、既にいない。ミロクの仕事仲間が運んでいったのだろう。
「レンリの姉ちゃんに、こんな特技があったなんて知らなかったっす。こんなことできるなら、わざわざミロク兄を足に使わなくても良いと思うんすけどね」
跳ねるのを止めたフェイファは、ミロクを振り返り見ると首を傾げた。ミロクは落ちてきた前髪を乱暴にかき上げる。
「わざと黙ってんだよ。怖がる奴もいりゃ、悪い方へ利用しようとする奴もいるだろ? おまえ達をある程度でも信用してるからこそ見せたんだ。他の奴に言いふらすんじゃねえぞ」
「俺達、信用されてるんすね。嬉しいっす」
へへっと笑うフェイファに、ミロクは大きく息を吐いて立ち上がった。
「でも、やっぱりすごいっすよ。人を移動させるんすよ? 神様みたいっすね」
「神様、ね」
ミロクは空を見上げた。白く薄い筋雲が、風に乗ってゆっくりと流れている。
「もし、レンリが神様だとしたら、どうするんだ?」
ミロクの突拍子もない質問に、フェイファはしばらく「うーん」と唸った後、「どうもしないっすね」とあっけらかんとして答えた。ミロクは、空からフェイファに視線を移す。
「どうもしない?」
フェイファはうなずくと、顔の前で両手を合わせた。
「普通は、お願いするんだろうけど。俺、特に願い事無いっすもん。傍にはウーがいるし、今の仕事にも満足してるっす。もっと上手になりたいとは思うんすけど、自分の腕は自分で磨かないと」
己の二の腕を叩くフェイファに、ミロクは破顔した。
「そんなだから、レンリに信用されるんだな」
「そうっすかね?」
「ああ。しっかし、村に祠みてーなもんまであんのにな」
「んー、じーちゃんやばーちゃんの中には信心深い人もいたっすけどね」
フェイファはいまいちだったようで、目を泳がせながら後頭部を掻いている。毒が蔓延する前から、既に信仰心が薄れていたことをミロクは理解した。ビーショウも、フェイファと似たようなものなのだろう。
レンリが聞いたらどう思うのか。想像して、ミロクは「くくっ」と笑い声を漏らした。喜ぶのだろう、彼女なら。
「信心深かろうが深くなかろうが、なるようにしかならねえからな。さて、そろそろ帰るか。観測区まで送るぞ」
「そうっすね。明日は気合入れて、みんなを助けにいかないと」
フェイファは笑顔で、手のひらに自身の拳をぶつけた。不思議と心を前向きにさせるような笑顔だ。
「ああ。そうだな」
ミロクも笑うと、運転席に乗り込んだ。
ミロク達が乗る船は、約束の時間より十五分ほど早く着岸した。船を固定して岸に移動すると、既に迎えの一団が待っていた。
背後に軍服をまとった集団を並べた男が、ほほ笑む。
「わざわざご足労いただいて、すまないね。約束通り、足は用意してある。ヒカは、実家の別荘にいるようだ」
「ついでに、帰りの船も貸してもらえるとありがたい。あいにく、島には大人数で乗れるような船が無くてな」
「もちろん。既に、軍の船を手配しているよ。そちらの船も、滞在中はわが軍が責任をもって預からせてもらおう」
レンリの要求に笑顔で応じた男は、ミロク達を大型の乗用車へ乗るよう促した。黒塗りで、やたらと後部座席が長い車だ。フェイファは目を輝かせているが、ルタはうんざりだという顔をしている。以前、彼が畏まった物は苦手だと言っていたことをミロクは思い出した。ミロク自身も苦手だと自覚しているせいか、口元が引きつるのが分かった。
後部座席は最奥と側面に長椅子が設置されていて、全員が中央に顔を向けるようになっている。後部座席と運転席の間には黒い仕切りがあり、互いに見えないようになっている。車内での打合せを想定してのことかもしれない。
最奥には男が陣取り、右奥からレンリとルタ、左奥からミロクとセハルとフェイファが座った。
男は、セハルの顔をまじまじと見ると、口を開いた。
「彼は、ドゥルガーの戦神ではないのかい? たしか、雷神といったかな。風神だって、再利用しているのだろう?」
やはり、パーパには島の情報が筒抜けだということが分かる。しかし、レンリは動揺する素振りさえ見せず、首を横に振った。
「風神の方はオリジナルだ。こいつは確かに雷神だが、オリジナルの記憶が強いようだ」
