084-グロービ到着

 「港が見えてきたぞー!」


 船員たちの騒ぐ声を聞いて私はベッドから飛び起きた。今すぐにでも甲板に出たいところだけど、あいにく今は寝間着姿だ。こちらの世界で女性の寝間着といったらスケスケのネグリジェなのでこの格好で部屋の外をうろつくのは非常に不味い屈強な船員さんたちの理性を攻撃することになる。


 アリッサを起こして、いつものブラウスに袖なし革鎧とフリルスカートに編み込みブーツに着替え甲板に向かう。アリッサはネグリジェの上にローブを纏っただけの夜の痴漢スタイルとも言える危なっかしい格好で付いてきた。


「ローブの下っていつも薄着なの?」

「そうだよ~肌と近いほうが魔法の補助効果が高まるからね~」


 魔法が使えない私にとってのムダ知識は放っておいて急いで甲板にあがる。


 甲板に上がると遠くに小さく陸地が見える。ぐっと目を凝らすと綺麗な白い砂浜がありその奥にはトゲトゲした葉を茂らせ赤茶色の幹をした樹木が林となっているのが見えて思わず声を上げた。


白砂青松はくしゃせいしょうよ!」

「え?なんて?」

「はく・しゃ・せい・しょう!砂浜と松林から作られた日本の綺麗な海岸風景のことよ!」

「え?もしかしてあの親指で隠せるぐらい遠い場所が見えるの?」


 ん?普通に見えるけど……。そう言われれば……建物や木々がいっぱいあるところにずっと居て視界がひらけたところに来たのは初めてだった。いままで気が付かなかったけど私すごく目が良いみたい……。私は頭のメモの流魔血の効果に視力アップを付け足しておいた。


「流魔血で視力も良くなってるみたいですわ」

「へぇ~そうなんだ」

「なんか反応薄くないかしら?」

「実の姉が神様の使いの力を強奪して私の異世界転生に付いて来た以上の驚きなんてそうそうないわよ」

「あっ……そうですか……」


 アリッサはすっかり根性が座ってしまったようで少々のことでは驚かなくなってしまったみたいです。そんな妹の成長に嬉しいような悲しいような気持ちになった。


 到着が近いということで船室に戻り散らかした日用品をポイポイっと次元リュックに放り込む。整理整頓しなくていいのがとっても助かる。片付けが終わり甲板に戻るとレンさんやメイさんなどクロービの皆さんが揃っていた。


「マルレリンド船旅はどうだった?」

「揺れもなく快適でした」


 レンさんが声をかけてきた。何かと忙しかったらしく、ほとんどすれ違いのときの挨拶ぐらいしか会えなかったからゆっくり話せるのは出港の時ぶりだ。そういえば、心の中ではすでにレンさんと呼んでいるがいざ本人を前にすると緊張します……そうですね……なにかきっかけを作りましよう。


「あの……マルレリンドは長いのでマルレと呼んでください」

「ふむ、わかった!これからはマルレとよばせてもらう!」

「はい!では私はレンさんとお呼びしますね!」


 驚いた顔で硬直するレンさん……その様子を見てメイさんがなにか耳打ちをした。


(家名と個人名の話のときにあのように呼ぶと良いと誘導しました)

(よくやったぞメイ……褒美は後ほど)

(はっ!ありがたき幸せ!これからもお任せください)


「ハハハ!もうすぐクロービに着く寝食には私の家を使ってくれ!」

「そこまでお世話になってもよいのですか?」

「もちろんだ!国外から推薦で連れてきた者は連れてきたものが面倒を見る決まりになっている」


 そりゃそうだよね、特別に入国できるってことは自由気ままにウロウロする訳にはいかないよね……町の中を好きに回るぐらいの自由があれば御の字かな?


「レンさん、ありがとうございますお世話になります」

「ガオゴウレンさん、ありがとうございます~」


 なぜアリッサだけフルネームよびのまま!?慌ててアリッサの顔を覗き込むと、ニヤニヤしていた……。まさか!と思いメイさんを見るとしっかりと目をそらした……。


 騙され……た?普通はフルネーム呼びなの?一体どういうことなの?


「ちょっとアリッサ!いったいど!?」


 どういうことか聞きただそうとしたときだった。体がぐわっと空中に持ち上がったような錯覚を覚えた。


「え?何今の?」

「なに~今のふわっとしたやつ!」


 アリッサも混乱しているみたいだが慌てているのは私達だけのようだ。


「二人は国外に出るのは初めてか? 今のは国境を超えたときに起こる現象だ」

「そうなのですか、びっくりしましたわ」

「へ~クロービはすごいね」

「いや違うぞ?すべての国境で起こる現象だ」


 どうやら今の現象はこの世界のすべての国境で起こる現象のようです。


 なんだか不思議な感触だった。


 まるで違う世界へと入り込んだ様な気がした。


「港についたぞ!下船準備を始めろ!」


 船員さんの声を聞きいつの間にか目前に迫っていた港が見えた。


 港は陸地と少し離れた扇形の小島にあり陸地とは大きな橋でつながっている。これは出島という形式の港だ。


 あれ……わたしはこの景色を知っている……。


邪竜伝じゃりゅうでん Onlineオンライン Reloadedリローデットのスタート地点


[エード出島]だ……。


 私はこの世界まるごと乙女ゲームの「終末の楽園」の世界だと思っていた……。でも「終末の楽園」は私の母国であるレイグランド王国だけの話だったようです。


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