第122話 『 たっぷり愛情注いでもらわないと 』

 

 【まえがき】

久しぶりに休載日頂きました。

まぁ、投稿しなかっただけで執筆はしてたんですけどね。

これから毎週木曜日は休載日になるかもです。木曜日だよーー。

 ―――――――――――――――



 美月念願の花火デート。

 花火が打ち上がるまでは、二人は屋台を散策していた。


「さて何食うか」

「晴さんて、見かけに寄らずよく食べますよね」

「見かけに寄らずたくさん食べて悪かったな。お前のおかげでメシの美味さを再認識させられたんだよ」


 手を繋ぐ。そんな行為も当たり前になりながらそう言えば、美月は嬉しそうにはにかむ。


「どうですか? 妻の手料理はいつも美味しいですか?」

「いつも美味い。だから注意しないと太りそうになる」

「私は旦那が肥えても文句ないですよ」

「お前がなくとも俺があるんだ。恰好がつかないだろ」

「貴方もそういうの気にするんですねぇ」


 意外、とくすくす笑う美月。


「単純に嫌なんだよ。特に下腹が出ると死にそうになる」


 三十代、四十代ならまだしも、二十代前半で下腹が出てくる、なんて事態は嫌悪感があった。なので、美味しいご飯を食べる引き換えに晴は絶賛運動継続中なのだ。


「ま、おかげで体力もついてきたし重畳といえば重畳だな」

「私に感謝してくださいね」

「いつもしてる」


 淡泊にいえば、美月は「本当ですかね」と複雑な表情を浮かべていた。


「もう少し声音に想いを込めてくださいよ」

「これでも込めているつもりなんだがな」

「貴方は表情が乏しくておまけに声も低いので、あまり感情が伝わってこないんですよね」

「その代わりに行動で示してるだろ」


 晴も美月に指摘された事は自覚している。だから、こうして行動で想いを証明している訳なのだが。


「奥さんはご不満ですか?」

「満足はしてます。でも、もう少し明確な愛情表現が欲しいです」

「じゃあ家に帰ったらたっぷり愛してやる」

「……べ、べつに私はいつでもそういう準備はできてますけど、晴さんは体力が足りなくて家に帰ったら寝てしまうのでは?」

「言ったろ、体力付いてきてるって」


 ニッ、と口角を上げれば、美月がほんのり顔を赤くして目を逸らした。


「よ、夜の約束はしたとして、今は今で愛情表現して欲しいです」


 ワガママな奴、と内心で呟きつつも、照れる美月に晴は問いかけた。


「構わんが、手を繋ぐ以外にどう証明しろと?」


 ただ手を繋ぐのではなく恋人繋ぎなので、晴としては既に美月に愛を証明しているつもりだった。

 これ以上公の場で何かできることがあると首を捻れば、紫紺の瞳が晴を見つめてきて、


「可愛い、と言ってください」

「可愛い」


 美月の要求通りに言えば、何故か不満そうに頬を膨らませていた。


「そこは少し恥らいを持つべきでは?」

「恥じらう理由がない。事実を言ったまでだしな」


 実際、浴衣姿の美月は可愛いし美人だ。

 なので、晴としては当たり前の感想を素直に吐露したまでなのだが。


「足りないか?」

「足りません」


 こくこくと頷く美月。

 どうするかと、ほとほと困り果てて逡巡すれば、晴は美月の喜びそうな言葉を列挙した。


「お前は可愛い。その浴衣も普段とは印象が違うがよく似合ってる。俺の為に気合入れてお洒落してくれたことも嬉しい」

「もっと」

「めんどくせ……お前のメシは最高だし、いつも家を綺麗にしてくれて感謝してる。お前がいないと俺は死ぬ」

「でしょうね」

「肯定するな」


 ご満悦げに三日月を描く美月に、調子に乗るなとデコピンをお見舞い。

 あう、とうめく美月に嘆息しつつ、


「どうだ。これで満足か?」

「そうですね。まぁ、及第点にしましょう」


 赤点は回避して、晴はホッと安堵の息を吐く。

 そんな晴に美月はくすくすと笑いながら見つめて、そして言った。


「続きは家に帰ってから。愛しながら褒めてくださいね」

「これでも満足しないのか」

「当たり前じゃないですか。足りません。貴方は私の旦那なんですから、たっぷり愛情を注いでもらわないと――ご飯抜きになりますよ」

「メシを人質に取るな。はぁ。なんか日を追うごとに愛が重くなっている気がするな」


 妻の要求の多さに辟易としつつも、これも年下ならではの甘えたさなのかと思うと納得できてしまって。

 やはり恋は難しいな、と久しぶりに再認識させられたのだった。

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