第24話


「まったくもう、ケンカばっかりして!」

ワイシャツを脱がされるのだけはなんとか防いだが、飛凰のお説教は止まらない。

「忍耐が足りないわ。怒りに支配されない強い心が必要ね」

叱られる龍一郎に、ハルキが助けを求める。乱闘に巻き込まれて床に転がり、バーベルにはさまれて動けなくなっていた。

「すまんな、助かった」

龍一郎がバーベルを退けると、助け起こされたハルキが礼を言う。落したメガネを拾いかけ直すが、乱闘のさなかに壊れてしまっていた。

「いつもこんなカンジなのか?」

「大会が近いからな、レギュラーの座を脅かされて彼らも気が気じゃないんだろう」

肩を落として言うハルキ。

問題の捉えどころが違う気がするが、龍一郎はあえて指摘しなかった。

二人のやりとりを聞いておおよそのいきさつを理解したのか、飛凰もようやく口をつぐむ。

消沈した様子のハルキに、龍一郎は秘薬の解析をできるだけ早くして欲しいと頼みこむ。

レスリングに関しては無闇にポジティブなハルキだが、さすがに今日は練習を続ける気が失せたのだろう、あっさりと了承する。

「わかったよ、さっそく調べてみるとしよう」


 6


科学準備室のドアを開け、薄暗い室内へと入るハルキ。ツルの折れたメガネを片手で押さえている。

整頓されているとは言い難い室内、忽ち何かに躓く。その拍子に、またしてもメガネを取り落としてしまった。

愚痴をこぼしながらメガネを拾いあげ、机の上に放り投げる。

抽斗を開けて中をかき回すが、様々なガラクタが詰め込まれたその中からスペアのメガネを見つけることは容易ではない。

舌打ちをして大袈裟に抽斗を閉めるハルキ、振り返って戸棚へと向かう。

近眼の目を細めて棚へ手を伸ばす、そこにはプロテインと秘薬の瓶が隣り合って並んでいた。


 7


「ホントに調べるのか?」

鬱蒼とした雑木林で、龍一郎が飛凰に話しかける。

急カーブになった坂のそば、龍一郎が猫を埋めた場所に来ていた。

「あんなコト言われて、はいそうですかって引き下がれないじゃない」

「気が進まないな」

先導する龍一郎はふと立ち止まり、樹木の生い茂る林の中をぐるりと見まわす。

「何よ、意気地が無いわね」

飛凰が言うと、振りかえった龍一郎はしかつめらしい表情を作る

「幽霊が出るかも?」

見つめ合う飛凰と龍一郎。一拍の間の後、飛凰が龍一郎の胸を突く。

「からかわないでよ!」

飛凰の声には、自らをムリヤリ鼓舞するような響きがあった。

林の奥へと歩を進めながら、龍一郎が呟く。

「現にゾンビが出たんだがな……」


「ここに埋めたのね?」

「あぁ」

二人の足元には大きな穴が開いている。

龍一郎が猫を埋めた場所に相違ないが、穴はそれよりもはるかに大きい。

やはり麻美衣はここから出てきたとみて間違いなさそうだ。

龍一郎は猫を甦らそうとして秘薬をふりかけた。それが、その下に埋められていた麻美衣までも甦らせてしまったのだろう、と推測する。


では、何故麻美衣は埋められたのだろう?

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