「雷神のオリジナルは、先の戦で亡くなったのだったかな?」
セハルの瞳が、わずかに揺れる。レンリはちらりと彼に目線をやったが、すぐに男に移した。
「そうらしいな。こいつを見ていれば分かるが、戦には向かん性格だ。おまえと違って、随分と素直な奴だぞ? シエン」
「僕だって向いてないさ。元々向いている人間の方が珍しいんだ。ただ、環境が人を変えてしまうだけだ」
「そうだろうな」
肩をすくめる男に、レンリは小さくため息を吐いた。
そこから、車内に沈黙が落ちた。エンジンの音と揺れの中を、車は進んでいく。居心地の悪さから、ミロクは目だけで周囲を見回した。
真向かいにいるレンリは腕を組み、両目を閉じている。ルタは男と目を合わせないためか、ずっと向かい側の窓の外を見ているようだ。セハルとフェイファの姿はよく見えないが、どことなく落ち着かない気持ちでいることは気配で察せられる。
シエンは、と男の方に視線を移したところで目が合った。ミロクの両肩が小さく跳ねる。対して、シエンの色素の薄い目は細められた。
「君も久しいね、ミロク。まだ色は戻らないんだね」
シエンの言葉に、ミロクは髪を数本摘まみ上げた。肩に着くほど伸びた髪は、相変わらず枯れた藁のように色素が薄く、乾いている。
「これはもう、戻らない。たぶん」
「そうか。それは残念。でも、昔より良い表情になったよ。何が影響したかは知らないけどね」
「良い、表情?」
ミロクが問い返しても、シエンは答えなかった。既に興味を無くしたかのようにミロクから視線を外して、鼻歌を歌いだした。テンポが速く、妙に音階が行ったり来たりする歌だ。かと思えば、急に速度が落ち、おどろおどろしい歌になる。
「おい。なんだ、その歌は?」
耐えられなくなったのか、レンリが尋ねた。
「んー? 僕の即興だよ」
シエンは横目でちらりとレンリを見ると、また歌いだした。今度は、ミロクも知っている曲だ。昔、テレビで流れていたキノコの広告だ。次いで、他の食材や電化製品の広告に使われていた曲が流れる。その独特な選曲に、レンリは呆れた目をして彼を眺めていた。
目的の別荘は、港から車で二時間ほど走った場所にあった。広葉樹が群生する山の中腹辺りに、石造りの西洋の城のような建物が建っている。尖った三角帽子状の屋根は島にもドゥルガーにも無いため、フェイファは大はしゃぎだ。「写真を撮って欲しいっす」との要望に、ミロクはしぶしぶ別荘にカメラを向けた。
その間に、シエンは使用人にヒカを呼びにやっていた。着飾った彼女は満面の笑顔で、彼を出迎える。まさか、その他大勢がいるとは思わなかったのだろう。彼女は長い睫毛に縁どられた大きな目を更に開き、ミロク達を見回した。
「やあ、ヒカ。急に大勢で押し掛けて、すまないね。早速だが紹介しよう。ミロクにルタにフェイファ。戦神の顔をしているがセハルという名の少年と、レンリだ」
「レ、ンリ……あなたが」
ヒカはミロク達には目もくれず、レンリを睨みつける。そんな彼女の腕を、シエンが軽く引いた。
「君がレンリを見つけたいがために、わざわざ招き寄せたお嬢さん方を迎えにきたよ。中へ入れてくれるよね?」
疑問形ではあるが、否とは言わせない響きがあった。察したヒカは消え入るような声で「もちろんでございます」と言いながら、壁際へと身を寄せる。
「さあ、レンリ。行こうか」
シエンはレンリに声を掛けると、ヒカには見向きもせずに歩いていってしまう。俯いたヒカは、レンリが前を通り過ぎるまで、握った手を小刻みに震わせていた。
「ちょっと気の毒っすね、あの姉ちゃん」
最後尾に着いたヒカを、フェイファがちらりと振り返る。
「同情はする。だからと言って、人をさらうのはダメだ」
きっぱりと言うセハルの眉尻も下がり気味だ。セハルの前を歩くルタが、重い息を吐いた。
「暴走しないと良いけどな」
ミロクはヒカの様子を窺った後、距離を置いて前方にいる二人に目を向けた。彼等は後ろにいる連中のことなど、まるで意に介していないようだ。
昔から、周囲の空気をまるで気にしない二人ではあった。レンリは元々、全ての人間に対して、どこか距離を取っている風だ。対してシエンは、レンリにばかり執着しているようだった。離れて暮らす今も、変わりはないらしい。
