秘密の想い

MiYu

男女の友情

「なあ黒崎」

「なんだ凪」

「勇者っていると思うか?」

「勇ましい者か?それだったら居るかもな」

「じゃあ魔王は?」

「魔が差しすぎて、王様扱いされた奴か?」

「黒崎。それは流石に無理があるぞ」

「ですよね」


黒崎悠くろさきゆう

白夜高校に通う男子高校生。

凪叶慧なぎかなえ

白夜高校に通う女子高校生。

この物語は、二人の青春の一部を描いたものだ・・・。


「それにしても凪。急にどうしたんだ?異世界にでも行って来たのか?」

「そんな訳あるか。最近流行の悪役令嬢になったつもりはない」

「そうか?似合いそうだけどな」

「喧嘩売っているのか?」

「これは失敬」


2人は私立白夜高校に通う一年生。

席が近い事も多く、異性の友人として話すことも多い。


「まあそうだな。私もラノベとか最近読むようになったんだが・・・」

「そうだったんだ」

「まあな。それでだな、異世界って本当にあるのかなぁって思ったんだよ」

「なるほどねぇ」

「それで黒崎はどう思うんだ?」

「そうだなぁ。あったら面白いかもな」

「面白い?」

「うん。だって人間一度は、魔法使ってみたいと思うだろ」

「確かにそうかもだが、それが理由か?」

「まあな。でもどうなんだろうな。魔法って」

「え?」

「だってさゲームとかだと鉄板だが、実際に物語として出てこない魔法ってあるじゃん」

「そんなのあるのか?」

「凪は気づかないかぁ。まだまだだな~」

「良いからもったいぶるわずに言え」

「はいはい。まあ率直に言うと、蘇生魔法だよ」

「あー。確かに物語としては無いかも」

「だろ?だから魔法って万能じゃないのかもなぁ」

「黒崎ってそんな事考えているんだな」

「まあ魔法があったらさ、俺は多分自分の為に使うね」

「そうなるよなぁ」


2人はこの高校で出会う。

同じクラスメイトとして過ごしてきたが、こうして話すのは夏あたりからだ。

夏休みに二人で遊びに行くほどの仲だ。

だが、この二人は恋人関係ではない。

今は、ただのクラスメイトで友人なのだ。


「話は変わるんだけどさ」

「黒崎から話題振ってくるなんて珍しいな。どうしたんだ?」

「男女の友情って存在すると思うか?」

「今の私たちの関係がそうだろう」

「なるほどな」

「そういう事だ」


黒崎悠は、成績は上位。

毎回のテストにて学年3位である。

運動に関しては、良くも悪くもない。

バスケだけは、強豪校の選手に匹敵するレベルである。

顔は、中の下。

生まれてこの方、恋人どころかモテた事もない。


凪叶慧も、成績は上位。

毎回のテストにて学年で10位以内に入る。

運動に関しては、かなり出来る。

競技関係なく、万能だ。

顔は、美人系。

かなりモテる方だが、今までに彼氏は居た事はない。


「にしても急にどうしたんだ?」

「何でもないよ。ただ凪は男女の友情を信じてるのかなって思って」

「なるほどな。それこそあった方が面白いだろ?」

「ははっ。そうかもな」

「だろ?」


男女の友情。

これは非常に難しいと思う。

大人になればもう少し分かるのだろうが、今は高校生だ。

よく話すとは言え、クラスメイトだ。

だが、ただのクラスメイトは休日に二人で遊ぶのだろうか?。


「なあ黒崎」

「なんだ凪」

「ドーナツ奢って」

「嫌だよ」

「どうして」

「何故、俺が凪にドーナツを買ってやらんといかんのだ」

「腹減ったから」

「雑な理由だな」

「それ以外に理由は無いだろ」

「馬鹿なのか?」

「数学ならお前より良いよ」

「確かに」


キーンコーンカーンコーン

予鈴が鳴り響く。


「なぁ黒崎。次の授業何だっけ?」

