【本編完結】出会い系アプリから始まる結婚生活 ~童貞ラブコメ作家が結婚したのが女子高生だった件~

結乃拓也/ゆのや

プロローグ 『 出会い系アプリから始まる夫婦の物語 』


「ねぇママ」

「なに、ミハル」


 小さな手を握りながら、美月は微笑んだ。


「どうしてママはパパと〝けっこん〟したの?」

「えぇ、どうしてそんなのこと聞くのかな?」

「だってパパ、すごくさえないおとこの人でしょ」

「あらあら。その口の悪さは誰に似たのかしらね」


 娘の容赦ない悪態に、美月は苦笑をこぼさすにはいられない。


「かおは死んでるし面白いことはなにも言わないんだよ」

「容赦ないなー、ミハルは。それじゃあ、ミハルはパパのことが嫌い?」

「嫌いじゃないけど、パパみたいな人とはけっこんしたくない」


 あの親にしてこの子あり、を体現するような娘の毒舌ぶりだ。

 そんな親にも容赦ない娘に、美月は朗らかな声音で語った。


「たしかにミハルのパパは冴えないし顔死んでるし面白いことはなにも言わけど、でもね、それ以上に良い所が沢山あるんだよ」

「たとえば?」

「そうねえ。ママを大好きなことかしら」

「えー。ママ大好きかな、パパ」

「あはは。パパはあまり顔変わらないから分かりづらいかな」


 でもね、と美月はミハルの頭を撫でる。


「パパはね、ママのことが好きすぎて、ママとのお話を本にしちゃった人なのよ」

「まぁろまんちっく!」


 そういう事に興味津々な年頃なので、ミハルは目を宝石のようにキラキラとさせた。この少しませた性格も、彼譲りで本当に愛しくなる。将来は彼同様、芸術の分野に進むかもしれない。

 娘の将来を楽しく想像していると、そんな娘はその場に飛び跳ねながら聞いてきた。


「ねね! ママとパパとお話、わたしもっと聞きたい!」

「いいわよ。それじゃあ、あそこでずっと顔を隠しているパパに突撃ー」

「うん!」


 喜んで頷いて、ミハルはソファーで本を読んでいる最愛の人に向かって体当たりした。


「ぐはっ」

「パパ! ママとのお話聞かせて!」

「さっきからずっと聞いてたけど、べつにパパじゃなくてママから聞けばいいだろ」

「ダメよパパ。こういうのはおとこのパパが話さないといけないんだから」

「こういう毅然とした性格はママ譲りだな……」

「きぜんて?」

「しっかりしてる子のことだよ」


 パパの言葉に、ミハルは嬉しそうに胸を張った。その仕草が可愛すぎて、夫婦二人で笑ってしまう。

 それから、夫は穏やかな笑みを娘に向けると、


「まあ今日は書かないからミハルに話してやる。でも、長くなるぞ?」

「そこはかんけつにまとめてちょうだい」

「おぉ……しっかり俺の遺伝子を継いでやがる」

「ね。本当に貴方そっくりの性格してます」

「ちゃんとお前の性格も引き継いでるからな? 特に辛辣ぶりが」

「しんらつ、ってなぁに?」

 

 可愛くないこと、と夫が教えると、ミハルは可愛いもん! と拗ねた。


「そうだなミハルは可愛いぞ。ただ、ママの血筋をちゃんと引き継いでるからパパびっくりしたんだよ」

「ふふ。だってこの子は私たちの子ですから」

「ママとパパ、なにわけのわからないこと言ってるの?」


 大人になれば分かるさ、とミハルの頭を撫でながら夫は微笑んだ。


 それから――


「それじゃあ、パパとママがなんで結婚したのか〝美晴〟に語っていくぞ」

「はーい」

「あらあら、楽しそう」


 長い長い、夫婦の道のり。


『出会い系アプリ』から始まった夫婦の物語を、晴は最愛の娘に紡いでいくのだった――。


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