島の女達が集められた大広間は、扉を硬く閉ざされていても、そこだと知ることができた。外からつっかえ棒を設置してあるし、中から通常の部屋ではあり得ない音がする。戸を強く叩く音や、助けを求める声だ。
「とりあえず、元気ではいるようだね」
シエンは笑うと、つっかえ棒を外した。「今、開けるよ」と中に注意を促してから、扉を開く。真っ先に顔が見えたのは『シショク』の三人娘で、「やっぱりな」とミロクは天井を仰いだ。どこに行っても、彼女達はかしましい。
「ミロクくんっ」
真っ先に部屋を飛び出したのは、ホウガだった。長い髪を揺らし、真っ直ぐにミロクの胸に飛び込んでくる。受け止めたミロクの襟元を両手で掴んだ彼女は、勢いよく顔を上げた。
「レイちゃんが連れ去られたっ」
思わぬ報告に、ミロクは目を見開いた。ヒカを振り返って睨みつけると、彼女は何度も首を横に振った。
「わ、私ではありません。急に、こちらにルテン様がいらして。それで」
「ルテンだと?」
ミロクの毛が逆立つ。ヒカは短く悲鳴を上げて、後ずさった。
ルテンは、ヒヨクを一方的にライバル視している科学者だ。純粋に技術で競争すれば良いのだが、彼はヒヨクの技術を盗みだし、ヒヨクをいかに陥れるかだけを考えているらしい。レイだけを連れ去ったことを考えても、碌なことをしないと容易に想像できる。
「落ち着け、ミロク」
ミロクとヒカの間に立ったレンリは、そのままシエンを見た。
「ルテンの居場所は分かるか?」
「すぐに突き止めよう。こちらが迷惑を掛けている以上、全員を無事に帰さないとね」
シエンは通信機を取り出すと、ルテン探しをするよう指示をし始める。
「ルタとフェイファは、ホウガ達を外へ案内してやってくれ。外にいる軍人に声を掛ければ、港まで送ってもらえるだろう」
「分かった。俺が先に行って、声を掛けてこよう」
一足早く、ルタは廊下を歩いていく。フェイファは部屋の中に留まっている女達を見ると、笑って手を振った。
「じゃあ、みんな。俺に付いてきてほしいっす」
フェイファが歩きだすと、次々と女達も部屋を出てくる。三十人ほどいるだろうか。ヒヨクの身勝手な装置のおかげで、研究所の上階に所属する人間の姿は無い。疲れた顔をしている者もいるが、全員怪我は無いようだった。
ミロクは、いまだにつなぎを掴んだままのホウガを見下ろす。
「ホウガも、みんなと一緒に行け」
「そんなこと言って。ちゃんと冷静でいられるの?」
眉を吊り上げるホウガに、ミロクの目が思わず泳いだ。レイのこととなると、自分を見失う時があるのは自覚しているのだ。
「自信は、無い。が、セハルとレンリがいるから、なんとかなるだろ」
ふと、セハルと目が合った。セハルは驚いたように、こちらを見ている。「セハル?」と問うと、はっと我に返ったセハルは力強くうなずいた。
「俺がいるし、ちゃんとレイは助けてくる。だから、安心してほしい」
ホウガに話す顔は、どことなく嬉しそうだ。ホウガは「ミロクくんが、レンリさん以外の人をここまで信頼するなんて」と、訳の分からないことを小声で呟いている。
「分かった。先に行って待ってるから。くれぐれも気を付けてね」
彼女は小さく手を振ると、足早にフェイファ達の後を追った。
「ったく、なんなんだ」
ミロクは乱暴に髪をかき上げる。ふと、視界の端で刃物がきらめくのが見えた。
「レンリッ」
両手にナイフを持ったヒカが、ホウガ達を見送るレンリの背後に迫る。ミロクの呼び声で、レンリが振り返った。
刃物を視界に捉えたレンリの瞳が、五色の光に揺らめく。と同時に、ナイフの切っ先が赤く光り、真っ赤な蓮の花びらへと変わった。見る間に光は柄まで広がり、花びらとなって散っていく。
赤い輝きはナイフだけに留まらず、ヒカの手にも移った。
「ナイフを放せっ」
「だめ。放せませんっ」
ミロクの声に、ヒカは恐怖で顔を強張らせながら首を横に振った。放せないのは、自分の意思ではないようだ。指が、手首が、花びらへと変わっていく。
助けに入ろうとしたセハルの腕を、ミロクが掴んで止めた。
「待て。おまえまで花びらになるぞ」
「だけど」
