第2話
朝のざわざわしている教室で、おまじないの結果発表。お願い事はみんな恋についてだったから、どんな事が聞けるのかドキドキする。
「せーの!」
「見れなかった!」
「見れ――」
えっ!
3人とも夢見てないの!?
友達の言葉を聞く事に集中して、返事がおくれた。でもよかった。最後まで言い切らなくて済んだし。わたしだけ見れたとか、なんか嫌だし。
「鈴、もしかして成功した?」
「ううん。成功してないよ!」
みんな成功してたら話せたけど、この話はこれでおしまいだね。
と思ったのに、会話が続いた。
「条件がむずかしいよねー。相手も同じ事をしてないといけないとか」
「なにそれ?」
そんな事、書いてあったっけ?
わたしの知らない情報が、友達の口から知らされる。
「あれ? 鈴ちゃん、あのサイト、最後まで読んでなかったの? なんかね、恋愛系だけは相手も短冊を作って枕の下に入れないとダメなんだって。そうじゃないと、成功したとしても変な夢になっちゃうんだって」
「そうなの!?」
だから聞こえない部分があったり、わたしだけ、けむりの中にいたのかも。
原因がわかったけど、解決策がない。
でも、それならまた夢を見ればいいんだ。
このおまじないのすごいところは、成功した短冊は何度でも使えちゃうところだから。
***
やった! 夢の中だ!
またけむりの中だけど、今日も成功。すごいね、おまじないって! わくわくした気持ちのまま、白い世界をパジャマ姿で歩き回る。
お兄さん、どこだろ?
すぐに会えたらいいんだけど。
探す時間がもったいない。だから走る。
濃いけむりを探してみる。今いる場所もけむりだらけでよくわかんない。
その時、けむりが薄くなったのがわかった。けど、走っていたわたしはぼよーん! と柔らかいものにぶつかって、はね返った。
「きゃあ!」
「おねーさん、大丈夫!?」
あっ。お兄さんだ!
勢い余って尻もちついちゃったけど、お兄さんに会えたから平気! それに夢だから、痛くないし。
そんなわたしの目の前に、真っ白なけむりが近づく。
「立てる? 怪我ない?」
「大丈夫です」
心配してくれるお兄さんの優しい声に、胸がキュンってなる。でもやっぱり姿は全然見えなくて、悲しくなる。
「今日は急ぎの用でもあるんですか?」
お兄さんがそう言えば、ものすごいふわふわなけむりがわたしの手を引いてくれる。
ぬいぐるみっぽい。
人って感じじゃないから変だけど、これはこれで安心する。ぎゅっとにぎっても柔くて、立ち上がりながら笑顔になった。
「もしかして、僕に会いに来てくれましたか?」
「へっ!?」
お兄さんの声が耳元で聞こえてドキドキが止まらない。それなのに続けて、ふっと笑う声がした。
「おねーさんの反応、可愛すぎ」
「かかか、かわいい!?」
クラスの男子にだって言われない事を男の人から言われて、恥ずかしくてふるえが止まんない。
大人ってこんなこと、平気で言うの!?
無理。無理無理。わたしに恋愛は早すぎたんだ!
だけどお兄さんの呟きが聞こえてきて、ドキドキが少しだけ落ち着いた。
「……ちょっと、心配なんだけど」
「えっ?」
「いや、こっちの話。で、今日はどうされますか?」
「どうって……」
急にお兄さんがしっかりした話し方になったけど、言われた意味がわかんなくて返事ができない。
「この前おねーさん、――――じゃないですか。だからそれの調整かなって思って」
また聞こえないよー!
どうしたらいいの!?
訳がわらなくて、だまる。でも、お兄さんが話しかけてくれた。
「それじゃ僕にお任せって事で、いいですか?」
「……はい」
もうわかんないから仕方ない。それに夢だし、いいやと思えた。
「また僕に会いに来てもらえるように、頑張りますね」
***
「うわぁっ!!」
あせって大きな声を出したら、自分の部屋だった。
でも耳には、お兄さんの低い声がはっきり残ってる。
あのお兄さんの声は、反則!
ドキドキする胸に手を当てて、倒れるようにベッドへ転がった。
***
お兄さんのヒントが少しでも欲しくて、何回も短冊を使った。でも、なんにもわかんないまま。ただ、すごく優しい人なのだけはわかった。
けど、そのせいで寝不足になって、親と友達から心配されちゃった。クマがね、ひどいんだって。
理由を聞かれたけど、言えない。
だって、夢で会える人が好きとか、頭おかしい子だと思われちゃう。
それに、おまじないは失敗したって言っちゃったし、誰にも相談できなかった。
***
「今日で最後にしようか」
わたしはお兄さんに相談してみた。どんなおまじないをしたかも話した。
お兄さんはバカにしないでちゃんと最後まで聞いてくれた。
それなのに言われたのは、この言葉。
「で、でも……」
「こうして会えるのは俺も嬉しいけど、鈴ちゃんが心配だから、今後一切やめてほしい」
お兄さんが素で話してくれるようになって、名前も呼んでくれるようになったのに、終わりにしたくない。
でも、もしかしたら、わたしが本当に12歳だってわかったから、子供の相手なんてしたくないのかも。そう思ったら、泣いてしまった。
「わっ、わかり、ました……」
「ごめんね。泣かないで」
そっと、ふわふわなけむりが頭をなでてくる。
すると、それに負けないぐらいの柔らかい声が聞こえた。
「それにさ、運命の人ならどんな事があっても会えるから。次は夢じゃなくて、現実で会おう。約束」
わたしの小指に、お兄さんのけむりの指が優しく絡まってくる。
「はい……」
返事をするのが精一杯で、好きって言葉を言えなかった。
こうしてわたしは、お兄さんの夢を見るのをやめた。
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