ゼロの冒険者

熊パンダ

一章 "敵"と"味方"

第1話 女神様

「見ろよ……あいつだぜ?」

「本当……あんな事しといてよく来れるわよね……」

「命がいくつあっても足りないわ……」

「早く死んで欲しい」


 異常なほどの視線を感じる。

 怯える目、激しい憎悪の目……周囲の者は俺をそういう目で見ていた。

 廊下を歩くたびに感じる。

 ……なんで、こうなったんだっけな。


         ***

―― 一日前


「レイ! 誕生日おめでとう!」

 クラスに入ると、一人の女生徒が目の前に来る。

 幼馴染のベレッタだ。

 それにしても、誕生日……。


「そう言えば今日か……」

 正直、ただの自分の生まれた日に興味はなかった。

 何で皆、記念日を祝うのか、よく疑問に思うほどに。


「ということは、とうとう今日だね……レイ、女神様に会えるよ!」

「……そんなおとぎ話興味ねぇよ」

「んもうっ! またそんなこと言っちゃって!」


 そう、十五の誕生日。

 それは特別な日である。

 十五になった夜、女神様が夢に現れて何か特殊な能力を授けてくれるのだとか。


 正直、馬鹿馬鹿しいと思っている。

 確かに大人は皆、能力が使える。

 空を飛んだり、手で自分よりも大きな木や、硬くて割れない大地などを軽々と切ったり、様々だ。

 だが、女神様……?

 そんな存在は信じていない。

 だってそんな存在がいるなら、世界はこんな状況になってはいないのだから。


「でもレイなら凄い能力が出そうだよねぇ……だって全教科学年順位一位の優等生じゃん?」

「だから興味ねぇって……」

 エラスト育成学校……能力が目覚める前の子供達を教育する場でもあり、能力覚醒後はより専門的なことを学べる場だ。

 生徒数は万を超え、世界でも最大級の規模の学校だ。

 学力はもちろんのこと、体術、剣術、魔法と戦闘メインに様々なことを習うことができる。


「でも聞いたよ? 歴代学年一位の先輩方は皆Sランクの能力を貰ってるらしいよ? やっぱりここの成績に能力が関係しているっていうのも間違えじゃないと思うんだぁ」

 髪をくるくるといじって顔を覗き込んでくる。


「だから、何回も言うが! 興味ねぇ!」

「あ、もう……どこ行くのよ!」


         ***

 寮に帰り、寝る時間になった。


 女神様の事を信じるわけではない。

 だが、本当に夢に出てこられても嫌だ。

 それだと女神様がいる証明になってしまうから。


「一応だ……念のためだ……」

 そう自分に言い聞かせ、俺は机に座り勉強を始めた。

 女神様は夢に現れる……つまり寝なければ会うことはない。

 という、子供みたいな抗いを今行っている。

 別に女神様くらいいても変わらないと思うかもしれない。

 だが、そこまで単純じゃないのだ。

 ……俺は女神様を恨みたくない。


 ……途中何度か眠くなったが、目が覚める魔法を使いまくって眠るのを防ぐ。

 このままの調子なら眠ることはない。

 そう思った。


         ***


「――よ」

 誰かの声が聞こえる。


「――きよ」

 聞いたこともない声、なのにまるで母親のように安心感のある声。

 温かい何かが体を包んでいるような錯覚さえ覚える。


「――起きよ、レイ・クリオス」

「誰だよ……うっせぇなっ――」

 目を開けると共に入った光景は戦場だった。

 鋭い金属同士がぶつかる音。

 魔法の爆発音。

 そして苦しみの声。

 身に覚えがある光景だった。


「ほう、貴様は戦場か……」

「お前は……いや、貴方様は……」

 肌の露出が少ない白い服を着た金髪の女性がいた。

 顔は仮面のようなもので覆われ、白い羽が特徴的だ。


「女神……様?」

「……苦労したぞ。貴様がなかなか眠りにつかぬせいで夢に介在するのが少し手間取った」

 そこには、いないと信じたかった女神が実在していた。

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