言い募ろうとするセハルを片手で押さえたまま、ミロクはポケットに入れっぱなしになっていたリキッドの空き瓶をヒカの手元に投げる。瓶はヒカに振れた途端に赤く輝き、蓮の花弁となって散ってしまった。
「もう、どうしようもねえ」
「シエン様っ」
ミロクの言葉が聞こえたのだろう。悲痛な表情を浮かべて、ヒカはシエンに助けを求めた。
対して、シエンは微動だにしなかった。ヒカの肩が赤く輝いても、腕が花びらとなって散っても、表情を動かすことはなかった。
「シエンさ」
ついに全身に赤い光が回ったヒカは、蓮の花びらへと姿を変えてしまった。ミロクとセハルは、呆然とヒカがいた場所を見つめる。大理石の床に、赤い花びらの山ができていた。出入り口から来るそよ風で、山の一部がむなしく揺れている。
レンリさえ黙って花びらの山を見つめる中、シエンだけが違った。
「レンリ。君は、いったい何者だい?」
レンリを見つめる彼の表情に、哀しみの色は一切ない。さすがに、レンリも眉をひそめた。
「言うことは、それだけか?」
「責めてほしいの? そんなことをしても、ヒカは帰らないよね? それくらい理解しているよ」
首を傾げるシエンの言葉には、非難する色もない。ただ純粋に、疑問を発しているだけだ。
「それに僕の興味は、君の存在にしかないんだ」
レンリはしばらくの間、信じられないものを見るような顔をしていた。しかし、諦めたように息を吐く。
「一刻も早く、レイを見つけるべきだな。私が何者なのかは、道すがら話してやる」
その言葉を聞いて、シエンの顔がぱっと輝いた。
「分かった。そういうことなら、さっそく車に乗ろう。車の中の方が話しやすいだろうし、連絡がきたらすぐに動けるからね」
ミロク達に背を向けて建物の外へと向かうシエンは、幼い子供のように無邪気に見える。彼に見向きもされなかった蓮の花びらを、セハルが一枚摘まみ上げた。
「やったことは許せないが、浮かばれないな」
「ああ。せめてもの、になるが。シショクの奴等に頼んで、瓶詰か香り袋にでもしてもらうか」
ミロクの提案に、レンリがうなずく。
「自室に置くよう、シエンに言おう。あんな男でも、ヒカとしては傍にいたいのだろうからな」
山の前に膝をついたセハルは、丁寧に花びらを両手で掬った。掬いきれなかった花びらを、ミロクが集めて持ち上げる。それでも、なお掬いきれなかった花びら達が風に揺れている。ミロクの手の中にある蓮の花びらは大きく厚みもあるが、それでも軽い。
建物の外に出ると、すぐにフェイファが駆け寄ってきた。
「ミロク兄。セハル君も。酷い顔してるっすけど、なんかあったんすか?」
「ああ、いや。ホウガは、いるか?」
ミロクのごまかしを追及することなく、フェイファは島の女達の集まりを振り返ると「ホウガのねーちゃーん」と大きく手を振る。誰かと話していたらしいホウガは、人を押し避けて小走りで近寄ってきた。
「なあに、フェイファくん?」
「ミロク兄が、用があるって」
「ミロクくんが?」
ホウガはきょとんとミロクの顔を見上げた後、手元を見た。次いで、セハルの手も見ると瞬いた。
「二人とも、どうしたの? 花びらなんて大事そうに持って」
「ああ。これで、瓶詰なり何なり作ってもらえねえかな」
ホウガの目が、ますます丸くなる。らしくないことを言っていることは、ミロク自身も自覚している。
「いいけど。作って、どうするの?」
「あいつに、くれてやろうと思ってな」
追いついたレンリが、高級車を顎で示した。既にシエンが乗っているはずだが、車外からは窓が黒塗りに見え、中を窺うことはできない。それでも何かを察したのか、ホウガは口元に手を当ててニヤニヤと笑った。
「なるほどねー」
「そういうことではない」
レンリの眉間に皺が寄るが、「またまたー」と言いながらポケットからハンカチーフを取り出したホウガは、まるで気にしていない。彼女が広げた大判のハンカチーフは、柔らかな菫色だ。
「それも、ホウガが染めたのか?」
「うん、そう。この色大好きなの。ミロクくんにも似合いそうね」
右肩に、柔らかい布が当てられる。その色はミロクに複雑な思いをもたらしたが、「そうか?」と聞き返すだけに留めた。うなずいたホウガは、再びハンカチーフを広げなおす。
