対魔王会議2


 ちょうど質問があったのだと言葉を投げかけると、少しだけ何かを考えるそぶりを見せたものの、特にそれを阻害するような事もなく聞き入れる姿勢に入った。


 もしかしたら、奴の頭ではどのような問いかけが来るのかという吟味と、それに応じて今こちらが何を望んでいるのかという目的を推察しているのかもしれない。

 それを知っているかどうかで、俺がどういう人物なのかという事を知る切っ掛けにもなるしね。


 目的が分かれば、どういう意図の下動く人間なのかという性格の方向性が賢者レベルの頭脳を持つ者ならだいたい分かるはずだ。

 まあ俺の場合は隠し事が多すぎるので、そう簡単に結論は出ないだろうけど。


「それで、話とはなんだ」

「ああ。実は最近、隣の大陸で亜人の弾圧が激しさを増しているだろう? その件について何か心当たりがないか聞いておきたかったんだ。もしかしたら今度も魔族が、……いや、魔王が関わっているかもしれないんだよ」


 魔王。

 その単語を聞いたアーガスは一瞬だけ眉をピクリと動かし、眉間にしわを寄せた。


 やはり上位職という人間で最高峰の職業補正を持った者でも、魔王という存在には警戒を示すだけの何かがあるのだろうか。

 もしくはそれとは別に、何か個人的な関わりがあるのかもしれない。


 こちらがどうこうする問題でもないので深く追及することは無いが、いつも冷静なこいつにしては珍しい反応だ。

 きっと何かがあるのだろう。


「まず、なぜお前が他大陸での亜人弾圧運動の件を知っているのかという事と、そしてそこに魔王が関わっているという答えに行きついた推察が大いに謎だが、まあ質問には答えよう。結論から先に言うが、俺の推察でもあの件には少なくとも上位魔族かそれ以上の化け物が関わっている」


 どうやら意見は一致していたらしい。

 しかし上位魔族以上の化け物か。

 また一波乱ありそうだなと思っていたが、これで魔王が関わっているのは確定したな。


 確信した俺に対し、今度は向こうからも質問を投げかけてきた。


「しかし気になるな。仮にそれを知っていたとして、なぜよりによって今回の件に関わろうとする。何もお前が動くような問題でもあるまい。……お前はなぜか、魔族に敵意があるようにも見えなければ恨みを持っているような素振りも見受けられんしな」


 それはそうだ。

 そもそも前提として、本来はアチーブメントを達成する以外の目的で、俺本人が魔族をどうこうしようと思う事はない。


 魔族だって元を正せば自分で創造した生命だし、儀式によって魔族化したのだってアプリが勝手に起こしたイベントだと思っている。

 それをまさか、創造神プレイヤーとして世界創世の頃から見て来た俺が、ちょっとやそっと生き物としての仕様が変わったからといって敵意を持つだなんていうのは、発想があまりにも子供だろう。


 そんな事は基本的にありえない。


 だから今までだって基本的にはそこに生きる人間の手に判断を委ねて来たし、聖騎士になる切っ掛けとなった時の戦闘だって、魔族が満足して勝手に自爆しただけだ。


 ではなぜ今回に限って自主的に魔王をなんとかしようとしているのか。

 それは一万年後の未来で『終焉の亜神』なんていうバケモノを見てしまったが故だ。


 人間の文明どころか生命すら存在せず、ただ広がる滅びの荒野。

 原因が何か分からないが、少なくともこの時代であのバケモノが生まれていない以上、きっとどこかで切っ掛けとなる出来事があったはずだ。


 ようするに、俺はその切っ掛けを探すためにこうして百年後の未来で問題となっていた魔王に対し、接触を試みてなんとか解決を図ろうとしているのである。


 本来はこの世界の事はそこに生きる人間の手でなんとかすべき事柄だとは思うのだが、結局全てが滅びてしまっては何にもならない。

 魔族だって終焉の亜神に滅ぼされたくないだろうしな。


「その質問にはちょっと答えられないし、俺にも秘密があるとしか答えられないんだけどさ。……でも、最終的にはこの世界に生きる全ての者の為になるんじゃないかなって、そう思うよ。まあ俺にも打算は色々あるけどね」


 もちろん打算とはアチーブメントの達成だ。

 創造神の神殿が今後レベル上げでどう変化していくのか、という期待もある。


「ほう、まるで未来を知っているかのような言い方だな。俺にはお前が神か何かのように見えるぞ。……そんな訳はないがな」

「…………」


 やばい、この男いくらなんでも鋭すぎる。

 確かに仰る通りという感じなんだけども、ノータイムでその結論に達するか普通。


 まだ疑っているようではあるけど、こりゃいずれ正体がバレるかもな。

 その覚悟だけはしておいた方がいいだろう。


 まあバレたからといって、賢者アーガスが他人に言いふらすような事はないと思うので、心配事は特にないんだけどね。

 この男がそこまで愚かとは思えない。


 見た目ただの子供である俺が神だのなんだのと公言してしまえば、とりあえず最初に教会を敵に回すだろう。

 利権が絡むという意味でも、狂信者のかんに障るという意味でもね。


 それに対してアーガス側が受け取れるメリットが微塵も存在しない。

 故にどのような結論に至ったとしても、それは自らが納得するだけで俺に対し不利になるような行動を取る動機にはなり得ないのだ。


 そこまで分かっているからこそ、こうして踏み入って質問を投げかける事ができる訳だ。


「まあ、俺が何者かという事はこの際どうでもいいだろ。とにかく魔王をなんとかするために、賢者アーガスの力を借りたい。……もちろん可能な範囲で、だけどね」


 さて、返答やいかに。

 すると答えはすぐに返って来た。


「良かろう。俺が想定していた企画の一つに、お前と対魔族で協力関係を結び、お互いに利益を享受するという計画が含まれていた。今回の件はお前から持ち掛けたが、いずれこちらから切り出そうと思って事前に策は用意している」

「ほう、そりゃちょうどいいや」


 なんと、向こう側からも既に計画の準備が進められていたらしい。

 賢者が何のためにこの計画を進めていたのかは定かではないが、こうして一も二もなく協力関係を結べるのは好都合だな。


 その話、乗った。


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