051-鎧に選ばれた勇者

 互いに手の内を晒しあった私達はもう一度自己紹介することになりました。それにしても彼が勇者でしたなんて全く気が付きませんでしたわ。さて……何処まで話せばいいかしら?ここはまだ国内だしドレストレイルの事は伏せたほうがよさそうね……。籍は抜けてるから嘘にはならないし問題ないでしょう。流魔血の話はファーダ直伝のごまかし方を使えばいいわね。


「私はマルレリンド冒険者よ!普段は剣士を名乗っていますが、計測不能な膨大な魔力の全てを身体強化の特性で使っているので肉体が鋼よりも頑丈ですの、なので素手で戦ったほうが強いのですわ」


 知りえない情報は隠し聞かれていない事は話さない……これでいいわね!


「そうでしたか、敵前で剣を置いたときはびっくりしました」

「そうなのね、あの強さの理由に納得できました」


「あらためて自己紹介させていただきます。」

アロイーンが丁寧にお辞儀をした。


「俺は[試しの義]によって鎧に選ばれた7代目勇者のアロイーンです。封印された聖剣を探す旅をしていました」

「同じく[試しの義]によって杖に選ばれた7代目聖女のリーシャーです。聖剣を探す旅に同行していました」


 [試しの義]で選ばれた勇者と聖女……とくればやっぱりアレかな……。


「聖剣を探していた理由は、ロットヴァルデ侯爵様より魔の領域に居城を構えた魔王の討伐依頼を受けているからです」


 やっぱりねー魔王だよね~ ってロットヴァルデ侯爵!?たしか魔の領域の境界を守る魔防軍を指揮している家系でしたわね……。下手したら身元がバレるかもしれないわね。それはさておき侯爵様が必死になる理由と言ったらアレかしら?


「侯爵令嬢のニーニャ様が魔王の副官を名乗る魔物にさらわれてしまい、領地の防衛に人員が割かれ聖剣探しは俺とリーシャーのたった2人で行うことになってしまって」


 うんうん……だいたいわかったわ勇者ってのはやっぱりいろいろ押し付けられる不幸な人だわ……。それで人手不足に準備不足とくれば……嫌な予感しかしないわね。


「お願いします!共に魔王討伐を成し遂げましょう!」

「私からもお願いします。ニーニャ様をお助けしたいのです」


 そうなりますよね、やっぱり……。


「うーん、考えてみますわ少々お待ちくださる?」


 面倒事に巻き込まれるのはイヤだけど、行かなかった場合は後々この2人の悲報を聞く可能性もあるのよね……。あのとき助けていれば……なんて事になったら嫌だし、それにこの2人が負けたら騎士団にいるラーバルや魔術師団にいるアリッサが行くことになるのよね、仕方がないですわね。


「いいわ!乗りかかった船ですものきっちり最後まで終わらせて差し上げますわ!」


 渋々了承したけど、やるとなったら全力でやりますよ!


「「ありがとうございます」」


 2人は私の手を取り頭を下げた後に上げた顔はとても嬉しそうだった。あーあ魔王か……どれほど強いのかしらね?私が勝てればいいですけど……。


「さて……もう森の迷宮には用事はありませんね?」

「はい!聖剣もこの通り」

「マルレさんのおかげで無事に用事は済みました」

「じゃあ帰りますよ!」


 そう伝えると2人の脇に手を滑り込ませ体を抱えて右手でアロイーンさんを左手でリーシャーさんを持ち上げる。私を真ん中に3人4脚の様な姿勢になり2人に交互に微笑みこれからすることを伝える。


「町まで飛んでいきます」

「飛ぶ?あっ!」

「えっと……上空は魔法が阻害されますよ?」


 アロイーンさんは分かったようですがリーシャーさんは分かってないようですね。


「魔法じゃありません物理的に飛びます」


 私は2人を持ち上げたまま助走をつける。


「え?え?え?どういうこと?」

「聖剣を抜いたあと飛んでったって話したじゃん!」


「こういうことですわ!」


 地面を全力で蹴り私流の[飛んでいく]を披露する。着地する度に絶叫が聞こえるが気にしないで飛び続けた。ビートムの町につく頃には2人はヘロヘロになってしまいました。


「シヌ カト オモッタ……」

「マルレサン モウ ニドト シナイデ……」

「情けないですわね!それでも勇者と聖女なの?」


 2人が回復するまでしばらく休んだ後に森の迷宮で仕留めた獲物を[解体屋]で換金する。スマッシュエイプはすんなり査定が終わったが問題は牛男だ。出すのをやめようかと思ったけどきっとこの後素敵なことがまっていると思うので思い切ってリュックから取り出す。やっぱり妙な空気が流れた……解体屋の主人は「連絡してくるからちょっとまってろ」と言って急いで何処かに走りさっていった。


 主人をまっていると大勢の人が[解体屋]に集まり押し合いへし合いの大騒ぎとなった。「誰が倒したの!?」「聖剣は!?」「勇者様はいるの!?」私は面倒事を避けるためにアロイーンを生贄にした。


「この方がミノタウロスを倒し聖剣を抜きました!」

「えええ?ちょっと!マルレさん!」


 あっという間に住民に囲まれてうろたえるアロイーンさん。


「本当か!?」「聖剣を持ってるぞ!」「勇者だ!」


 町の英雄が住民に引っ張られていくのを見送る。


「倒したのはあな、むぐぐ」


 リーシャーさんの口を抑えて黙らせさらに英雄を追加!


「こちらの方は杖に選ばれた聖女ですよ~」

「ちょっとマルレさん!」


「聖女様だって!?」「こちらもご案内しろ!」


 二人ともごめんなさいね~飲み放題食い放題のお祭りのために仕方がなかったの!


 予想通り小さな町は飲めや食えやの大盛り上がり!様々な料理が並びお腹がはちきれるんじゃないかというほど食べて食べて食べまくりました。魔王退治に協力するんですものこれぐらいご褒美をもらっても、ばちは当たりませんわ!


 町を上げての大騒ぎは辺りが明るくなるまで続いた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る