『夫婦の日』

石燕の筆(影絵草子)

第1話 『妻の場合』

11月22日が来るのが妻はかなり嫌がっている。


というのも、11月22日は、


『いいふうふ』という風にも読むが、


いつの頃からか、隠し事のない理想の夫婦

を目指そうということで、

実験的に取り入れられたのが、


『夫婦円満システム』だ。


夫婦円満システムとは…


より良い夫婦をつくるため、世界に向けて

発信すべき理想的な夫婦の形を、

求めるために開発考案されたシステムで、

必ず夫婦の日には、ひとつ

隠し事を互いに打ち明けなければいけない。

隠し事をさせないことにより、

嘘のない夫婦生活を送らせることを

目的としている。


家族省提供 夫婦円満システムガイドより。


ところが、デメリットもあり、

隠し事を打ち明けるということは、

打ち明けることが少しずつなくなり、

『浮気』なども発覚してしまい、

その末離婚なんてことにもなりかねない。


だから、反対派なんかも出てきて、

政府もその爪の甘さを指摘されている。


話を元に戻すが、

かくいう私の妻も、その粗の目立つシステムに振り回されて困り果てている中の一人だった。


さあ、何を打ち明けるのか、

どちらが先行かを決めるのは至極簡単。

原始的なやり方で、


『じゃんけん』である。


もう一度言う。


『じゃんけん』である。


じゃんけんの弱い妻が先行。


初手は必ずパーを出すことを知っているのだ。


だから、


『チョキ』を出せば必ず勝てる。


そういうからくりだ。


妻は負けたので、


秘密を打ち明ける。


何を言うのか、私も気になっていると、


『私ね、某国の諜報員なの』


要するに、『スパイ』だというのだ。


007みたいな。


さて、次は自分の番だ。


妻も固唾を飲んで待つ。


浮気なのか、


過去の犯罪でも打ち明けられるのか、


そして、


私は、打ち明ける。


『僕ね、実はオムライス嫌いなんだよ』


目の前に夕飯として出されたオムライスに、


悪態をつきながら


私は、黄色い悪魔と毒づいた。


妻は呆れながら、


『なーんだ、そんなことか』


とため息をついた。


『おいおい、君はスパイだったのか』


と突っ込むと、


『まあね』


と妻は愛らしく笑った。


そうやって毎年11月22日が来るたびに、


ありとあらゆる秘密を暴露しなくてはならない。


ある年は、


過去の恥ずかしい秘密。


ある年は、


失敗談。


ある年は、


思い出話。


私は、私の知らない妻を知り、


妻は、妻で知らない私を知り、


お互いに隠し事や秘密がなくなっていく。


それは、果たして良いことなのだろうか。


明くる日、


隠す必要がなくなったからなのか、


妻はスパイ道具をリビングにそのままにしている。


『いやいや、それじゃスパイの意味がないのでは?』


と思うが、


自分も、去年打ち明けたのだが、


江戸時代から続く忍者一族の末裔なので、


忍者道具を時々そのままにしているので、

お互い様だ。


『鎖が鎌、こんなとこにおきっぱなしにして!』と言われてしまうなんて、日常茶飯事だ。


だから、スパイ道具の、通信機になっている万年筆や、


パソコン内蔵のカバンや、加速機械がついている靴が置いてあっても今ではさほど不思議には思わないのだ。


ところで、


私が今までに打ち明けた秘密、

それに妻が私に打ち明けた秘密を、

一部を三つずつくらい紹介してみようかと思う。


私の秘密…

①体の黒子(ほくろ)の数

②小学生の頃のおねしょで描いた世界地図

③忍者の末裔


妻の秘密…

①付き合った男性の数

②小学生の頃のあだ名

③スパイ


以上である。


幸い今のところ、

夫婦崩壊になるような秘密は、

明かされてはいない。


確かなことは、

妻はスパイで、私は、忍者

というくらいだ。
























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