「包んで持っていくから、この上に乗せて」
言われるままにミロクが花びらを乗せると、横からセハルも手を伸ばした。蓮の花びらの山を、ホウガは潰さないよう柔らかく包み込む。
「日持ちさせたいなら、ただ瓶に詰めるより乾かした方が良いかも」
「その辺りは、ホウガに任せる」
「分かった」
ホウガは大事なものを抱えるように包みを持つと、シショクの仲間たちの元へ帰っていった。二言、三言話した後、こちらを振り返る。見習いの二人が手を振るので、ミロクも振り返してやった。
「さっき、こっちの王様が、みんなに先に島に帰ってるように伝えてたっす。ミロク兄達は、別に用があるからって」
「その方が良いだろうな。みな、早く帰りたかろう。ルタとフェイファも先に戻れ。観測区は浜に近いが、それ以外は足が必要だ。誰かしら捕まえろ。それに、あの軍艦では浜に直接寄せることはできん。小舟を出すことになるだろうから、乗り降りを手伝ってやってくれ」
「分かったっす」
レンリの指示にフェイファは大きくうなずくと、ルタのところまで走っていった。身振り手振りを交えながら、指示を伝えているのだろう。手足を動かすフェイファにルタがうなずきながら、時折こちらを見てくる。
「さて。我々も車に乗り込むか。あいつがお待ちかねだし、早いところレイを助けてやらねばならん」
「そうだな」
ミロク達はフェイファとルタに手を振ると、シエンが待つ車に乗り込んだ。最奥に座る男は、優雅に足を組んでいる。
「花びらを加工したものを後で送る。部屋に置いてやれ」
「ふうん。良いけど」
シエンは組んでいた足を解放すると、腰を下ろしたレンリに顔を近付けた。
「そんなことより、話してくれるんだよね?」
目を輝かせるシエンの肩を、レンリは鬱陶しそうに押して遠ざける。向かいに座ったミロクとセハルをちらりと見ると、口を開いた。
「私は、何者でもない存在だ。何千何億とも知れぬ『世界』と名の付いた箱庭を見守り、興味が湧けば人間でいう髪の毛一本をその世界へと送り込む。私がこの世界に来たのは、人が人でないものを造り上げようとしていたからだ」
「何者でもない?」
シエンの問いに、レンリはうなずく。
「実体も無ければ、名も無い。思念体、とでも言おうか。人は、私を好きなように名を付け、崇めるが。『レンリ』という名も、人でないものを造り上げた男の名に沿ったものだ」
「ヒヨク博士だね」
シエンの確認に、レンリは再びうなずいた。
「パーパの研究所に入り込みはしたが、特にこれといって何もしていない。基本的には世界に干渉せず、ただ見守るのみを通す。ただ、パーパとドゥルガーが戦争になり、激化していく中で思わぬことが起こった。戦場のど真ん中に、突如そいつが現れたのだ」
レンリの瞳が、真っ直ぐにミロクを捉える。
真っ白であるはずの研究所の壁が、薄い紫色に染まる。レンリが窓の外を見ると、世界は紫色の光りに包まれていた。窓の近くにいた研究者からざわめきが広がり、居合わせた者が次々と窓の傍に寄っていく。
窓と研究者達とを遠巻きに見ていたレンリを、部屋に入ってきたシエンが呼んだ。
「戦場で何かが起こったらしい。カメラの番号を指示するから、モニターに映してくれるかい?」
「分かった」
レンリは室内で一番大きなモニターを立ち上げると、シエンの指示通りにキーボードを打った。真っ黒だった画面が、輝かしい紫色へと変わる。最前線にいる部隊が持たされたカメラのようだが、人も車両も視認することができない。
窓に寄っていた研究者達も、モニターの前に集まってくる。みなが興味津々で画面を見ている中、レンリだけは目を逸らした。
「強い光だな。あまり見続けると目が焼けるぞ」
「いや。もう治まりそうだよ」
シエンの言葉にレンリが画面に視線を戻すと、徐々に眩さが消えていった。窓の外を確認しても、世界を染めていた紫色が霧のように薄れていっているのが分かる。
「とりあえず、兵士達はみんな無事のようだけど」
人も車両も、まだ影ではあるが確認することができるようになった。それと共に、僧衣をまとった男の姿も見えてくる。
「彼は、誰だろうね? なぜ戦場に,、僧侶なんているんだろう?」
