乱世だけど呪いで猫ちゃんにされたので惰眠を貪ります

PYON

第1章 猫になった若殿

第1話 プロローグ 

「それで、お前はこの乱世をどう考える」

 白い服の女は目の前の少年にそう問いかける。

 この女は女神であった。

 名前をツクヨミと言う。

 女神と言っても新米女神、オオクニヌシに命じられた初めての仕事がこの少年の様子を見てくることであった。

 神たちは乱世を嘆いていた。

 

 人間同士が争いあう世界、それは神が望むものではなかった。

 しかし、神たちには人間たちを直接導くことは出来なかった。

 そう、いわば町づくりのシミュレーションゲームのようなものだった。

 できるのは、天候を操ることや預言をすること。

 そして、一番重要なのは、与する人間に祝福を与えること、害となる人間に呪いを与えること。

 神にできるのは、それくらいのことだった。

 神は基本的に世界を見守ることしかできないのだ。


「どうも考えないのだ。

 ぼくが住んでる因幡の国が平和ならそれでいいのだ」

 少年は答える。

 少年の名は因幡猫丸。

 この因幡の国を治める戦国大名であった。

 猫丸が若くしてこの国を治めることになったのは、その父因幡虎丸の急死のためであった。

 

「きさまらが戦争ばかりしているから、世の民は苦しんでおる。

 それを終わらせるには、誰かが天下を統一するしかないのだ。

 だが、それは誰でもいいというわけではない。

 世の民のことを考えられる者でないとならないのだ」


「ぼくは天下統一なんてしたくないのだ。

 この因幡の国でみんなと楽しく暮らせればいいのだ」


「きさまに大志はないのか。

 おまえの父、因幡虎丸はこの世の中を統一するために戦っておった。

 それは、私利私欲のためではなく、世の中を平和にするためじゃった。

 だが、この度、道半ばで倒れることとなった。

 その父の遺志を継ごうとはおもわないのか?」


「ぜんぜん思わないのだ」


「殿、大丈夫ですか。

 我々の知らないうちに、おかしな女が紛れ込んだと聞きましたが」

 熊のような大きな男が槍を持って部屋に入ってくる。


「この人なのだ。

 でも大丈夫なのだ」


「それならよかったのですが。

 我ら門番、このような女を紛れ込ませてしまうとは申し訳ありません。

 今、追い出しますのでご容赦ください」


「手荒なことをしてはいけないのだ。

 この人はこの世界がどうとかわけのわからないことを言う頭の残念な人なのだ。

 かわいそうだから丁重にお引き取り願うのだ」


「わかりました。

 おい、女、殿もこうおっしゃっている。

 こちらからお引き取りねがおう」


「な、なに?

 わたし、耳がおかしくなったの?

 こんな美人がいきなり天守閣に現れたのよ?

 わたしのこと、何だと思ってるの?」


「頭の残念な人なのだ。

 それから、胸も残念な人なのだ」


「どういうこと?

 わたしは、オオクニヌシさまに命じられておまえたちに祝福を与えに来た女神なの。

 その私を残念な人扱いって…

 わたしを怒らせたらどうなるかわかっているの?」

 女神は顔を真っ赤にして猫丸を睨む。


「わからないのだ。

 とにかく、ぼくはこの因幡が平和ならそれでいいのだ」


「わかったわ。

 おまえたちにこの世界はまかせられないってことが。

 このまま、他の国に攻められて滅びてしまうのね」


「それは嫌なのだ。

 因幡の国が攻められたらぼくたちも戦うのだ。

 頭と胸がかわいそうなおばさん!」


「な、なんだって!

 わかったわ。

 おまえたちみたいなバカに世界は託せないってことがね。

 おまえたちには呪いをかけてあげる。

 おまえたちみたいなバカはね。

 獣にでもなっておしまい」

 ツクヨミは手を上にあげる。

 黒い霧が渦巻き城全体に広がっていく。


 そして、霧が晴れたとき、ツクヨミの前には猫の耳をつけ尻尾を生やした猫丸が立っていた。

 

「すごいにゃん。

 しっぽが生えているにゃん」

 猫丸は自分の尻尾を追いかけてくるくるまわる。


「まあ、おまえたちにはこれがお似合いだわ。

 ついでに呪いを解く方法を教えてあげる。

 おまえたちがこの世界を救ったらもとの姿にもどれるわ。

 まあ、絶対にありえないけどね」

 そう言ってツクヨミは出口に向かう。

 そして、そのまツクヨミの姿はだんだん薄くなっていき、やがて完全に見えなくなるのだった。



「そういうわけで、呪いをかけてきたってことですね」

 オオクニヌシはツクヨミに確認する。

 そして、ため息をつく。

 ツクヨミはオオクニヌシの態度から、自分がやらかしてしまったことに気づく。

 呪いをかけたのはやりすぎだったかもしれないが、猫丸に世界を託すことなんて考えられない。


「はい。

 しかし、あいつらはダメです。

 バカすぎます。

 あいつらに世界を救うことなんてできません」

 ツクヨミは弁解する。


「わたしはこの日輪の国を統一するのは因幡猫丸くんだって思っていたんですが」


「あれはダメです。

 自分たちの事しか考えていない小物です。

 あいつが日輪を治めたら日輪の国は崩壊します」


「まあ、いいでしょう。見守りましょう。

 わたしたちにはそれしかできないのですから」

 オオクニヌシはそう言って、雲のすきまから地上を見下ろすのだった。

 

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