lux

倉部改作

Opening

epigraph


## epigraph


 lux(国連総会にて):


「あなたも天使の名前なのね!」

 ロシアで小さな私が泣いている時、ある女性の戦闘機パイロットが狐のぬいぐるみの姿をした通信式人工知能、アンジェラをプレゼントしてくれました。

 アンジェラはその女性のように、けれど眠たげにお話ししてくれました。

「泣いている子を、ひとりにはしないよ」

 そんなやさしいぬいぐるみのそばにいたい。それが、私の物語のはじまりでした。


 時が経ち、外の世界から来た先生は犯罪政権に連なる私に、こう言いました。

「泣いている子を、ひとりにはしない」

 学生のままに国民総動員に遭った私には、もうそんな資格はないと思ってきました。


 意味のない背比べ。

 選べない人から選ばれる兵役。

 平穏は人生のあと、というあきらめ。


 もうこの世界にいてはいけない。

 アンジェラとお話しできないとき、なにもない空を見上げながら、これまで何度もそう思ってきました。


 先生から救い出されたあのとき以来、何度も空を見上げます。

 その空に、先生が、天使がいたと知ったその時から。

 アンジェラとお別れを告げる日がくると、理解し始めたときから。


 この空に辿り着くため、かつての祖国を終わらせることになったとしても。

 いまある世界の人々に、悪魔と呼ばれ続けたとしても。


「泣いている子を、ひとりにはしない」

 そんな天使に、なれたのなら。

 

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