合流1


 一度日本へと帰還した俺は、玉藻御前ととある約束を交わした後にストーリーモードを再開した。

 異世界に九尾一族を連れてきた訳ではないが、今回交わした約束はこの先の布石になるだろうと踏んでいる。


 約束の内容はいたってシンプルで、俺が再び戻って来た時に伝えた人物を探してくれ、というもの。

 問題はその人物が誰かという事なのだが、これは俺にもまだ正確なところは掴めてはいない。

 ただし、ある程度の目星はついている。


 探し人は何を隠そう、今このアプリ世界を侵略しているであろう他世界の創造神だからだ。

 勇者からマナ枯渇等のある程度の事情を聞いたからこそ分かった事ではあるが、おそらく他世界の創造神の正体は地球人で間違いない。


 そう思った理由はいくつかあるが、一番の理由は向こうの世界とこちらの世界を形作るマナという共通資源の存在だ。

 他世界は元々マナを求めてこちらに侵略してきている訳だから、向こうのマナとこちらのマナが同一のものであると理解はできる。


 ではなぜ同一なのか。

 それはもちろん、世界を創造する力を授けた存在が同一だからである。


 要するに、一度だけ俺に接触してきた始まりの創造神とやらが関与した地球人、という線が一番濃厚なのだ。


 だがここで一つ問題がある。

 というのも、俺は以前にアプリをダウンロードした存在は他にいるのかという疑問の下、『このアプリに選ばれた理由が知りたい』とチャプター1のクリア報酬にて問いかけた事があった。

 しかしその時の答えは適性が高かったというものであったはずだ。


 その事から俺は、もしかしたら他のプレイヤーがいるのかもという疑問に対し、何者かが誰構わず配布しているのであればもっと世界に強者が溢れ混乱していても良いはずだと結論付けた。

 だが現実はそうなってはいない。


 故にあの時点ではアプリの力を持つのは俺だけであり、他の地球人は現状ではいないと思ったのである。


 では、その前提が崩れる要因があるとしたら?


 つまり、俺が力を手にした時代とは違う別の時代の人間が、前任者として世界の創造に着手しているのならば前提が崩れるのではないかと考えたのだ。

 そうであるならば色々と辻褄が合う。


 別の時代に始まりの創造神から世界創造の力をなんらかの形で手に入れたそいつは、どのチャプターでかは知らないが、どこかで創造の破綻に立ち向かい、そして失敗したのだと推察できる。

 そうして失敗した世界はなんらかの理由で創造神不在の状態が続き、こうして現在滅びを迎えようとしているのだと、そう考える事ができるのではないかと俺は想定した。


 だからこそ今からぶつかり合うであろう他世界の魔神、その他亜神に詳細を問いただし、そして地球でまだ存命しているかもしれない『もう一人の創造神』を引っ張り出してやろうと、そう思ったのだ。


 そのための人探しにおいて、一番感知に優れた九尾一族の力を俺に貸してくれないかと、そう約束したと言う訳である。


「ま、あくまでも想定だけどな。引っ張り出した所で何の解決にもならない、という場合もあるかもしれないし」


 もう一人の創造神である相手が世界の事を完全に諦めていたり、見放していたりしたら手に負えない。

 これは引っ張り出せばなんらかの解決の糸口が見つかるかもしれないと言う、俺の願望も少なからず混じっているのである。


「大丈夫じゃよおのこ。儂ちょっと難しい事は分からないんじゃけども、妖怪心理的には家族はいつまでも大事にするものじゃし、見捨ててないと思う」

「そうか、そうだよな……。でも紅葉、頭をなでなでするのはやめてくれ、恥ずかしいから」

「そうかえ?」

「そうだよ」


 紅葉の謎行動にちょっとだけ癒されつつも、妖怪心理的にはまだ間に合うらしい。

 少し安心した。


 俺も紅葉ではないが、そうだったらいいなと思う今日この頃である。





 考察に耽っていたのも束の間、日本で一泊してしまった事でアプリ基準の10日弱が過ぎてしまった遅れを取り戻すべく、俺は勇者リオンとの約束の場所であるグンゲルの国境へと到着していた。


「おう、遅かったな創造神様」

「待て、その呼び方はやめてくれ。俺の事は普通にケンジでいいから」

「ん、そうか? まあそれならケンジでいいか。フランクな神様は嫌いじゃないぜ。恩に着る」


 勇者リオンと合流したのはいいが、俺がこの世界の創造神だと打ち明けてから妙な敬意をこいつから感じる。

 砕けた喋り方は以前と変わらないのだが、あくまで俺を神として扱い敬っているのが身振り手振りで分かるのだ。


 まあ話に聞くと、向こうの時代もこちらと遜色のない中世文明あたりらしい事が分かったので、その時代であればこうして神の存在が大きいものであるのも仕方がないのかなと思う所もある。

 ただ俺は神の力を持ったただのおっさんなので、あまりそういう態度を取られるとむず痒く感じてしまうのだ。


 まだジーンのように飄々としてもらっていた方がやりやすい。


「それで、あの騎士のお嬢ちゃんと隠形が得意な面白コンビはどこいったんだ? 見た所あんたしか居ないみたいだが」

「ああ、ミゼットと面白コンビその一のシーエは移動に伴って俺が別空間に隔離しているよ。それと隠形が得意な方の面白コンビその二である紅葉は、今俺を背中に乗せているこの狐だな。紅葉は騎獣になれるんだ」


 そう答えると紅葉が『コンッ』と一鳴きして元の人型に戻った。

 その様子に勇者は一瞬唖然とするが、よくよく考えれば創造神の連れている眷属なんだから何が起きても不思議じゃないかと思い直したらしい。

 なんだか余計に尊敬の念が高まったのを感じる。


 この能力、地球の妖狐なら皆備わってるっぽいんだけど……。


「さ、さすが創造神の眷属だな。以前見た時とは比べ物にならない力を感じる……。やはり、あの時は魔神にバレないように能力をセーブしていたのかよ」


 違います。

 紅葉に関しては本当にパワーアップしただけです。


 それと紅葉、勇者には尻尾の価値は分からないからマウントモードになっても無駄だぞ。

 いくら褒められたのが嬉しくても、そんなチラチラ見ながら「尻尾すごいじゃろ?」みたいなアピールしても伝わらんからな。



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