007-初めての対人訓練

 私は国立魔術学園の隣りにある騎士訓練場に来ています。大失敗をして公爵令嬢のラーバル・バルトレイス様に秘密を知られてしまいました。それは、冒険者を目指していることで、黙っている代わりに、ここへ呼び出されました。


 そして、大失敗のあとにまた大失敗! うっかり剣を持ったまま、寮の自室に帰ってしまい。ルームメイトのアリッサちゃんに剣を見られてしまいました。結局、すべてがバレてしまい、ここに呼び出されたことを話してしまいました。


 それを聞いた彼女は「心配だから、絶対に私もついて行く!」と言って無理やりついてきてしまったのです。


 腕を組んだラーバル様は、いつもの優しい目を獲物えものを狩る、たかの目のように変えた。そして、私の隣りにいるアリッサをにらんでいる。


「なぜあなたがここに居るのですか?」

「おね……マルレちゃんが心配なので、ついてきました!」

「どういうことですか?」


 怖い! たかの目を私に向けないで!


「あの後、剣を持ったまま、寮の自室に帰ってしまって……。ごまかそうとして失敗しました」


 ほんとに面目ないです。


「はぁ~あなた、うそや計略にはまったく向いてないですね」

「おっしゃるとおりでございます」

うそがつけない子って言ってください!」


 アリッサちゃん……。それ意味が同じですわよ……。


「まぁ良いわ、やってもらいたいことは、模擬戦です」

「模擬戦?」

「そう、私と模擬戦をして実力を見せてほしいの」


 模擬戦? 対人戦!? 剣技を使って戦える!?


「ぜひ、お願いします! やってみたかったんです、対人訓練!」

「ふふっ、やる気は十分ですね」

「マルレちゃんて戦えるの?」

「3年ほど自己流で、剣の練習をしてたわ」


 フフフ! 揺れる丸太をたたいてたのよね!


「では準備しましょう」

「はい!」


 一時は、どうなることかと思ったけど、まさか対人訓練ができるなんて、まるで夢のようだわ!


 それから私は、動きやすい服に着替え、木剣を持って訓練場でラーバル様と対峙たいじしている。騎士団の方が審判をやってくれるようです。なんだか緊張してきましたわ。


 準備運動代わりに軽く木剣を振る。ヒュヒュ! ヒュヒュヒュ! 軽くて、いい感じ、扱いやすい。


「うわ~マルレちゃん、すごいね」


 集中した私に、音は聞こえても意味は入ってこない。


 初の対人戦……。無様なところを見せる訳にはいかない! 私は剣術教本の内容を思い出していた。


 初心者の場合、先出しは不利です。相手の動きを先読みして防いで動きを崩してから、確実にすきを突くのが良い。たしかこうだったはず。


 たかの目になっているラーバル様と向き合う。


「はじめ!」


 審判役が開始の合図をした。


 両者動かない。


「相手の出方を見る……。少しは勉強しているようね。では、こちらから行きますよ!」


 ラーバル様の攻撃は苛烈だった。対人経験のない私は、太刀筋を見てから反応して防御するので精一杯だった。そして流れるような連撃で、攻撃を返せるほどのスキはありませんでした。


 そして、ラーバル様は剣を下ろしました。


「止め! それまで!」


 審判役が試合を止めた。


 完敗です……。防戦一方で、何もさせてもらえなかったわ。


「あなたの実力は十分に理解したわ」

「はい……」

「それであなた、ここで訓練する気はない?」

「いいのですか?」

「こちらから頼みたいぐらいだわ。2年間訓練して、卒業の時に、気が変わったらで良いから、騎士団への入団を考えておいてね」

「は……はい」


「私は少し休みます。訓練の日時は追って連絡しますわ」


 そう言い残すとラーバル様は、訓練場から出ていってしまった。


 うーん? あれだけやられたのに、なんでスカウトされるんだろ? 見込みがあるってことかな?


「マルレちゃん、すごいね! 全部防いでたよ!」


 アリッサにはすごく見えたみたいね、防戦一方で良いとこなしだったのに……。ですが褒められてちょっとうれしいかも?


「ううん、完敗だったわ。でもすごいって言ってくれてありがとう」

「本当にすごいんだから! もっと自信を持って!」

「わかったわよ」


 なんか、納得いかないけど、反論するほどのことじゃないよね?


「それじゃ~、寮に帰りましょう」

「そうですわね」


 完敗だったけど、剣も振れたので、大満足だわ。こんなことなら、初めから、ラーバル様に相談しておけばよかったわ! でも、今日はスッキリ眠れそうね!


 明日は修了式だし、春休み中はガンガン訓練するぞ! おー!


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