第171話・どうやったんだ?

「セクシーポーズってのしかしてないんだぜ?」

「ああ、あの微妙な……」

「微妙言うな!」 


 間髪入れずに入ったメデューサのツッコミを、これまた間髪入れずに返すティラノ。


「人の努力を笑うなって、亜紀っちが言っていたぜ」

「……あれって努力なのか?」


 さらなるツッコミを禁じ得ないミノタウロスであった。



 リザードマンが放った光の矢が余程気に喰わなかったのだろうか、アクロは唸り声を上げて敵対心を秘めた視線を二人に向けながら、手探りで足元の石をまさぐっていた。


「リザード、もうちょっと後ろだ」

「了解でござやんす!」


 二発目の光の矢は、ミノタウロスの指定通りアクロの真正面足元に突き刺さる。闘気オーラを込めた石礫いしつぶてを飛ばしながらさらに距離を取るアクロ。

 徹底防御の構えで攻撃を防ぐミノタウロスと、正確な射撃でアクロを誘導するリザードマン。二人の連携で、徐々にではあるがメデューサの作戦を実行する為のポイントに追い込んで行った。


「良い頃合いざますね。ティラノさん用意を」

「ああ、それはいいんだけどよ〜。この木刀じゃすぐに壊れちまうぜ?」

「大丈夫ざます、全力を出す必要はありませんわ。強すぎず弱すぎず手加減をしつつ手を抜かず……それでいてアクロさんに怪我を負わせずに気絶させるくらいの絶妙な一撃でお願いするざます」

「姉っちが何を言っているのかわからねぇ……って、あの場所はヤバイだろ」


 触った物に闘気オーラを瞬時に注入し、己の武器としてしまうアクロの能力。更には英霊達の”霊力オーラが篭っている骨“を媒体とした時の威力は、恐竜人ライズ達が放つスキルの破壊力を遥かに凌駕する。

 そんなアクロが誘導されて追い込まれた場所は、英霊達の骨片……つまりは霊力オーラがそこら中に散らばる巨骨の山の前だった。

 もっともアクロからしてみたら、そこにある物が石礫だろうが英霊の骨だろうが関係ないと思う。今までも、選別して手に取る様な素振りは全くなかったのだし、そもそもバーサークした彼女にそれだけの意思が残っているのかすらわからないのだから。


「英霊の皆さん、ティラノさん、今ざますわ!!」


 アクロが足元の骨を拾おうと手を伸ばしたその時、メデューサからGOサインが出された。


「マジかよ……。どうなっても知らねぇぞ」


 ティラノは腰を落とした構えから、横薙ぎに衝撃波を放つ!


 ――レックス・ブラストだ。


 この技はレックス・ブレードほどの威力は無いが、長距離攻撃が可能な使い勝手の良いスキルだった。高エネルギーの衝撃波が真空を生みながら、目標に対して一直線に切り裂き進んで行く。


「ガァアァ……」


 アクロは、地獄の釜の底から響いてくる様な声を発しながら英霊の骨を投げてきた。これひとつでレックス・ブレードを超える破壊力を持ち、下手にガードなんてしたらただじゃ済まない。

 当然レックス・ブラストはアクロの攻撃に押し負け、何事も無かったかの様に消え去る。


 ……はずだった。


 しかし皆の目に映ったのは、レックス・ブラストがアクロの投げた骨を軽々と打ち砕く光景だった。


「え……姉っち、何やったんだ?」


 アクロは、向かってくる衝撃波に拳を振り下ろす。その拳には闘気オーラを纏わせていたのだろう、”バチンッ“という音と共に地面に叩き落とした。


「……目茶苦茶やりおるな」


 ミノタウロスの言う通り、エネルギー波を叩き落とすなんて確かに滅茶苦茶な話だ。しかしそれよりもティラノは、レックス・ブラストがアクロの攻撃を弾き飛ばした事の方が気にかかって仕方がない様だ。何が起きたのかわからず好奇心を刺激されたティラノは、キラキラワクワクした目でメデューサを見つめた。


「姉っち姉っちぃ! 今のどうやったんだ?」


 あまりに嬉しそうなティラノを前にして、よくわからない照れを感じながらも、メデューサは言葉を選んで口を開いた。


「英霊さん達は、容姿や能力そして力量に至るまで好きに設定して具現化出来るみたいでしたので」

「うんうん……」

「アクロさんが英霊の骨を拾う様に仕向けて、その辺りにある全ての骨にマイナスの霊力オーラを付与してもらったのざます」


 いかにアクロの能力が強力でも、素材そのものがマイナスの霊力/闘オーラ気を秘めていたのでは、本来の力を発揮する事は出来ないのは当然の話。メデューサはこれまでのダスプレトサウルスやカルノタウルスとのやりとりの中で、この解法にたどり着いたらしい。


「マジか、スゲー。御先祖様達の骨がスカスカになっちまったのか……」

「そうですわね、骨粗鬆症こつそしょうしょうの様なものざますわ」

「こつ…?」

「そしょ……一体なんでごさやんすか、それは」


 流石に骨粗鬆症なんて、白亜紀の生物や魔族に意味が解るはずもなかったのだろう。初めて聞く早口言葉の様な名称に、ミノタウロスもリザードマンも発音することすらままならなかった様だ。


「へっ、情ねぇなぁ。ミノっち、ここは俺様に任しておくんだな」


 ビシッと立てた親指で自分を指し、仁王立ちのティラノ。


「……お前のその自信は、いったいどこから出て来るんだ?」


 ミノタウロスの口調が呆れていたのは、きっと滝つぼに落ちた時の事を思い出していからだと思う。


「こっ、こ、こしょ……しょ……」


 すでにこの時点で『あ、これ無理だ』と察した面々。戸惑いながら掌中の骨を見つめるアクロに向き直り武器を構えていた。


「こつ……しょしょしょ~?」






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