062-冥王

 戦勝の宴は突如影から現れた者によって中断された。一触即発の状況で辺りは静まり返っていた。対峙したのが魔王を討伐した勇者だった。その安心感により領民たちは恐怖より野次馬根性が勝ってしまい幸いパニックには至っていなかった。


「ふむ……では聖女は何処だ?」


 金色の瞳が探るようにあたりを見回す。


「リーシャーに何をする気だ!?」

 

 アロイーンさんは聖剣を握る手に力が入る。

 

「何もしない……見ておこうと思ってな……お前か」


 金の瞳がリーシャーさんを見つけると値踏みするようにじっくりと眺めている。


「ふむ……勇者と聖女か人外の域には達しているがまだ弱いな……」

「何だと?一体何者だ!目的はなんだ!」


「うそ……冥王だ……動いてる破壊力凄すぎ……」

「冥王だと!?」


 あちゃーアリッサが余計なことを言ってくれましたね。仕方ありませんので私は二人の間に割って入る。


「はいはい!二人共やめやめ!」

「マルレさん?」

「おお…‥マルレ」


 聖剣をつまんでぐぐっと押し下げアロイーンさんに剣を収めさせた。


「アロイーンさん?どう見ても人間の方にいきなり剣を向けるのはよろしくないですよ?」


 初対面の人にいきなり剣を向け無用な争いを起こそうとしているのをたしなめてあげた。 


「え?人間?どう見てもヴァンパイアか何かと……」

「なっ!バンパイアですって!?どう見ても人間の美男子じゃないの!」


 む!なんて失礼なやつ!アリッサの助言を聞いて信頼して任せようと思ったばかりでしたのに!


「気にするなマルレいつもの事だ……。冥王、闇烏、吸血鬼……人外扱いされるのは慣れている……」

「いえ!ハッキリと言わせてもらいますわ!!」


「「「お兄様!?」」」


 あら?なんでみなさん驚いているのかしら?ラーバルまで……。

 

「皆さんどういたしました?」


 あ!そうですね!だれにも紹介したことありませんでしたね。


「ご紹介いたしますわ私の兄です」

「ヴィクトル・ドレストレイルだ……マルレが攫われたと聞きこの地に来た」


 やはりアリッサはお兄様の顔を知っていたみたいで「凄い……スチルよりカッコイイとか2次元超えてきたよ」と言ってました。よくわからないけどさすがアリッサ見る目ありますね!


 お兄様が私の頭をポンポンと叩き話を続けた。


「私が到着したときには魔王城はもぬけの殻だった……それでこれだけが残されていた」


 お兄様が影から何かを取り出し私に差し出した。


「あ!私の次元リュック!お兄様ありがとうございます!」


 自分で稼いで初めて買った大事な物で、思い出の折れた剣も2本入っていたので助かりました。


「ふむ……心配はしていなかったが父上がうるさくてな……」

「何も問題なかったとお伝え下さい」


 私達のやり取りを聞いていたトルヘミン卿の顔色がみるみるうちに悪くなり慌ててお兄様に頭を下げた。


「私の目の前で妹君をみすみす攫われてしまい申し訳ありません!」

「ロットヴァルデ侯爵殿、頭を上げてください……マルレは頑丈ですから……。きっと全ての生き物が死に絶えたって生きていますよ」

「あの……お兄様?人をゴキブリみたい言うの止めてくださらない?」

「すまぬ……そんなつもりでは無かったのだがな……」

「お兄様の口下手はよーく!知っておりますので許して差し上げますわ」


 お兄様と遊んでいる場合ではないですね。トルヘミン卿がこれ以上拉致のことで空回りするのは困るので先ほどの事を思い出してもらいましょう。


「トルヘミン卿!先程ラーバルと私が申しましたようにアレはわざとでしたのでお気になさらないでください」

「そうでした……しかし何かしなくては私の気が済まないのです……」


 うーん……気が済まないと言われても……。別に謝罪などいらないのですが貴族の方はそうもいかないのですよね……かと言ってご負担をかけるのもどうかと思うし……あっ!そうでした![拳法]の記録!あれを見せてもらいましょう!


「それでしたら初代勇者と共に戦った[拳法]の使い手につての記録を見せてください!」

「そうであったな!よし!では皆さん今夜は我が家に泊まっていただき明日宝物殿に案内させていただく!」


 トルヘミン卿にしか出来ない償い方法を提示できたので、波風立たず済みそうですね。


 お兄様の誤解が解けると宴は再開されました。私達は早々切り上げ公爵邸で部屋を借り休みましたが、領民と軍隊の皆さんは日が昇るまで飲めや食えやの大騒ぎを続けていたようです。


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