023-名ばかりの交流イベント

「この班の交流イベントは、盗賊団のアジトの強襲と壊滅だ!」


 え? えええええええええええ!? ラッシュ騎士団長!何を言ってるのです? なんですかそれ!? どこが交流イベントなんですか!?


「ちょっと! どこが交流イベントなんですか!」


 ファーダが食って掛かる。


「盗賊と交流だ……」

「お兄様……。言ってて苦しいって、ご自分で分かってますよね?」


 さすがに、ラーバルも突っ込みに回る!


「仕方がないだろう。下準備なしで実戦投入する訓練なのだからな」

「うわー実戦訓練って言っちゃいましたよ……」


 アリッサがドン引きです!


「フハハハ! 面白そうではないか!」

「悪党を片付けられるんだ。問題なかろう」

「ツッコミどころ満載だけど面白そうですね」


 ダメだ……男どもはダメだ……。


「規模はどれくらいでしょうか?」


 ラーバル切り替えが早すぎです! そして、やる気全開です!


「ちょっと! 私とアリッサは、納得してませんわよ!」

「そうですよ! 盗賊って! いきなり実戦って! もっと弱いモンスターとかでいいじゃないですか!」


 そうよアリッサもっと言ってやりなさい!


「他の班はそんな感じだ……。この班だけだ」


 私たちだけ? なんでそんな事に!


「アーク殿下に功績を積ませたい上の判断だ……。だから最高戦力を集めてあるし引率も私だ」

「アークのせいじゃないですか! どうしてくれるんですの!」


 こんな理不尽は許されません! アークが勝手に一人でやればいいのよ!


「全てが私のためではなく半分は婚約者のマルレのせいでもある。この期を逃すと、二人で行かされるかもしれんぞ?」

「なん……で……」


 私もですって! そんな! この期を逃したら二人で!? それは避けなくてはいけません!


「ごめんなさい、アリッサ一緒に来てくれますか?」

「マルレのためなら、しょうがないかな~」

「ありがとうございます!」

「えへへ~」



「全員が同意したな。では作戦説明に入る!」


 ラッシュ騎士団長が詳細を説明する。


「場所は西の国境付近にある洞くつだ。周辺の村と商人に被害が多発したため、調査をおこなった。すると、盗賊団が結成されたのが確認された。規模は20人程度でリーダーは強盗で指名手配中のアキューレと判明している。構成員の戦闘能力は、騎士団新兵以下で苦戦することもないだろう。リーダーの逃走にだけ注意しろ。逃げ足だけは速いが戦闘になれば雑魚だ」


 新兵より弱いのが20人ならラーバル一人でも楽勝ですね。みんなの戦いが見られるのはうれしいけど……。この世界だとやはり無法者は、その場で死刑ですよね……。トモカの記憶が足かせにならないといいですわね……。


「以上! 質問は?」


「装備はどうなっているのかしら?」

「各々にあった装備をこちらで用意している。装備を整え次第出発だ」


 男女にわかれて、準備室に入り装備を整える。ラーバルは片手剣に盾、そして重よろいの騎士装備ですね。アリッサは白いひらひらした、かわいらしいローブに木の根のような木製のつえの魔道士装備ですね。


 そして私は……。黒いチューブトップとポケットがいっぱい付いたカーゴパンツに編み込みロングブーツ。そしてフードマントを羽織り、腰のベルトには短剣が2本……。これはどう見ても……。仕方ないので装着してみる。


「私の装備は、なんだかおかしくないですか? これじゃどっちが盗賊かわからないですわ」


 上半身を回しながら自分の姿を確認する。おなかがスースーしますわ……。


「一体何判定なんだろうね……」


 アリッサちゃんも困惑ぎみです。


「マルレには私と同じ、騎士装備が用意されてると思ってました」


 これってどう見ても裏稼業うらかぎょうの人ですよね。


「団長に聞いてきますわ……」


 準備室から出ると班のみんなが待っていた。アークは軽よろいに赤いマント、それと片手剣。ガオゴウレンさんは黒を基調とした袖なしの武道着。ファーダは……フードマントに黒い革よろい……なんとなく理由がわかりました……。


「ファーダ……。私は、剣士だよね? なんでこんな装備なのかわかる?」

「俺と同じ訓練しているって言ったら、なにか勘違いされたみたいで……申し訳ありません!」

「そうですよね。気配消したり……壁に張り付いたりしてたもんね……」

「ファーダくん……。マルレは自分の家の仕事を聞いたことないのか?」


 アークが不思議そうにファーダに聞いている。家の仕事?


 そういえば、「おまえは、うちの仕事は向いていないから、なにも気にしなくていい」と言って教えてくれませんでしたね……。


「旦那様が知らなくて良いって、隠してたんですよ」

「そうだったのか……。マルレ何も気にしてはいけないぞ、服装に意味なんてないのだ。さっさと盗賊を片付けよう」

「気になるに決まってるでしょ! アーク! ファーダ! きっちり教えなさい!」

「知らなくても良いこともあるのだぞ?」

「申し訳ありません、お嬢……。国家機密なのでこの場では言えません……」


「なら、ちょっと顔を貸してくれないかしら?」


 ファーダの首根っこを捕まえて作戦を話した個室に放り込む。そして、扉を閉めて、その前に逃げ道をふさぐように仁王立ちをして詳しい話を聞き出す。


「ここなら二人きりです! きっちり教えてもらいましょうか?」


 ファーダは、「旦那様に怒られる」だの、「勘弁してください」などの泣き言ばかり。「体に聞くしかないようですね……」と握りこぶしを作ってみせるとついに口を割りました。


 ドレストレイル家は代々、裏の仕事専門で諜報ちょうほうから暗殺までこなすスペシャリスト集団[トレイル]だったようです。


 資料を調べても乗っていないのは、情報拡散を防ぐためで、一般には知られていないそうです。王族と国防で連携を取る近衛騎士団だけが、知る存在のようです。流魔血も隠密おんみつ戦闘特化の特性とくせいでやはりお父様も、もっているらしい。[トレイル]の実力はお父様がトップだということです……。


「このことは、ラッシュ様やラーバルは知ってるの?」

「いえあの場で知っているのは、アーク殿下だけだと思います」

「でも……バレてないかしら?」

「まだ平気です組織の名前は同じ裏稼業うらかぎょうの人しか知らないはずです。素早さが高いから動きやすい服装になった、ってことでごまかしましょう!」

「そうするより他にありませんね……」


 個室から出て素知らぬ顔で「問題はないようです。ファーダの勘違いで、こんな装備になったそうです」とごまかしましたが、みんな空気を読んで聞かないでくれるのが、よくわかった。


「とにかく盗賊退治だ気を引き締めていこう!」


 アークが妙な空気を切り裂いて、現地へ出発することを提案しました。


 はぁ~わが家の仕事が、そんなだいそれたものだとは、思いませんでしたわ……。普通に領主だけをやってるのだと思っていました。けれども、よく考えると王都の中にあるのに侯爵っておかしいですわよね。侯爵なのに軍もなければ国境沿いの領地もないし……。真実を知った今なら納得できますわ……。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る