第43話

 一気に捲し立てて、大きく息を吸い込んだ、と同時に周りの状況がやっと目に入ってきた。大、珠、筒姫様、炎帝様、八つの瞳が大きく見開かれて私を見つめている。のと同時に四つの口が大きくひらかれたまま閉じるのを忘れている。


「あ、あの」


「沙耶様、ありがとうございます」


 筒姫様が抱きつきながら、お礼を言ってきた。


「私、必要とされているんですね、愛されているんですね。夏は、夏は存在していいんですね」


 そう言いながら、私の胸にしがみつき、おいおい泣き始めた。その光景を見た、うちのポンコツセクハラ屋敷神が、「俺のオッパイに触るな」とかほざいていたがガン無視してやった。お供物、一週間なしにしてやろう。




 その後、炎帝が筒姫様からお水をもらった事もあり、記録的な猛暑は姿を消し、いつも通りの気温に戻った。とは言ってもいつも通りの暑さに戻っただけで涼しくはなっていない。夏は暑いからこそ、夏の思い出も出來るし、美味しいお米も育つ。その暑さの調節を筒姫様がやってくれていたのだ。この暑さくらいなら、年季の入った我が家のエアコンでも快適に過ごせる。


 そしてもう一つ、また一人で炎帝様の下でブラック企業並みに仕事させられるのは耐えられないという筒姫様の申し出によって、元々沖縄にいて暑さにはめっぽう強い珠が筒姫様の元で一緒に生活する事になったのだ。


 私の癒やしでもある珠を手放す事については私も猛抵抗をしたが、筒姫様と炎帝様に懇願されまくり、妥協案として我が家の神棚に珠だけが行き来できる御札を貼る事で納得させられてしまった。うう、寂しすぎる。いつでも帰ってきていいんだからね、珠。ただ一つ、良く分からないのは、なぜ大は筒姫様がいる時に姿を消していたのか。何か会いたくない理由でもあったのだろうか。


 そして、珠のいなくなった我が家には、今日も大のセクハラ発言とそれを怒る私の声が響き渡っている。




 その頃……


「あっ、宇津田姫ちゃん、久しぶり。あのね、人間界に素敵な逃げ場所を見つけたのよ。今度、宇津田姫ちゃんも仕事エスケープする時に行ってみるといいわよ。ただ、凄い存在が屋敷神としていたの。その人の正体はね……」



第4章 了

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

我が家はエッチな屋敷神に守られています 絵空事 @esoragoto21

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