ジュラシック・テイル ～猫耳なウチと恐竜美少女～【異世界だと喜んでたのに実は白亜紀の地球でした！？仕方がないので転生ライフを守る為、もらったユニークなスキルで恐竜を味方に魔王をぶっ飛ばすことにします】

第172話・魔王クラス

「遅れるなよ、ティラノ」

　と、ティラノに言を声をかけ、一瞥もせずに飛び出すミノタウロス。流石に『しょしょしょ〜』には付き合いきれないと思ったのかもしれない。

「あっ、ずりぃぞミノっち！」

　木刀を右肩に乗せ、慌てて追従しはじめるティラノ。

　結構マニアックな話になるけど、時代劇やアニメではスラッと抜いた刀を右下に構えて走るシーンが多い。単身なら問題ないのだが、実はこれ、集団戦においてはやってはいけない行為だったりする。理由は単純で、隣を走る味方の脚を斬ってしまう危険があるからだ。

　その為、刀を抜いて走る場合はティラノみたいに肩に乗せるのが正しい。さらには刃を外に向ける様に手首を返し、刃先を上に向けて走れば味方を傷つける心配は無くなる。もちろん刃のない木刀では必要の無い所作だけど、これはティラノの身体に刻み込まれた行動だったのだろう。

　一方のアクロは何が起こったのか解らなかったせいか、手に持った骨をしげしげと見つめていた。突進してくるティラノとミノタウロスを視界に収めながらも、自身の力が発揮出来ない怪現象に気が行っていた様だ。

「行くぜ、アクロ！」

　ティラノは足を止めてレックス・ブレードの構えに入った。アクロは間合いの外にいるが、これは直接当てないようにという事なのだろう。衝撃波だけをぶち当て、怪我をさせずに気絶させたいとた考えていたらしい。

　この時ティラノは、遠隔攻撃であるレックス・ブラストは選択肢から外していた。今のアクロにはクリーンヒットしても大したダメージにはならないと計算したからだ。かと言って、ジュラたまブーストされたレックス・ブレードの直撃はかなりの危険を伴う。故に、発生する衝撃波を至近距離でブチ当てて、最小限かつ最大のダメージで気絶を狙おうというのだろう。

　ゆらゆらと足元から闘気が立ち昇り、ティラノサウルスの形になっていく。

「……アクロ、耐えろよ」

　この時のレックス・ブレードは、今までみたいに無駄な闘気をバラ撒いておらず、自身の正面のみに闘気が集約されていた。良くも悪くも初代新生が提示した闘気集約法が、ここに来て活かされた様だ。

「レックス……」

　ティラノは上段の構えから、木刀に込められた闘気（オーラ）を一気に振り下ろした。

「ブレード！！」

　その斬撃が生んだ衝撃波は、眼前を走るミノタウロスの背中に迫っていく。彼ごとアクロをぶっ飛ばす勢いだ。

「モ"！？」

　背中に感じた爆発的な闘気（オーラ）の塊に続いて、『レックス・ブレード！！』という掛け声が聴こえたミノタウロス。虫の知らせなのか、アクロに一撃を叩き込む間合いに入りながらも、チラリと視線を後ろに向けた。

　迫りくる特大の衝撃波が、大気を呑み込み砂を巻き上げながら自分に向けて飛んできている。

「ティラ……のぉいっ、ワシに向けて撃つな！」

　ミノタウロスは叫びながら白銀の大戦斧から右手を離した。そのまま左手だけで自身の左側に打ち下ろし、踏み込んでいた左脚の力を抜く。身長二メートル越えの自身よりも大きな大戦斧だ、遠心力を加味したその重さに身体を持っていかれ、バランスが左に傾いた。その瞬間、右足で地面を蹴り上げて左に飛び、背中に迫ったレックス・ブレードをギリギリ躱（かわ）していた。

「ティラノ、やるなら先に言え。ワシを殺す気か！」

「お、悪りぃ悪りぃ」

「悪りぃで済ますな」

「いや〜。思い付きだったし避けるとおもったし、それに……」

　ミノタウロスはティラノが次に言うであろう言葉を予測して溜息をひとつついた。

「当たらなかったからOKだぜ！」

「まったく、お主というヤツは……」

　ミノタウロスは立ち上がり、アクロにむかって大戦斧を構え直す。その顔には、呆れながらも笑いが漏れてしまっていた。

「それにしてもよぉ……」

「うむ、やはりとんでもない力だな」

　彼の言う『とんでもない』は、アクロの挙動についてだった。彼女は、迫りくる衝撃波に対して避ける事をせず、無造作に右手を突き出し、そして……

「衝撃波（あれ）を片手で打ち消してしまうとはな」

「あんなの……魔王様クラスでござやんすよ」

　リザードマンの言う『魔王クラス』がどれ程のものなのかは解らないけど、その言葉からは、余程稀有で強力な力と感じ取れる。

　以前アンジーは『魔法や炎や雷等全てひとまとめでエネルギー系攻撃』と言っていたけど、それを素手で対処出来るなんて、ウチには転生/転移者が持つ魔法耐性に匹敵する能力に思えた。

　ティラノが木刀を構え直して次の一手に悩んでいたその時、突然唸り声を上げて苦しみ出すアクロ。ここまで特にダメージを受けたわけでもないのに、両肩を抑えながらうずくまってしまった。

「お、おい。アクロどうしたんだ？」

　ティラノの声が届いているのかは解らない。それでもアクロは視線を上げ、口をパクパクさせて何かを喋ろうとしている様だった。

「もしかしたら、アクロさんがドラゲロさんの力に耐えられなくなったのかもしれないざます」

「マジか～。それってヤバイんだよな、姉っち」

「ええ、急がないとアクロさんが……」

　こうなると多少の怪我は仕方が無い。とにかく一撃を喰らわせて気絶させるしか手はないだろう。

「でも、アクロのやつ、どうやってレックス・ブレードを弾いたんだ？」

「うむ、それが解らぬと対処できぬぞ」

「多分……ですが」

　メデューサはこれまでのアクロの戦い方から、もっとも可能性の高い可能性を話しはじめた。その目はアクロから外さずに、観察し続けながらだ。

「闘気（オーラ）を通した砂か何かを手に纏わせて防御したのかもしれないざます」

「なるほど！」

「そういう事か」

　――しかし、ここにきて初めてメデューサの考察が外れてしまう。かと言って彼女を責める訳にはいかなかった。ウチも、そしてアンジーでさえも、アクロの持つ能力の意味を取り違えていたからだ。

　そしてそれは、ティラノ達だけでなく、英霊達やアクロ本人までもがピンチに陥る事になる。

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