第81話 胸糞。
教員の避難誘導に従い僕らのクラスは校舎を出た。
すでに生々しいやりとりは消してある。
学校全体がパニックであり、訳の分からない自体に戸惑い怒る。
あちこちでこの騒ぎが立川という議員や校長、学年主任丸山、立川志乃のせいだという事が広がっている。
避難誘導をして適切な場所にとりあえず避難させた先生たちも、事態を飲み込めず混乱している。
生徒だけならまだしも、一般客の対応に追われている。
「お祭り騒ぎだな」
ピーク時であり、事態を知らない新規客も入り続けている。
広間に大量の人が集まっている為、イベントが始まると勘違いした客が帰ろうとする客と揉み合い始めてしまっている。
「高嶺さん、あっちはどうだ?」
『修羅場も修羅場。関係者集めて地獄を煮詰めてる』
「温まってるな。流してくれ」
ここから立川議員たちはどんな言い訳をするのか。
[あれは偽造だ! こんな事があるはずがない!!]
立川議員が叫んでいた。
唾を飛ばす勢いは会議室に反響するほどに声量だ。
僕が実行委員に立候補した理由の一つがこの演出のためだった。
僕ら探偵は知っている。
みっともない秘密を暴かれた時の阿呆の定番な言い訳を。
[
[あんなの見せられて信じられる訳ないじゃない!!]
クライアントの1人の丸山寿子。
学年主任丸山の妻。
クライアントたちには写真は証拠の一部しか見せていなかった。
弁護士との打ち合わせで証拠を提出して示談でケリを付ける予定は立てていた。
[前々から怪しいとは思ってたわ。弁護士に来てもらいます]
そう言って担当弁護士に電話をそれぞれ掛け始めたクライアントたち。
弁護士たちからすれば当初の想定と違う展開の為来てくれるかは分からない。
弁護士のこの計画を話せば確実に止められる事が分かりきっていたからだ。
表面上はクライアントの緊急事態である。
墓場まで持っていってもらわなければならない嘘をクライアントたちには呑ませた。
今や学校全体が生放送修羅場のリスナーと化した場では、醜い言い訳や「弁護士」というワードに反応する生徒や客たちで盛り上がっている。
スキャンダル好きな人が今後の更なる修羅場予想実況なんかも始めている。
拡散されていく情報。
さきほど取材班が連絡を取っていたであろう報道記者も詰め掛けてお祭り騒ぎが酷くなっていく。
[あなたたち、二度と表を歩けると思わないで]
[奥さん、とりあえず落ち着いて下さい]
[落ち着ける訳ないでしょ?! なんなんですか理事長、貴女もグルなんですか?!]
ますます広がる学校側への不信感。
僕の近くまで来ていた恩田さんと有栖川さんが更なる一手を打つ。
「そう言えば、学園祭で使われてる食材とかの仕入先が立川議員の繋がりある所が多いって誰かが言ってたかも」
「それって、学校側が立川議員と付き合いのある人の所を贔屓して使ってたって事かい?」
実行委員に立候補した理由としてこの情報の事もあった。
調べた結果、実際は関連企業のうちの2〜3割だった。
いくつかは立川議員との繋がりのありそうな所に発注先を変えたりもしたから、全体の4割ほどになった。
そもそも地域にも還元される祭りや公共団体の行事では地元の繋がりなどはどこにでもある。
しかし、理事長に対してクライアントが言った言葉は学校側の不信感を煽るには十分過ぎた。
「てかこんな事、誰がやったんだろうね?」
「普通に考えれば不倫された人達だろうけど、どう考えても素人には無理そうだよな」
「手が込み過ぎてるし、立川とかいう議員のアンチ集団とか? 贔屓してたんでしょ? 学校側も」
周りには一連の騒動が立川議員への架空アンチ集団の行った犯行ではないかと噂までされている。
繰り広げられる修羅場の
実際に仕込んだ物や時間は個人ではできそうにもないものだ。
ましてや学園祭の準備で夜遅くまで残っている生徒たちも多くいる中で準備するのは骨が折れた。
放送室の機材をこちら側で操作する為の仕掛けや会議室と応接室の盗聴放送の為の工作も誰にも見つからないように最新の注意を払って
会議室と応接室のどちらを使うかの読みは外せなかった為にどちらにも施行した。
準備に余念はなかった。
[丸山寿子さんの担当弁護士の小笠原と申します]
お祭り会場と化した広間では「弁護士キタ━(゚∀゚)━( ゚∀)━( ゚)━( )━!!!!! 」と大はしゃぎである。
弁護士も提出されていた証拠とは異なる証拠の数々に頭を抱えているようだった。
しかし法律のプロ、クライアントと打ち合わせをし直し計画を詰めてすぐさま立川達の首を締め上げる一手を放つ。
[私たちはそれぞれに慰謝料500万の一括請求をさせて頂きます]
どよめく会場。
生徒たちからすれば500万という大金はもはやドラマや映画での話である。
一般的な相場は示談でもせいぜい100〜200万。
裁判に持ち込んだとしてもその相場より低い。
だが相手は公務員である。
簡単に首を切れない相手である分搾り取りやすい。
しかしネックなのが立川志乃という未成年との淫行である。
犯罪行為に政治家絡み案件、学校側の対応や弁護士の手腕によっても結果は変わってしまうだろう。
クライアントは金はどうでもいいと言った。
地獄に落とせればそれでいいと。
[
[パパ、酷いよ……]
[血の繋がりのない娘のくせに、どこまでも私に手を汚させよって!]
[……え……]
まさかの事実発覚。
怒涛の展開だ。
これは僕も流石に予想してなかった。
[逃げたお前の母さんは不倫をして托卵した。私との子供としてな。……っはは!! お陰で私に似なくて頭が悪い。股を開かせるくらいしか使えない小汚い子供。
[……そ、そんな……]
立川議員が立川志乃とヤッていたのも、自分の娘ではないと知っていたからだったのか。
[立川家のお涙頂戴のお家事情はこちらはどうでもいいです]
胸糞悪い話。
どこまでも汚い話。
[失礼します。立川議員の顧問弁護士の田ヶ原と申します]
[やっと来たか田ヶ原!]
立川議員も呼んでいた弁護士が来た。
これも想定内。
これまでの立川議員の蛮行を有耶無耶にしてきたのもこの顧問弁護士の腕である事も分かっていた。
この為にこんな大掛かりな仕掛けを施した。
現状を把握した立川担当弁護士。
しかし、時すでに遅し。
[立川議員、手の打ちようがありません]
顧問弁護士は燃えている建物をただ眺めているかのようにそう言った。
[それをなんとかするのが顧問弁護士だろうが!!]
[この会議室での会話、校内中に垂れ流されているんですよ]
丸山寿子の弁護士も来た時には知っていたはず。
しかしそれを持ち出さなかったのはこの状況すらも即座に判断して利用した。
スキャンダルを表に出さず処理するのが得意な立川議員の顧問弁護士では両手を上げて降伏宣言をしろとしか言えなかった。
ひたすらに泣く立川志乃。
途方に暮れる学年主任丸山と内山田校長。
僕らの完全勝利となった。
それでも残ったのは胸糞の悪さだけだった。
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