061-戦勝の宴

 勇者と聖女を先頭にゆっくりとロットヴァルデ侯爵邸へと向かう。侯爵邸が見えてくるとすでに領民が集まっているのが見えた。どうやら先に伝令が出ていたらしく、すでに大騒ぎだった。


 沿道に歓迎の人垣ができる中を長い軍隊の列が通り抜ける。家族との再開に喜ぶ人や、公爵令嬢の無事な姿に涙する人、魔王を倒した勇者に称賛を送る人など様々な喜びであふれていた。


 私は、あちらこちらへと手を振るアロイーンさん達をみながら今回の戦いについて思い返していた。そして、気がついたこと事をアリッサに聞いてみた。 


「ねぇ……アリッサ。よく考えてみたのですけど私は魔物一匹すら倒してませんわ」

「ああ~何もしてないのにここにいるの駄目じゃない?ってこと?」


 そうです私は攫われただけで何もしていません。まさかこんな早く助けが来ると思っていなかったわ……。


「いいのよそれで!何もさせないために急いだの!当初の作戦はね……」


 アリッサが当初の作戦を教えてくれた。


 騎士団や魔術師団などの国軍に頼りきりでは地方軍不要論が出てしまう。それでは困るので、防魔軍主体で魔王を討伐する予定だったそうです。ですが勇者と聖女が誕生したので2人に武功を立てさせ軍属にする事で防魔軍を維持することに変更したそうです。


 その予定で進めていたけど私が魔王城にいることを知りアリッサとラーバルは焦ったそうです。冒険者である私が魔王を倒したら予定が狂ってしまうと。それで無茶な行軍で勇者と聖女を城に送り込んだらしいのです。


「それでね~ラーバルが付いていく予定だったんだけどなんかイチャつきだしてイラッとしたから2人で行かせちゃった」

「ちょっと!魔王が強くて負けちゃったらどうするつもりだったのよ!」

「ピエロを一撃で倒したから大丈夫だと確信したよ」

「えー……」


 うーんアリッサって意外と冷たい?と考えていたら「マルレが過保護なだけだからね……裏を返せば信頼してないとも取られちゃうよ?」と心を読まれてしましました。そうですわね……私は2人の実力を信頼していなかったのかもしれませんね……。もしもアリッサとラーバルが魔王討伐に行くと言ったら安心して待っていたでしょうね。


「そのとおりですね。何でも自分の保護下に置こうとしていたかもしれませんわ」

「そうそう!任せるところは任せてあげないとね~」


 歓迎の人垣は公爵邸を超えても続きそのまま宴会の準備が整った街の広場まで導かれた。その流れでトルヘミン卿が挨拶をした後に、そのまま宴に突入しました。


 会場は領民も軍人も貴族も入り乱れた無礼講で大変賑やかでした。延々と補充され続ける料理と酒に皆さん大喜びです。さすが飽食の国ですわ!私も遠慮なく大きな塊肉に舌鼓をうつ。


 宴会の人混みをかき分けアロイーンさんがやってきた。 


「マルレさん!スマッシュエイプの腕肉まだまだあるからどんどん食べてね!」

「え……スマッシュエイプ?」

「そうですよ!ビートムでもよく食べてましたよね!名物の串焼き!」


 私はビートムの街で初めて食べた5ラドの串焼きが大変気に入っていたので、聖剣を抜いた後の宴会でもたくさん食べていた……うん……魔物の肉って普通に食べるのね……。


 そう言われるとこの世界は畜産業がない気がする……わたしは慌ててアリッサに質問した。


「この世界は魔の領域から食べられる魔物が無限湧きするから畜産なんて文化ないよ」


 前世で子供が「アジは開かれた状態で泳いでる」と言ってたのを笑って見ていたけど、まさか私が同じ食料がどうやって食卓に上がるか知らない状態におちいっていたとは!驚いて前世の部分が反応してしまいました。


「マジで!?」

「マジでって!いつもなら[本当ですの!?]とか言うのにマジでって!」


 アリッサは大笑いしていました……。今まで食べたあの豚肉は?あの牛肉は?あの鶏肉は……私は考えるのを止めた。


「もう美味しければなんでもいいわ……」


 気にせずスマッシュエイプにかぶりついた。程よい歯ごたえと滲み出る旨味……牛肉じゃなかったのね……。そんなショッキングな出来事もあったが宴会を存分に楽しんでいた。


 そんな楽しい雰囲気を女性の悲鳴が打ち破る。悲鳴の起こった場所に皆の目が集中している。すぐに駆けつけたアロイーンさんがその場を見て聖剣を構え声を上げた。


「離れて!魔王と同じ系統の魔法だ!」


 私達は最前列に行き警戒する。聖剣の先に目をやると影が広がり不気味に動いていた。そして段々と隆起して人の形を成していった。影がはがれ中にいた者が見えてきた。


 黒く長い髪は腰ほどまであり弱い風でサラサラ揺れている。まったく日に当たってないように肌は白く体格は華奢で指は白魚のように細くきれいだ。人を萎縮させるような鋭い目つきは金色の瞳です。影から現れたのは美しくも怪しい空気をまとった人物だった。


「お前が勇者か……」


 鋭い金色の瞳はアロイーンさんに向けられている。値踏みするようにじっくりと眺めている。


「そ……そうだ…‥俺に何のようだ……」


 宴の会場は一転して一触即発の雰囲気です。

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