052-試しの義
夜通し行われた宴会の影響で、町が動き出したのは昼過ぎでした。嬉しそうだけど少しつらそうな顔をして日常生活を送る人々は微笑ましかった。アロイーンさんとリーシャーさんは、住民に開放されたあと私を見つけるとすごい勢いで文句を言ってきましたが、ちやほやされるのが嬉しかったのかその表情は全く迫力ありませんでした。
昼頃に起きたアロイーンさんは「聖剣も見つかったし急いで戻らないといけない」と慌てて馬車の手配をしていました。「飛んでいけば早いと思いますが?」と私が提案したところ「絶対無理!」と断られてしまいました。なんでも着地のときの落ちる感覚と着地の衝撃、さらにその後の急加速がかなり辛いとのことでした。自分では何ともなかったので悪い事をしたなと思い謝っておきました。
声援を送ってくれるビートムの住民たちに見守られながら私達は馬車に乗り込みロットヴァルデ侯爵邸へと出発した。
公爵邸までは2日ほどかかるらしく退屈な馬車の中でアロイーンさんは今までのことを語りだした。
アロイーンとリーシャーは魔防軍兵士の子供で年が近い侯爵令嬢のニーニャとは親同士のつながりで何度も顔を合わせるうちに友人になったとのことでした。魔の領域が近く滅多に外に出れなかったニーニャは野山を駆け回っていた二人の話を聞く事を楽しみにしていたそうです。
2人がいつものように土産話を持って公爵邸を訪れると使用人たちが右往左往していた。当主のトヘルミン・ロットヴァルデ侯爵が使用人たちを広間に集めている最中でした。重大なことを伝えるために集められたらしいと聞いた2人はこっそりと使用人たちに混じり話を聞いた。耳を疑うような事態になっている事がわかった。ニーニャが魔王にさらわれた。この事は軍以外には漏らすなと箝口令が敷かれ、すぐに[試しの義]の準備をはじめるよう通達した。
[試しの義]は、希望者に聖鎧と聖杖を触らせて勇者と聖女を探し出す儀式だ。本来は年に一度開かれるお祭りのときに行われる儀式だが急遽もう一度開く準備が始まった。
アロイーンは今まで[試しの義]に参加したことがなかった。今までの暮らしに満足していたから厄介事である勇者なんてお断りだった。しかしニーニャの誘拐で思い知らされた。今まで満足していた日常は誰かが守っていてくれたものだと……。魔王に対抗する力がほしい……いや!手に入れる!そう決意した瞬間だった。
儀式の準備のため開け放たれていた宝物殿にいた使用人たちがどよめいた。グレー色だったはずの鎧は純白に変わり空中に浮き上がった。使用人たちが対処に困りじっと見つめることしか出来ないでいると、鎧は宝物殿から飛び立った。
広間で決意を新たにしたアロイーンの正面でピタリと停止する。鎧は光の粒子に姿を変えアロイーンの周りを漂いはじめる。光は体を包み込み鎧の形へと変化していく。光が収まるとそこには聖鎧をまとったアロイーンの姿があった。
その様子を見ていたリーシャーは「私も……」とつぶやく……眩い光と共に聖杖がリーシャーの眼前に現れ、ゆっくりと降りてきて手の中に収まった。まさに天から授かったという光景だった。
その様子を見ていた当主のトヘルミン・ロットヴァルデ侯爵はすぐに時間稼ぎのために魔防軍に境界の防衛を命じ、選ばれた2人は聖剣が眠ると伝えられる森の迷宮へと送り出された。
選ばれてすぐに戦うのに不安を覚えたアロイーンとリーシャーはロットヴァルデ侯爵に戦力の増加を頼んだが侯爵はそれを拒否した。
そして2人に投げかけられた言葉は「その鎧と杖を持ったものは急成長しすぐに人の力を超越する」の一言だった。
そんな無茶なと2人は思ったがその後の訓練でそれが事実だとわかる。魔防軍の筆頭戦士と魔術師の二人組との模擬戦はとても奇妙なものだった。初めは剣を受けるだけで精一杯だったのが一太刀受けるごとにどんどん成長していき5回ほど剣を交えただけで相手の剣を叩き落とし喉元に剣を突きつけていた。
リーシャーも初めは障壁を張るので精一杯だったがすぐに障壁を張りながら攻撃魔法を使えるようになり魔道士を完封した。
あまりの自分の急成長に自信をつけた2人はすぐに森の迷宮へと旅立った。森の迷宮を攻略し始めてからもその自信は陰りを見せずついにそれは奢りへとなってしまった。「楽勝だよ」と迷宮を一人で行動するようになり最終的にはどっちが早くつけるかなどとニーニャの事を忘れはしゃいでいた。鎧は精神までは成長させてくれなかったのだ……。
アロイーンさんは調子に乗っていた自分のことを語り終えた。
「マルレさんがミノタウロスを倒してなかったら多分一人で挑んで死んでいたと思う……。でも大丈夫!もう油断しないし本来の目的も思い出したニーニャを救おう!」
聖剣を手に入れたアロイーンはさらに力を増すと思いますが、もう平気でしょうね。私も自分の力を過信しないよう肝に銘じておかなくてはいけませんね。
ビートムの街を出発して二日後ロットヴァルデ侯爵邸に到着する。
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