七夕のおまじないに願う事

ソラノ ヒナ

第1話

 どうしてみんな、こんなに早く付き合い始めるんだろう。

 わたしも興味だけはある。漫画とか読んでるとあこがれる。

 でも、中学生になる前に告白しなきゃとか、その気持ちはわかんない。そこまで好きな人、いないから。

 だから不安になる。

 わたしにも運命の人って、いるのかな?


 そんな事を考えながら、眠る準備をする。


 成功すればそれがわかる。こんなの信じるとか子供っぽい。でもドキドキする。やっぱり期待しちゃうから。

 だからわたしは、七夕のおまじないにかけるんだ!


 おまじないは、いたって簡単。

 用意するのは、夢見草ゆめみぐさが描かれている短冊を2枚。要は、桜の絵があればいいみたい。


 そして短冊に願い事を書く。もう1枚には、願い事が叶いますように、と書く。

 あとは願い事を書いた短冊の上に、願い事が叶いますようにと書いた短冊を貼り付ける。

 願い事を他の人に見られたら失敗。だから丁寧にのり付けした方がいい。

 これを、七夕の朝から笹に飾る。

 そしてその日の夜、眠る前に枕の下に短冊を入れれば準備完了!


 成功したら、願いについての夢を見れるんだって。失敗したら夢は覚えていないらしい。

 あと、夢を見る時間は決まってて、3時03分から3時33分までの間しか見れないんだって。


 お願い。

 わたしの運命の人とはいつ出会えるのか、教えて!


 ふるえる手で、短冊を枕の下へつっこむ。

 心臓がさっきよりもドキドキしてるけど、横になって目をつぶる。夢が見られますようにって、祈りながら。


 ***


 ここは……?


 気づけばわたしは、白いけむりの中にパジャマ姿で立ってた。


 夢、だよね?

 ま、まさかっ!!


 夢の中で夢って思うのも変だけど、それどころじゃない。これはきっと、七夕のおまじないが成功したんだと思った。


 ヒントがあるのかな?

 それとも、本人がいたりして……。


 周りを見ても、白いだけ。だから探すために歩き出す。

 こんな事が起きるなんて、漫画の主人公になった気分。だからつい、理想の男の子を考えた。背が高くて王子様みたいな、優しくてかっこいい人、とか。


 どうしよう……。

 なんでパジャマなの?


 すごい男の子を想像したから、自分の格好が恥ずかしくなった。運命の人がここにいた時、せめて髪の毛はきれいに見えるように、急いで手でとかす。

 その間に、けむりが少なくなった。


「おねーさん、その髪、めっちゃ綺麗ですね!」


 えっ!?


 突然後ろから聞こえたのは、明るすぎる男の人の声。振り返ると、濃いけむりだけがあった。


 わたしの、運命の人?


 うれしいけど、顔が見えない。だから近づいてみる。でも変だ。どうして向こうはけむりの中にいるのに、わたしが見えるんだろう?

 だからそのまま質問した。


「あの、けむりの中にいるのに、わたしが見えるんですか?」

「煙? そんなのないけど。それにここ、――なんで、タバコ吸う人いませんし」

「えっ? どこですか?」

「――。あ、もしかしてここ、初めてですかね?」


 えっ?

 なんで肝心なところが聞こえないの!?


 どうやら男の人には別の場所に見えているみたい。でも、その言葉だけ消されたみたいに聞こえない。


 どうしてわたしには、けむりしか見えないの?


 わからない事ばっかりだけど、そろそろ質問に答えなきゃ。


「……はい。初めてです」

「初めてだと驚きますよねー。僕もね、驚いたんですよ。どう見たって――なのに、――とか」

「は、はぁ……」


 まただ。

 なんでなの!?


 聞こえなくて、適当にうなずく。


 声の感じからして、年上だよね?

 それとも、出会う時の年齢、とか?

 あとわたしの事、お姉さんって言ったよね?


 不思議な事だらけだけど、この人が本当に運命の人ならもっと聞き出さなきゃ。


「あの! お名前はなんていうんですか?」

「僕は――――っていいます」


 名前まで聞こえない!


 意味わかんない。でも、名乗ってもらったのに名乗らないのは失礼だよね。だからすぐ返事をした。気になった事と一緒に。


「わたし、真鍋まなべすずっていいます! あとお姉さんって、そっちの方がお兄さんじゃないですか?」

「えっ。同い年ぐらいですよね?」

「同い年? わたし、12歳ですよ?」

「12!? うっそだろ! 世の中狂ってる!」


 狂ってる!?


 大きな声を出したお兄さんにびくっとしちゃったけど、なんとか声を出せた。


「なんでそんな事言うんですか?」

「だって、どう見たって大人だし。今の子供って発育良すぎない? 俺、ロリコンじゃないのに、なんでだ……」


 話し方が変わったお兄さんが『俺』とか言い出した。けど、こっちが素なのかな? とか思ってたら、けむりが動いた。でもこれ、お兄さんが、の方が正しいのかも。


「背とか、高すぎじゃない?」


 目の前のけむりがゆれてる。声しかわかんないけど、わたしの頭の上が白くなったから、身長の確認でもしてるのかな? とか、考えてみる。


「わたし、145センチですけど?」

「またまたぁ。あっ、おねーさん流の冗談とか? だって確実に160センチはありますよね?」


 160!?


 いつの間にわたしは背が伸びたの!? と、自分を見る。だけど、いつも通り。


 もしかしてわたしの姿、お兄さんには出会う時の姿で見えてる、とか?


 それなら意味がわかる。だからこれ以上、今の自分の事を話すのをやめた。

 でもこれで、はっきりした。


 160センチぐらいになったら会えるんだ!


 悪い人じゃなさそうで安心した。

 すると、わたしの髪をけむりのお兄さんがさわってきた。


「僕をからかうのはここまでにして下さいね。綺麗な髪のおねーさん」


 間近で聞こえた低い声に、ドキッとした。


 ***


 え……?


 気づいたら、自分の部屋。

 夢をしっかり覚えているせいで寝た気がしないけど、急いで時間を確認する。


「3時、34分だ」


 3時03分から3時33分の間、わたしは確かに運命の人と夢の中にいたんだ。

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