6月10日

@fuciya

6月10日

6月10日。雨。

5日連続の雨で、気分は湿地帯で過ごしている気分だがここは日本。

そして明日も雨だろう。

今日も私は、人々を送り出す準備をした。

今日は心が大切だと先輩に言われた。

私は人が好きで苦手だ。

だからこの職業についた。

黙々と何かを作業することが好きで美大に入ったが、それも今となっては特殊メイクで役立つ。


中でも耳を作るのは燃える。一人一人、形や大きさ、2つもあるから両耳で合わせたりなかなか手間がかかるが工夫しがいがあって楽しい。特に耳の先端の丸みがポイントである。丸みから耳たぶにかけて、薄くしたり分厚くしたり故人様の写真を見ながら、いいアンバイに仕上がると嬉しい。今日の故人様は福耳で、とても作るのが楽しく故人様に感謝したいほど素敵な耳だった。聞いてみるとやはり生前は建築会社の社長でお金持ちだそう。やはり大黒天様を始め、金持ちには福耳が付きものなのかもしれない。


さて、そんな事はどうでも良いのだ。

今日学んだ事を書き記し、残しておきたかった。

あの世とこの世の堺を示すため、

死装束は首元を逆にしている。

あの世では拍手すら手の甲でするらしい。(きっと痛い…)

つまり故人様というお身体は、この世のものではあるが、この世のものでは無いものとして、扱わなくてはならない。人間の最後である葬式は、人間としてでなく、魂として扱うと先輩は考えているそうだ。

私はこの葬式という儀式をただただ、淡々とこなしていた。しかし違うのだと、先輩は教えてくれた。

人間と魂の中間、中庸的な存在とご遺族の方との最後の瞬間なのだと。

形あるものから形のないもの、目に見ることができなくする。大切な血縁関係の同じ種族との最後の時を、私達は手伝っているのだと。心が大切。心も見ることができないもので、魂だって見ることができないけれど、確かにそこにあるもの。

そこにあって、でもそこになくて。

私はそんな不安定で大切なものを扱っているのである。

このことを心に刻んで、ここに記し可視化できるようにしておく事で、心を、ものを、人間を大切にできるのかもしれない。

明日もまた送る準備の手伝いをしよう。

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