第163話・賞賛
〔見事だ、ジェントルメン。我輩の裏をかくとはな〕
喉元に白銀の刃を突きつけられて、満足気なカルノタウルス。こうなる事を望んでいたかの様な表情だ。それはミノタウロスも同様、息が上がってはいるが目的を達成した満足気な爽やかイケメンスマイルが輝いていた。
「で、結局何がどうなったんだよ～」
事の
〔解らぬか、大孫娘。情けないのう……〕
「んじゃ、
〔ふむ、そうじゃのう〕
ダスプレトサウルスは顎ひげを
〔これ、そこのジェントルメン。説明してやるがよい〕
「……
ミノタウロスとカルノタウルスはお互い顔を見合わせると、どちらともなく口角を上げて笑い始めた。目の前にはそれぞれの呆れ顔があったからだ。
――二人は今起こったことを語り始めた。勝ち負けを超え、心底楽しそうに。
〔そして本当の狙いは、骨に紛れて斧を投げてくることであろうな〕
カルノタウルスの敗因は『斧を投げてくる』と思い込んだ事だ。加えて『動きを感じる事で、どの方向に投げたのかの判断が付く』の一言が、ミノタウロスにヒントを与えていた。
「ならば避けてみろ、これが最後の一手だ！」
ミノタウロスは投擲の構えを見せ、渾身の力を入れて腕を振り抜いた。
その時発した闘気と方向から着弾地点が自身の真上だと見切ったカルノタウルス。数歩下がり、腰を落として構えた。
〔ふん、
カルノタウルスの右手に闘気が集まっていく。ルカのレックス・インパクトに似た、右ストレートの構えを見せる。これは、投擲の直後に突進してきているミノタウロスへのカウンター攻撃だ。
しかし、ここでカルノタウルスに疑問が沸いた。ミノタウロスが投げたはずの斧が何処にも落ちてきてないことに！
ミノタウロスは斧を投げると思わせ、手に持つ骨を全力で投げた。当然、これだけ質量が違うとカルノタウルスの予測した着弾点は外れる事になるのだが、この時点では当然解るはずがない。ミノタウロスは投擲の直後、大戦斧を構え突進を開始。それに呼応するように、白い埃の中にある闘気が爆発的な高まりを見せた。『カウンターが来る』そう察しながらも止まる選択はなく、自身も闘気を高めるミノタウロス。
違和感を覚えたカルノタウルスは、ミノタウロスが武器を持って突っ込んできていると考えを修正し、白い埃で見えないながらも向かってくる闘気に向かって右ストレートを放った！ 何千という英霊の力を借りたその一撃は大気を揺らし、ものすごい爆音と共に渦を巻く。
「あのバカでけぇ音は
〔うむ。だが、我輩の一撃は見事に
嬉しそうなカルノタウルス。そして……
「ワシの大戦斧は跡形もなくなったがな」
もっと嬉しそうなミノタウロス。
「なんかムカつくな～」
そして嫉妬するティラノサウルス。
カルノタウルスが放った一撃はミノタウロスの得物であった大戦斧を粉々に破壊していた。しかしそこにはミノタウロスの姿がない。一瞬思考が止まったカルノタウルスだったが、直後首筋にヒヤリと金属の冷たさを感じ、負けを認めた。
ミノタウロスはカルノタウルスが一撃を放つ瞬間、走りながら大戦斧を地面に突き刺し、
着地したミノタウロスはその場に刺さっている白銀の斧を手にすると、その刃をカルノタウルスの首筋に突き付けていた。
〔面白い戦い方を見せてもらった。その白銀の斧は何千年という力の結晶だ、死ぬまで使い倒すがよいぞ！〕
豪快に笑うカルノタウルス。不利を補うという“力量”を見せたミノタウロスを、彼は魔族と恐竜と言う垣根を越えて心底賞賛していた。
〔と、いうわけじゃ、大孫娘よ。カッカッカッ……〕
……そして何故か得意気なダスプレトサウルスであった。
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