第5話 九里の国大名 九里秀平02

 虎丸のあとを継いだのは、息子の猫丸。

 こいつは希代のうつけと聞いている。

 自分の子飼いの部下を集めて、遊びまわっているらしい。

 あの猛将の息子のくせに戦争が嫌いで、まだ初陣もすませていない。

 とにかく、因幡の国の求心力は限りなく弱まっている。

 有力な武将の中にも、因幡から離反する者が相次いでいる。

 その武将を九里に取り込んでいる。

 因幡四天王のうち2人まではわたしたちの陣に引き込んでいる。

 この2人も私と同じで虎丸に征服された国の大名だった。

 彼らも虎丸が恐ろしくて付き従っていた者たちだった。

 それゆえ、虎丸がいなくなったとたん因幡に反旗を翻した。


 猫丸はそれを簡単に許したのだった。

 彼らの造反に対して、虎丸が人質として取っていた妻や子供を返したのだ。

 本当に噂どおりのうつけだ。

 そんなことをしたら自分たちが攻められるとも考えずに。

 この乱世に恩なんて感じる者なんていないのだ。

 そんなことをしていたら自分の家人さえ守ることはできない。

 自分の国を守るためなら、恩を仇で返すなんてことは日常。

 戦国の世とはそういうものなのだ。

 無能だと思えば、自分の主人でさえ弑する。

 下剋上の世なのだ。


 因幡は終わったな。

 あとは、因幡の国が切り取られていくのを見るだけ。

 しかし、因幡の国は海山に面した豊な国だ。

 その隣国に九里は位置する。

 だから、切り取られる前に我らが頂くとしよう。

 それが因幡の国にとってもいいことだろう。

 その他の国は獰猛な野獣ばかりだ。

 そんなやつらが因幡を手に入れたら食い散らかされるだけだろう。

 

 それにしても虎丸のやつ。

 本当に運がない。

 このような乱世では運も能力のひとつなのだ。

 たぶん、神はあいつのような下品な脳筋より私を選んだのだろう。

 神よ。わたしはあなたを後悔させない。

 わたしがこの世界を統一して平和で文化的な世にしよう。


 そうであれば、善は急げだ。

 いくら因幡に近いからといっても、スピーディにやらないとならない。

 そう、相手を舐めてはいけない。

 あの鬼神がいないといっても、まだ残党はのこっている。

 あの国の軍は千人もいないだろう。

 九里の軍は5万。

 普通であれば、5千も派遣すれば十分だろう。

 だが、それは素人考えだ。

 この戦は一瞬で終らせないといけない。

 因幡の国を無傷で手に入れなければ意味がないのだ。

 だから、全軍で当たる。

 5万対千、相手はすぐに降伏するはずだ。

 わたしは、九里の幹部たちを呼び出し、わたしの作戦を伝えるのだった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る