57
side. Madoka
「すばる、くん…」
「はい…?」
「あの時も、さ…」
こうして手を握ってくれたでしょう?
「円サン…」
不器用だけど。
あの時のキミも今と同じ、優しいヒトだった。
「キミは…キレイだよ?」
ちゃんと笑えてるかな?
…涙は止まんないけど。
「円サン…」
「…弱いクセに。」
ぼそりと吐き捨てた晃亮クンの台詞を拾って、昴クンの肩が揺れる。
オレの手をそっと離し、立ち上がった昴クンは…
怒りを剥き出しにして、
晃亮クンを真っ向から睨み付けた。
「言ったよな…お前でも、許さないって…!!」
叫んだ瞬間、
晃亮クンの身体が宙に浮き。
ガシャンと音を立て、サイドボードに叩きつけられる。
(昴クン…)
プツンと切れてしまった昴クンが、
今度は馬乗りになり一方的に彼を殴り始める。
そんな状況にも関わらず晃亮クンは、ぼんやりと何か考え事をしてるみたいで。
暫く、抵抗しなかったんだけど…。
「ぐッ────…!!」
我に返ったよう目を見開くと、ズシリと重い拳を昴クンの鳩尾へと放った。
ふたりとも、なんて言うか…
スケールの大きな兄弟喧嘩を、してるみたい。
きっと初めてなんじゃ、ないかな?
こうして互いに、
ホントの感情をぶつけ合うことが…
けど、いいのかな?
二人ともハンパなく強そうだから、このままじゃどうなるか判らないし…。
だからといって、いざとなったらオレなんかに止めきれるかどうか…
それでもじっとしていられなくて、何とか身体を起こしふたりの名を呼んだんだけど────…
「やらせとけ、円。」
「えっ…─────兄ちゃ…?」
倒れそうになったオレの身体を。
支えた手と声の主は…いつの間に入って来たのか、オレの兄ちゃんのもので。
不安を目で訴えたんだけど、いいから見とけって…。
未だにぶつかり合う二人の姿を、
顎で指し示した。
仕方なく、二人に向き直る。
すると頭上から、ぽつりと兄ちゃんが呟いた。
「アイツらなりに、初めて向き合おうとしてんだろうよ。」
「そっ、か…」
兄弟みたく共に生きてきた関係でありながら。
晃亮クンに罪悪感を募らせてしまった、昴クン。
そうと気付いていながらも彼に依存し。
どんな手段を用いても、昴クンを傍に置いときたかった晃亮クン。
晃亮クンがしてきた事を。
悪いと解っていても止める事が出来ず。
全てを己の罪へと置き換え、苦痛を背負って…。
彼らはそっくりなんだ。
その不器用さ、内に秘めた純粋な心、
大切に思う、優しさが…痛いくらいに。
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