「あー。なんだっけ、物理?」

「阿部先生か」

「だな」

「でも予鈴なったのに遅いな」

「確かに」


次の授業は物理で、今日はこれが最後の授業だ。

しかし予鈴がなったにも関わらず、先生が教室に来ない。

こういう時、普通なら先生を職員室に呼びに行くだろう。

だが、ここにはそんな真面目な奴は居ない。


「阿部先生も休みかなぁ」

「私たちのクラスも今日は休み多いもんな」

「藤川に江奈。それに戸舘も居ないとはなぁ・・・」

「そうだな。黒崎のいつもの騒がしいメンバーがいないもんな」

「そうなんだよなぁ。つまらないな~」

「何言ってんだ?ここに私が居るだろ?」

「わーかっこいい」

「棒読みだなぁ」


戸舘大雅とだてたいが

藤川紘ふじかわひろ

江奈瑞穂えなみずほ


この三人とは、中学もバラバラにも関わらず、なんやかんやで仲良くなって馬鹿している。

面白い事に成績も部活もバラバラ。

そんな奴が集まっているグループなのだ。


「マジで来ないな」

「来ないなぁ」

「どうしたものか」

「どうしたもんかなぁ」

「凪、お前優等生だろ。先生呼んで来たらどうだ?」

「黒崎、お前優等生だったよな。先生呼んで来い」

「「・・・」」

「寝ぼけてるのか凪」

「お前こそ寝ぼけているみたいだな。黒崎」

「あ?」

「あぁ?」


こうして黒崎と凪のバトルが勃発する。


「じゃあ毎度ながら勝負と行きますか」

「今回は何で勝負する?黒崎」

「今回はこのFPSゲームで1on1といこうじゃないか」


最近、この白夜高校にて流行っているスマホゲームで勝負をつけることになった。


「良いだろう。お前が私に勝てた事あるか」

「かなり五分五分だろ!!」

「私が63勝62敗だな」

「そんなに勝負してねぇよ!!」

「あれ?36勝26敗だっけ?」

「まあまあ差が開いたな!!」

「まあ私は覚えてないが、黒崎は覚えているのか?」

「・・・覚えてない」

「よしっ!じゃあリセットだ」

「お前本当に覚えてないんだな?」

「ひゅっひゅ~」

「ベタな口笛!!」

「まあ良いじゃないか。細かい男はモテないぞ」

「それはおかしいな。俺はすでにモテた事がない」

「じゃあ細かい男だな」

「細いのは認めるが細かくは無いと思うけど」

「ほう。それは私への当てつけか?身長は黒崎の方が高いのに、体重はお前の方が軽いと来た」

「生物学的なところだな」


黒崎悠の身長は173cm。

体重は、50kgなのだ。


「というかさ凪。体重は俺の方が軽いとは言うが、そんな変わらないんじゃないのか?」

「私を怒らせたようだな」

「えぇ・・・」


女性に体重の話は禁句だ。


「じゃあ黒崎。覚悟は出来たな?」

「えぇ・・・。というかドーナツを奢る賭けなんだよな?体重増えるんじゃ・・・」


パンッ!!


銃声が鳴り響く。

とは言ってもリアルではなく、スマホから音が鳴っていた。


「おい、そんなに殺意むき出しにしなくてもいいだろ」

「絶対にドーナツ奢らせる」

「その執念は何なんだ・・・」


それからは、激闘だった。

先に5キルした方が勝ち。

至ってシンプルなルールだ。

使用する武器は自由。

接近戦では、凪の方が強い。

しかし、遠距離は黒崎が有利なのだ。


「今は4対4だな」

「黒崎やるな」

「凪もな」

「じゃあこれが最後だ。これで負けた奴がドーナツを奢る」

「そうだな。これが最後だ」


お互いに銃を構える。


「じゃあ行くぞ!」

「来い!!」


ガララッ!!


「おーい。待たせたな。ごめん~」


教室にドアが勢いよく開けられ、ある人が入って来た。

阿部先生の到来だ。


パンッパンッ!!