問うシエンは、楽しそうにモニターを眺めている。周囲を囲う重火器と僧侶という不釣り合いな組み合わせに、研究者達も訝しむように画面を見つめている。
離れている場所でも怪訝に思っているのだ。現場に居合わせた者達に動揺が広がるのは当然のことなのかもしれない。耐えきれなくなった兵士の一人が、僧侶に向けて銃を放った。銃弾は、僧侶の左肩を貫通したように見えた。
だが、彼は倒れなかった。
兵士達の間に、更なる動揺と恐怖が伝搬していったようだ。四方八方から、僧侶は撃たれた。それでも彼は倒れずに、静かにその場に佇んでいる。
「何者だ、あいつは?」
「化け物か?」
研究所内も騒がしくなり、あちこちから憶測が飛び出す。レンリは横目で、室内で最も冷静でいるらしいシエンを見た。
「あいつを保護した方が良いんじゃないか?」
「興味があるのかい? レンリ」
「無い、と言えば嘘になるだろうな」
「君が、そう言うのなら。ドゥルガーに連れていかれても、厄介なことになりかねないしね」
ふふっと笑ったシエンは、通信機を取り出した。
「こちら、シエン。第十三部隊に告げる。僧衣の男を保護せよ。必ず、父ではなく、僕のところに連れてくるように」
果たして、男の保護は想像以上に速やかに行われたらしい。というのも、男はただ立ち尽くしているだけで、抵抗らしい抵抗も見せなかったというのだ。
保護された男は、翌日にはシエンの前に突き出された。場所は、光を見た時と同じ、研究所の一室。レンリはもちろんのこと、ヒヨクや他の研究者達も居合わせていた。男の姿を改めて見た彼等は、一様に目を瞬かせた。纏う僧衣も、目や髪の色も、濃淡はあれど全てが紫色だったのだ。
「彼こそ『シエン』といった感じだね」
思わず、といったようにシエンが苦笑する。レンリは首を傾げた。
「異国の言葉か?」
「紫色の炎のことだよ。炎色反応で、最も高い温度のことさ」
「僕には、青色に見えるけど。ああ、いや、彼のことじゃ、なくて」
珍しく口を挟んだヒヨクは、首がどうにかなってしまうのでは、と疑うほど勢いよく横に振った。シエンが彼の旋毛を抑えると、首の動きがピタリと止まる。愉快そうにシエンは笑った。
「博士は、僕と同じ種類の人間なんだね。興味があることにしか知識を得ようとしない。色というものはね、全ての人が等しく見えているわけではないんだよ」
「そ、そうなんだ」
長い袖を口元に当て、上目づかいでシエンを見るヒヨクは幼子のようだ。そんな彼にうなずいてから、シエンは全身紫色の男を見た。
「さて。君、名前は? 突然、戦場に現れた理由についても話してもらいたいのだけど」
男は、問いに応じる気はあるようだった。しかし、口から出てくるのは「あ」だの「う」だの言葉にならない声ばかり。これには、シエンも目を丸くした。
「口がきけないのか?」
「場に慣れていないだけではないか?」
小首を傾げて男を観察していたレンリは、「どれ」と言って彼の前に立った。それから、手のひらを男の口の前にかざした。
「落ち着け。ただ、声を並べていけば良い」
男は一度瞬きをすると、口を開いた。
「なまえはない。なぜあそこにいたのかもおぼえていない」
「良い子だ。おまえは綺麗な目の色をしているな」
レンリはかざしていた手を下ろすと、男の目を覗き込んで笑った。
「極楽浄土でも見てきたのか?」
問いに、男の反応は無い。研究者達は「何を言っているんだ?」だの「極楽浄土とはなんだ?」だのと囁き合っていたが、レンリは全て無視した。
「極楽浄土、か。かつての宗教の言葉だったかな」
シエンが呟いたが、それさえも無視して、ただ笑みを深める。
「では一つ、私がおまえをこの世界に縛り付けてやろう。これからは『ミロク』と名乗るが良い」
「みろく……?」
男は無表情のまま反芻した。レンリは、満足そうにうなずく。
「そうだ。名を持てば、おまえはこの世界から認識されるようになる。おまえの世を生きてみろ」
やはり研究者達が訳が分からないとざわめく中、シエンだけが愉快そうに二人を眺めて笑っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます