第70話 新学期。

「ええ〜というわけで新学期、だるいけど心機一転頑張って勉学に励んで下さい〜。現場からは以上」


 担任のやる気のない挨拶から始まった二学期。

 クラスのやつらも小麦色に焼いた肌をさらけ出してのスタート。


 ここからの授業は宿題提出ラッシュだったので、立川がしっかり宿題をやってきていたのかずっと見ていた。


 立川の学力と授業態度から推測できるのは、宿題は全然やらないだろうという安易で失礼な予想。


 しかし予想に反して全てを何事もなく提出した立川。

 取り巻きたちと協力でもしてやったのか、あるいは誰かにさせたのか。


「向日葵ちゃんのだし巻き玉子美味しそう〜交換しよ〜」

「千夏ちゃんどうぞ。今日のだし巻き玉子はいい出来だから」

「私も! ミートボールと交換」

「いいよ真琴ちゃん」

「……ひまちゃん、私も……」

「ふふっ。いいよ〜」


 昼休みになり今日も仲良く4人はお弁当をつつきあう。


 僕と向日葵が義兄妹だと言う事は僕が刺されて以降露見してしまったので、同じ弁当の中身である。

 中身が同じというか、僕が朝ごはん作りながら作ってるので把握しているだけである。


 最近は向日葵も一緒に作ってたりもする。

 エプロン姿の向日葵を朝から見れて儂は眼福じゃよほっほっほ。


「…………雨宮さん、可愛いな…………」

「…………天使っているんだなぁ…………」


 クラスのモブ男子たちが向日葵を見てそう言っているのを僕は聞き逃さなかった。


 誇らしい気持ちもあるが、向日葵を視姦する事は許さない。

 大人しく遠くから眺めて向日葵に浄化されていろモブ共。

 そしてそのまま性欲を無くしてしまえ。


「ご馳走様でした」


 向日葵たちはお昼ご飯を食べ終えて談笑している。

 立川たちが居ないぶん、向日葵も三好も楽しげに話している。


 クラス内のスクールカーストトップは今や向日葵と言っても過言ではないだろう。


 力による支配ではなく、向日葵の笑顔による向日葵教の誕生である。

 向日葵の花のシンボルのストラップとか密かに作ったら売れるのでは……


「わたし、飲み物買ってくるね」

「私も行く!」「私も!」「あたしも行く!」

「じゃあみんなで行ッ?! ……ご、ごめん」

「ッた?! ちょっと、どこ見て歩いてんのよ?」


 立ち上がり教室を出ようとした向日葵にぶつかった立川一行。


 よし、立川は殺そう。

 社会的制裁とかどうでもいいや。まず殺そう。

 大丈夫だ問題ない。


 殺してバラバラにしてその辺の養豚場のブタに立川の死体を喰わせれば問題ない。


「うっわ! 何その眼!! きっも! 真っ赤じゃん! 呪われそう〜」

「……ッ?!」


 立川にそう言われて向日葵の血の気が顔から引いたのがわかった。

 一瞬にして最悪の状況だ。


「そのキモい眼もっと見せてよ」

「……ちょっ……」

「止めなさいよ立川!」


 向日葵が両手で眼を隠すのを退けようとする立川。


 嫌がる向日葵とそれを止めようとする千夏と雲原。

 三好は立川に怯えている。


「!!」


 気付けば僕は立川を投げ飛ばしていた。

 訳もわからず天井を見上げている立川に近寄りシャーペンを逆手に持って突き刺そうとしていた。


 すんでのところで突き刺すのを止めたが、やり過ぎた。


 震える立川を僕は睨みつけた。

 シャーペンでも人は殺せる。

 眼球に突き刺して脳味噌をほじくり返してやればいい。


 喉元に何度も刺してやってもいい。


 だが、それはダメである事を知っている。

 もどかしい。


「人の嫌がる事はするなよ」

「……」


 固まっている立川。

 この場で殺す方法を巡らせているのが殺気として伝わっているのだろう。


 かろうじて残っている理性でどうにか殺意を抑える。


「…………僕はお前と主任たちの関係を知ってる…………」


 僕は立川だけに聞こえるように耳元でささやいた。


 これが最初で最後の警告。

 僕は向日葵みたいに優しくない。


「雲原、向日葵を保健室に連れて行くから、次の授業の先生に伝えといてくれ」


 僕はバッグから取り出した眼帯を向日葵に手渡した。


「千夏、一緒に来てくれ」


 僕は向日葵に寄り添う千夏を連れて保健室に向かった。


「向日葵、カラコンが無いのは左眼だ。左に眼帯付けとけ」

「……うん……」

「……」


 千夏は何も言わない。何も聞かない。


 それが今は有難かった。

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