変なアプリをインストールした日3


 【生命進化】の項目を調べてみると、どうやら惑星にある資源を利用して自由に生命を創造できるということが分かった。


 ただし生命創造にはある程度決まった形のパターンがあるようで、【パターン:植物1】、【パターン:微生物1】など、今のところ原始的な生命しか生み出せないようだ。

 いきなり人間を作ろうとしてもそれは不可能らしい。


 たぶん惑星の発展具合に応じて、動物や魚などの進化先が追加されるのかもしれない。

 今後に期待だ。


「どれどれ、それじゃあまずは生み出せる植物と微生物を可能な限り生み出すかな」


 俺はデフォルトで追加されている【生命進化】のパターン機能を利用して、【植物1】、【植物2】、【微生物1】、……、……、と作り出していく。


 途中で創造にマナというエネルギーが必要な生命もあったが、消費するエネルギーの数値が一桁という誤差の範囲であったため、迷わず創造。


 どうやら一度進化先を指定し創造してしまえば勝手に繁殖していくらしく、数を増やすためにあれこれと手を加える必要はないようだ。

 今も現在進行形で、星の中で徐々に緑が広がっていっている。


 また、これもイベントの一環のようでスキップしようとしてもエラーが出てしまうため、しばらくは放置が必要なようだ。


 ここまででとりあえず惑星の基本形が出来上がったみたいなので、一旦ゲームを放置し、バッテリーが切れそうになったスマホに充電器をさす。

 これで何があっても安心だ。


「……さて、カップ麺でも食うか」


 仕事を切り上げ久しぶりに定時に帰ったが、いつもはこんな早い時間に帰宅し自炊することもないので、夕飯といえば基本的にはインスタントだ。

 仕事で忙しい中年男性の心強い味方である。


 そして3分で出来上がったカップ麺の美味さに舌鼓を打っていると、ふと地球の歴史について想いを馳せる。


 たしか地球の歴史では、植物に進化する前にはシアノバクテリアという進化前の細菌が必要だったはずだが、そこらへんはどうなっているのだろうか。


 【生命進化】ではもちろんそんな細菌の項目は無かった。

 まあゲームなんだから大雑把でいいというか、そこまで細かくする必要があるかと言われると疑問ではあるが、少し気になる。


 もしかしてそこらへんの進化過程を飛ばしたり、補ったりするのがマナの役目なのだろうか?

 分からないことが多すぎるな。

 攻略サイトが欲しい。


 しかし攻略サイトだろうが公式サイトだろうが無い物は無いので、しかたなく俺はこのゲームのログを参考にスマホのメモにいままでの経過やパターン等の情報を記することにした。


 もちろんより円滑にゲームを進めるためである。

 攻略サイトが無いならば、自分で攻略本を作るしかないからな。


 まだこのゲームを始めて間もないが、既に自分が思っている以上にハマり始めているのかもしれない。


 とりあえず今ある情報はこんなところだ。


ステップ1:

 銀河団という銀河の集団から特定の銀河を選ぶことでゲームが進む。

 他の銀河を選んだ場合に資源の配分がどうなるのか、その辺が不明。

 検証が可能ならしてみたい。


 因みに銀河は選ばれるまで詳細情報が確認できないようだ。


ステップ2:

 銀河を選んだら次は太陽系を選ぶ。

 太陽系とは元々太陽を中心とした地球周辺の惑星たちを示す言葉だが、このゲームで創造する惑星は地球でないのにも拘わらず太陽系と表記されている。


 意図は不明。

 たぶん制作会社の地球リスペクトとかそんなところだろう。


ステップ3:

 太陽系を選ぶと、基本機能が解放される。

 機能は4つで、【ログ】、【スキップ】、【資源】、【マナ】。

 特に生命を誕生させてからの【資源】機能には気を付けろ、世界が終わる。


ステップ4:

 月と大地と海ができると、【生命進化】の機能が解放される。

 機能の詳細は不明。

 要検証。


「こんなところかな……」


 今まで起こったことをメモにまとめ、一息つく。


 色々考えながらメモをまとめていたら1時間も経っていた。

 19時に仕事を切り上げて帰宅したのが20時、そこからなんやかんやでもう23時だ。


 さすがに今日は早めに仕事を切り上げたとはいえ、明日も朝は早い。

 せっかくの自由時間ではあるが、そろそろ寝た方がいいだろう。


 そう思った俺は充電しているスマホを見てまだイベントが終わらないことを確認した後、就寝することにした。

 それじゃ、おやすみ。





 目が覚めた。

 現在は朝の6時、俺は昨日放置していたスマホを眺め、そのまま微動だにせず固まっている。


 スマホを眺める俺の表情は固定され、真顔だ。

 なぜなのか。

 それはこの光景を見れば理解できだろう。


「なんで、魚が空を飛んでるんだ……?」


 放置していたスマホ画面の惑星には、いつの間にか空を自由に闊歩する魚たちや、大陸に堂々と根付いた樹高1000メートルはありそうな巨大な植物でめちゃくちゃになっていた。


 なんだこれは、どうしてこうなった?

 というかこの巨木デカ過ぎじゃね?

 魚も海を泳ぐやつと空を飛んでるやつで完全に進化が分岐している。


 まだ陸上に上がった生物はいないようだが、もはやそういう問題じゃない。

 シアノバクテリアがどうとか、微生物がどうとかいう次元を超えている。

 中々地球の史実に忠実なゲームだと思っていたのだが、たった1日で物理法則に真向から喧嘩を売るようになっていたようだ……。


 放心していても仕方がないので、すかさずログを見る。

 するとそこには、とんでもないメッセージが残されていた。


【マナを含む創造により、植物1が植物1αへと進化しました】

【マナを含む創造により、微生物1が微生物1αへと進化しました】

【植物1が植物2へと進化しました】

【微生物1が巨大化し、多細胞生物1へと進化しました】


 なんだ、その微生物1αというのは。

 微生物1とは違うのか?


 よく分からないのでとりあえず飛ばし、ログを読み進める。


【微生物1αが巨大化し、多細胞生物1αへと進化しました。マナを含む大気を泳ぐことが可能になりました】

【植物1αが世界樹へと進化しました。世界樹は最終進化形です、これ以上進化できません】

【多細胞生物1αが原始龍へと進化しようとしています、マナを与えますか?】


 ……なるほど。

 どうやら俺は大きな勘違いをしていたらしい。


 そうだよ、タイトルにもあったじゃないか。

 これは『地球創造のすゝめ』ではなく、『異世界創造のすゝめ』だってな。


 つまり俺が作っていたこの惑星は、ファンタジーな異世界ものだったというわけだ。


 そこまで考えた俺は思考を放棄し、無心で【多細胞生物1α】にマナを与えた。

 もうどうにでもな~れ~。


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