エピローグ1)最初の舵取りのその後


 どういう魔法を使って雲をそういう形にまとめているのかは皆目理解できなかったが、初代舵取りはそんなことを気にする性質ではなかった。雲で出来たクッションは、ふわふわのふかふかであることだけが重要だった。

 体重の半分を柔らかな雲のクッションに、もう半分をやはり柔らかなハルピュイアの大きな胸に預ける。手にした杯の酒を長い長い一息で飲み干すと、別のハルピュイアが差し出した皿の料理をつまむ。

 地上でのハルピュイアの役目は神々が指定した相手に汚物を投げて嫌がらせをすることだ。だが、そもそも虹の女神イリスの姉妹なのだから、その本性は賢く、綺麗好きなのだ。ここ、雲の上のハルピュイアの隠れ家では、無理に演技をする必要も無い。美しい虹の七色を織り込んで作り上げた見事な雲を使って素敵な住処を作り上げている。

「アルゴ探検隊の冒険が終わりを告げたそうですよ」ハルピュイアの一匹が報告する。いつもの汚れた姿の変装は落し、ここでは輝くばかりの肌を見せた美人に戻っている。羽は白く美しく、鳥の足下はドレスで隠している。

「へえ、そいつはよかった。旦那たちも故郷に帰れたのか」と初代舵取り。

「帰りたいですか? でもそれだけはできません」心底すまなそうにハルピュイアは詫びた。

「私たちの本当の姿を見た以上、地上に返すわけにはいかないんです。もし、雲の上で私たちが優雅に過ごしていることを知れば、ゼウス様がお怒りになられます。そんなことになれば、地上での不潔で惨めな様を、生涯演じ続けることになってしまいます」

「帰るだって? 馬鹿言うな。俺は地上に帰ったりしないぞ。ここには俺の欲しいものが全てある。それに」

 舵取りは言葉を切ると、手を伸ばして枕替わりにしているハルピュイアの胸を揉んだ。

「そんなことになったらお前たちと一緒に居られないじゃないか」

 他のハルピィアたちが雲の宮殿に帰って来る。夜になると雲の宮殿には落ち着いた柔らかな明かりが灯され、楽しげで賑やかな笑い声が広がった。

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