そしてタイミング悪く、黒崎と凪は発砲してしまった。


「今、ゲームしてたやつ出てこーい。さもないと手荷物検査するぞ~」


阿部先生はそう言った。


「「はい」」


流石に、ここで黙って他人に迷惑をかける訳にはいかなかった。


「黒崎と凪か。珍しいな二人が不良行為なんて」

「珍しいっすよね~」

「すみません」

「よしっ。じゃあ凪は許そう」

「いや、俺は!?」

「凪は謝ったけど、黒崎からは聞いてないぞ?」

「誠に申し訳ございませんでした」

「うん。分かればよろしい。ひとまずは、二人の成績に免じて没収はしないでおいてやろう」

「「ありがとうございます」」


この学校では、基本的に学校内ではスマホを使用してはいけないという校則が存在する。

まあでも先生が見てないところでは別に構わないという感じになってはいる。


「よしっ。じゃあ授業を始めるぞー」


こうして物理の授業が始まった。

授業中は特に何事もなく過ぎて行った。


キーンコーンカーンコーン


「よしっ。じゃあ今日はここまでだ。お疲れ」


今日の授業はこれで終わりだ。

これからは終礼で、担任が来るのを待つ。


「凪。放課後、いつものドーナツ屋に行くぞ」

「えっ?」

「奢るぞ」

「良いのか?」

「良いよ」

「ふっ。ありがとうな黒崎」

「気にするな。俺の気まぐれだ」

「そうか」

「だけど勝負は俺の勝ちだったけどな」

「ん?」

「いや。だからさっきの勝負の事だよ」

「はぁ!?あれは無しになっただろ」

「ほら細かい事を気にする奴はモテないぞ」

「私は良いんだよ。こんな私を好きでいてくれる人と付き合いたいんでね」

「ほぇ~」

「興味ないのか?」

「ん-。凪と付き合う相手か・・・。少し気になるな」

「黒崎は好きな人居るのか?」

「直接的な質問だな」

「お前だって高校生なんだから、好意を抱いている人いるのかなって思って」

「さてどうでしょう」

「黒崎ってそういう所見せないよな」

「凪こそどうなんだ?好きな奴とかは」

「・・・居るぞ」

「そうなんだ・・・。ってはぁ!?」

「私だって華の女子高生なんだ。好きな奴くらいいるさ」

「そうだったんだ」

「ああ。・・・お前だよ」ボソッ


凪は誰にも聞こえないくらいの声で呟く。


「ん?何か言ったか?」

「ドーナツは2つ奢れって言ったんだ」

「はいはい」


ガララッ


「席につけ~。帰るぞ~」


担任の先生がやって来た。

この担任は、割と緩い先生で終礼はさっさと終わらせてくれる。


「じゃあ連絡事項は特にないから。はい号令!」


「起立。礼」


「「「「ありがとうございました」」」」


ようやく下校だ。


「じゃあ行くか凪」

「そうだな」


2人は、共に教室から出ていく。


「なあ凪」

「どうした?」

「凪は好きな人居るのに、俺とドーナツ食ってて良いのか?」

「はぁ・・・」

「何故に溜息・・・?」

「お前はラブコメの主人公なのか?」

「どういう事だよ。まさかっ!」

「気付いたんだな」

「俺は一体誰にフラグを立てたんだ!?」

「・・・」

「今日、学校に来る途中に自転車のチェーンが壊れてて俺が修理した女の子か?」

「は?」

「それとも、昨日の放課後、ラノベの新刊を買おうとしてたら残り一冊で最後の一冊を同じく買おうとしてた女の子か?」

「昨日って・・・」

「まさかのさっきトイレに行った途中に階段から踏み外そうとしてたのを俺が助けたあの先生か!?」

「見境ないな」

「えぇ!?」

「はぁ。先に靴箱に行ってるぞ」


凪は先に靴箱へと向かう。


「はぁ・・・。凪の奴、あからさま過ぎるぞ。これで俺じゃなかったら泣けるぞ」


凪の想いは、静かに届いていた。

そして、黒崎も・・・。


「あんな顔されたら少しは気になるじゃねぇか。馬鹿・・・」


凪の好きな人を話している時の彼女の顔は、とても美しかった。

そんな表情を見てしまった黒崎の鼓動は誰にも気づかれはしないが、確かに早くなっていた。


「この関係性が壊れるのは嫌だなぁ・・・」


その頃、凪は・・・。


「全く黒崎って奴は・・・。はぁ。これじゃあ先が思いやられるな」


彼女もまた、黒崎悠と話す時は鼓動が早くなる。


「私ときたら、どうやらどうしようもないほど黒崎の事が好きなんだな・・・」


彼女は、彼のことが好きで仕方がない。


「この想いを伝えたら、この関係性は壊れちゃうかな・・・」


こうして二人は、この心地良い関係を守るためにこの想いを内にとどめる。


これは、誰にも気づかれない両片思いの物語だ。


「凪」

「黒崎」

「早く靴に履き替えろ。ドーナツ食うんだろ?」

「ああ!すぐに履き替える!!」


彼と彼女の青春はまだまだこれからも続く・・・。


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