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side. Subaru




「んん?キミ、オレの事知ってるの?」


俺の態度を察してか、首を傾げる青年。

────…胸元のネームプレートには『篠宮』と記されていた。






「しの、みや…」


「うん、そだけど……ゴメン、どっかで会ってたかなぁ?」


申し訳なさそうに、頭を掻く……篠宮サン。

″年上″なのは分かってたから、サン付け。





どうやらこの人は、俺を覚えていないらしい。

それも…仕方ないだろうが。


一般人のこの人にとっては、

事…忘れてしまう方が、良かったんだろう。





「いや────…ソレ…」


気まずくなって、俺は咄嗟に名札を指差す。

すると篠宮サンは、

「なんだぁ~。」と納得して。照れくさそうに、はにかんだ。







(いいな…やっぱり、この人だけは違う…)


俺のような人種に怯む事も、差別する事も無く。

ありのままで接してくる篠宮サン。


なんだか切なくて。

耐えるみたく、眉根を寄せてじっと見つめていたら…。

すっと篠宮サンの手が、俺の顔に伸びてきた。





「痛いの…?」


労るように、切れて腫れた口端に優しく触れる篠宮サン。

『痛いの飛んでけ~』とか、ふんわり微笑む姿に。


すごく、癒やされた気がした。







「あのっ…」


流石にちょっと恥ずかしくて、声を掛けたら。

篠宮サンはエヘヘと苦笑いして向き直る。






「ごめんごめん、買い物中だったよね~。」


邪魔したね、とカウンターに戻ろうとして俺に背を向ける。────てか、当初の目的を忘れているんじゃ…。


そう思って、離れてく篠宮サンの背を見送っていたら。あっと叫んでまた、こっちへと戻って来た。





「あと1限位は出れるんだから。ちゃんと行かなきゃダメだぞ~!」


腰に手をやり、人差し指をたてて告げる篠宮サン。

つい条件反射でハイ、と返事をしてしまった。

それを満足そうに頷くと、今度こそカウンターへ戻って行った。


…そこから下手くそなウインクをしてくる。






適当におにぎりと缶珈琲を手にし、レジに向かう。

ダメもとで「……タバコ。」と告げてみたら、


「めっ!!」と一喝され、変わりにレジ横の棒キャンディを奢るからと3本手に押し付けられてしまった。






「アリガトーございました~!!」



サービス満点で送り出されて。

ガラス越しにこっそり振り返れば、




(またね。)


口パクで手を振る篠宮さんに、

俺は、不覚にもときめいてしまった。









言いつけを守って学校の屋上へ。

流石に授業は出ないけど、一応…。



その場所で、天を仰ぐ。

やけに甘ったるい味の飴を舐めながら。


遠い記憶…──────中2の夏。

あの日が鮮明に蘇る。




たったあれだけの事なのに。

どうしても、忘れられなかったヒト。


今こうして再会して。

その理由が、答えを見つける。





(コースケ…)


俺は知ってしまったんだ。

あの日が来るまで、あんたと一緒に全力で否定してた事を…。






「篠宮、サン…」


下の名前はなんて言うのだろうか?

…今度会ったら、聞けるだろうか。





(温かかったな…)


指先が、少し触れただけ。

それなのに、あの人から溢れ出る温もりが、


ひしひしと…伝わって来た。






また″ひとり″になれたら、

会いに行こう。


あの人の存在は、


知られてはいけない。

壊しては、いけない。




これは、密かな…

悪い子供の、ヒメゴトだから。

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