第167話・凶悪最悪残忍魔人

「マジか。ジュラっち、なにやってくれんだよ」

 目の前でとんでもない闘気を発するアクロを見ながら、ティラノはボヤいていた。

 連続で飛んでくる漆黒の弾丸。その小石ひと粒ひと粒が纏う闘気オーラは、今やレックスブレードに匹敵している。

「ヤベ、まにあわねぇ……」

 飛んでくる漆黒の兇弾を、レックス・ブラストで叩き落としていくティラノ。しかしあまりの手数の差に、ひたすら後手に回らざるを得なかった。それもそのはず、アクロが投げているのは足元に落ちている小石でまさしく無尽蔵。手にした瞬間膨大な闘気の塊と化し、ジュラたまブーストされたパワーぶん投げてくる。……今のアクロを前にして、普通に戦える者なんてそうはいないと思う。


〔避けろ、大孫娘!!〕

 突然響いた声に、思わず飛びのくティラノ。その時撃ち落とそうとしていた漆黒の弾丸は、遺骨の山に突っ込みとんでもない大穴を開けた。辺りに轟音を響かせた後、穴をふさぐかのように崩れ落ちる巨骨。

 どうやら小石に混じって骨の欠片が飛んできている様だ。英霊達のオーラが籠っている骨に更にアクロの闘気オーラが乗算されているのだから、その質量・威力はとんでもない代物と化している。いくらティラノでもうかつに受けようとしたらただでは済まなかっただろう。

〔よく見ておくのじゃ。そんな事ではやられるぞ〕

「ったく、誰のせいだよ……」


 それはティラノさん、あなたの隣にいる爺さんですよ。と皆が思った事だろう。


「これは相当マズイな」

 ミノタウロスは、魔王軍の中でも“闘気オーラを感知する事に関して”は頭一つ飛び抜けている。その能力があればこそ、地球のエネルギーがあふれる大地、この聖域に引き寄せられたのだった。

 そんな彼がティラノとアクロの闘気オーラを比較し『相当マズイ』と判断していた。

「だけどオイラには、元々の力量に差は見えなかったでヤンス」

 リザードマンの言う通りだ。ティラノサウルスもアクロカントサウルスも他を寄せ付けない程の強さを持つ恐竜。まともに戦えば相討ち必至と言えるだろう。

 しかし、今のパワーバランスは圧倒的にアクロの方が強い。ジュラたまブーストをするまでは拮抗していたのに、だ。

「もしかして……みんな思い違いをしているのかもしれないざます」

「と、いうと?」

 メデューサは口に手をあてて、自分の考察を整理する様に、そして自分自身でも確認するかの様に、ゆっくりと話し始めた。

「ジュラたまブーストというのは、亜紀さんの力がティラノさんに流れ込んで、能力の底上げがされるというスキルざます」

「うむ、それは周知のハズだが?」

「ですが問題はここからで、ブーストされる能力は一律ではなく、マスターの能力に起因しているとしたらどうでしょう?」

 質問の意味が分からずに首をかしげるミノタウロスとリザードマンを見て、メデューサはひとつ察するものがあった。

「ティラノさんとアクロさんは別々のマスターです」 

「なん……だと? ではあの紫の猫人(初代新生)か?」

「いえ、彼女のマスターは亜紀さんでも新生さんでもなく、あのドラゲロ・アンジョウざますわ」

 その名前を聞いた瞬間、動きが止まる牛と蜥蜴トカゲ

「……何故あの凶悪最悪残忍魔人のドラゲロ・アンジョウがこの時代にいるでヤンスか!?」

「もしや、先ほどアクロが口していたマスターアンジュというのが、ドラゲロ・アンジョウの事なのか?」


 ウチが新生にティラノを取られた時に、ミノタウロスとリザードマンには助けてもらった。しかしそれ以来二人には会っておらず、当然、その間起こったことは知るハズがない。ティラノが話した内容もドライアドやバルログと戦った時の事で、そのどちらもアンジーは参戦していない。つまり、当然話には出てこない。だから彼等は彼女がこの地にいるとは思わず、アクロのマスターがウチだと思い込んでいたのだろう。

「話を戻しましょう。例えば亜紀さんよりドラゲロ(アンジュラ)さんの方が百倍くらい強いとして、彼女がジュラたまブーストすると、単純にその効果は亜紀さんの百倍という事になるとしたら?」

 このメデューサの考察は大正解だった。もちろんこの時点ではウチもアンジーも全く気が付いていない要素で、更に言えば女神さん達も知らなかったらしい。ひとつの時代に複数の転生/転移者を送り込む事自体がイレギュラーだったのだから。

「ぞれば……どんでもなくマズイ事になっでいるのでは?」

「だからワシがそう言うておろう」

 やっと事態の重さに気が付くウェアウルフに、つっこみを禁じ得ないミノタウロスであった。


 そして英霊達のスタンピードは最高潮を迎える。深刻な顔をしているティラノ達とは対照的に、まさしくお祭り騒ぎだ。考えてみれば、何千年もここにいて娯楽なんて皆無だったのだろう。突然現れた最恐の娯楽興行に、一喜一憂するのは仕方がない事かもしれない。 

「爺さん達、霊廟を破壊する気なのか?」

 頬をツーっと流れる汗を感じながらミノタウロスが呟いた。

〔まあ、良いではないか。なる様にしかならぬのだからな〕

 ニカッと笑いながら割り切った事を口にするカルノタウルス。腕を組んで仁王立ちしながら、やはり楽しくて仕方がないと言った様子だ。


 ……しかし今この世界で生きている者としては、『なる様になる』では済まされない事態。


「流石にこれは皆でかからぬと治まらぬだろう」

「そうですわね。ティラノさん、納得できないでしょうがここは全員でかかるざます」

「ああ、そのくらいはわかるぜ。殺さずに抑え込むには、俺様ひとりじゃ無理だって事くらいはよ」

 レックス・ディザスターを撃てるくらいの得物があればなんとかなったかもしれないが、今のティラノには荷が重い話だった。今迄の彼女なら『それでも俺様ひとりでやってやる!』と言っていた場面だが、ここに来て“周りを見る・状況を把握する”という事が、しっかりと身に染みてわかったらしい。


「心してかからぬと大怪我では済まなくなる。皆認識しろ、そこにいるのは!」






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