女子高生の旅立ち2


 突如現れた謎のおじ神の手により、異世界転移という世にも奇妙な珍事に見舞われる事となった中島咲。

 幸か不幸か、命を救ってもらう代わりにおじ神の使徒となり世界を救う大冒険に出かけなくてはならなくなったようだ。


 いや、普段から夢見がちな彼女の事だから、これはきっと幸運に連なる出来事の一端なのだろう。

 そんなちょっとだけ幸運な電波女子高校生は、現在どことも知れない真っ白な空間の中にただ一人佇んでいた。


 何やら真っ白な空間の中には現代日本のスマホを連想させる、いや、そのまんまの外見をした機器が机と椅子セットで置かれている。

 どうやらこれが異世界転移を行う前にやるべき、GPゴッドポイント獲得イベントの一端のようだ。


「お、このスマホで異世界のチート能力を獲得しろってことね? なぜか分からないけど、どう操作すればいいのか手に取るように分かるし。あのおじ神、本当に約束守ってくれたんだね~」


 どうやらこのスマホは彼女が持つ専用の神器であるようで、今まで使った事のない機種であるのにも関わらず、既に操作が本能のように理解できた。

 たぶんこれは投げ捨てたり壊そうとしても必ず手元とかに戻って来るタイプの、とんでもチートアイテムなんだと咲は瞬時に思い至る。


 趣味がネット小説の読破なだけあって、そのテンプレ推察能力は伊達ではないようだ。

 彼女の内心で評価がうなぎ上りになっているおじ神にも、この鋭利な直感があればどれだけよかったことかと思わずにはいられない。


 まあ、その代わりに彼には若い者には負けない社会経験があるからして、一概にどうとは言えないのだが。


「ふんふんふん。なるほど、初期のGPは100ポイントなのね。で、能力の習得と、そのレベルに応じて消費ポイントが変動すると……」


 咲は軽くスマホを弄りながら、ポイントを操作して頷く。

 どうやら消費するポイントは確定ボタンを押さなければ反映されない仕様らしく、確定するまでは自由に能力を仮組できるようであった。


 ちなみに能力の習得とそのレベルに応じてと彼女が言っている事からも分かるように、魔神が二つの世界を融合させたことによって少し世界の秩序に変化が起きている。

 具体的にはスキルに使用者の熟練度を示すレベルという概念が追加されたところだろうか。


 とはいえ、概念として人間種のスキルにレベル制が導入されただけであり、使いこなせるかどうかという点において今までとそう差異があるものでもない。

 今までは職業レベルに応じて成長していた熟練度が、個別に適用されるようになっただけである。


 この仕様変更によって、個人が強くなったり弱くなったりと、そういうことはないだろう。


「え~っと、私の読んでいた小説だと、確かこういうのは現地で生き残る事を意識した場合と、将来性を見越した場合の二パターンに分かれるのよね。この場合は異世界の難易度によって変わって来るんだけど……」


 現地で生き残る事を意識するのであれば、出会い頭の魔物に対応できる近接戦闘能力と回復手段、後者であれば成長補正を意識したポイント配分となるだろう。


 もしダークな異世界であれば出会い頭に速攻で殺されることを考慮しなくてはならない為、現時点で習得するべきは生き残る事を意識した配分である。

 反対に、ライトな異世界であれば転移者がすぐに死ぬような敵と遭遇する事はないだろうから、成長補正に能力を振り分ける事が出来ると言う考え方だ。


 そして今回の場合そのどちらに当てはまるのか。

 中島咲はしばし熟考し、結論を出す。


「おしっ! とりあえずダークな異世界だと断定して動こう! 何より、この成長補正も後からポイントで習得できる感じがするし」


 出した結論は、とりあえず目先の生存を目指すもの。

 GPが今後も入手できるという予感がある為、彼女としても序盤から無理をしなくてもいくらでも挽回できるという思惑があったのだろう。


 そしてそれは正解であり、真実だった。


「という訳で~、画面に映っている私のキャラを見る限り、初期装備は粗末な片手剣らしいからまず習得するのは剣術ねぇ。で、次は回復魔法ってところかな。後は連戦と強敵を避けるための隠形職を習得して、終わりっと!」


 攻撃手段と回復手段の習得。

 オーソドックスだとは思いつつも、目先の生存を優先するならベストな選択だと咲は納得する。


 ちなみに内訳は剣術レベル2、回復魔法レベル1、基本職レンジャーをレベル1で習得している。

 剣術に20ポイント、回復魔法に10ポイント、職業に50ポイントを消費しているため、残りポイントは20程。


 どうやら咲はここで全てのボーナスポイントを使い切らずに、不測の事態に備えて余裕を残しておく事を選択したようであった。


 ちなみにスキルの最高熟練度は未知数だが、100ポイントを消費してレベル10までは確認できるので、恐らくこの能力値はかなり低いものだと理解できる。

 とはいえこれ以上操作できる余地もないようであったため、一先ず能力編集を確定し、『異世界へ旅立ちますか?』の案内に大きく息を吸い込み同意するのであった。





「なるほど、リサーチ通り場慣れしているというか、頭の回転が速いこだなぁ」


 ……異世界に送り込んだ咲さんの行動をアプリの画面から眺めていた俺は、まあその位じゃないとアプリに救世主候補として選ばれないかと納得する。


 だが、やる気もあり有能な人材である彼女であるからこそ、みすみすアバターの使用者としての権利を失わせる訳にもいかない。

 中島さんのサポートをする人材は早急に送り込まなくてはならないだろう。


 そう決断した俺はいつも妖怪退治の件でお世話になっている現代ファンタジーの大家。

 日本最高峰の陰陽師である戸神家へと連絡するのであった。


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