第159話・ジュライチ来た!

「まさか、解放ドラゴニック・バース……ざますか」


 魔王軍が白亜紀の地球に来るには転移門ゲートを通らなければならない。しかしその際には自身の魔力を一定以下に抑え、転移門ゲートを形成する魔力の流れを壊さない様にする必要があった。

 その魔力の上限を取り払い、異世界ヴェイオンにいた時と同じ本来の力を得る事が出来るのが解放ドラゴニック・バースだ。ちなみに、ミノタウロスの様なフィジカル全振り脳筋近接アタッカーでも、魔族である以上その強さの源は魔力である。

 だがしかし、地球には魔力を抑える装置がない。つまり、一度解放ドラゴニック・バースしてしまったら魔界に戻る事が出来なくなってしまう。魔王軍の目的は地球の生態系を破壊して人類が産まれない様にする事であって、最終的に魔界に戻る事で作戦が完遂される事になる。


 ――すでに解放ドラゴニック・バースしているバルログは、戦いの結果がどうであれこのまま地球と運命を共にするしかない。そして今ミノタウロスは、同じ道を歩こうとしている。

 


「まあ、いいんじゃねぇか?」

「ティラノはん、それはあまりに無責任でやんす」

「そうざますわ。解放なんてしたら魔界に帰ることが出来なくなるのですよ?」

「それは解るんだけどよ。でも、俺様も同じでさ……ミノっちの奴、この戦いを心底楽しみたいだけなんだ。あんなスゲー奴とタイマン出来るのに全力出せないなんて、生きている意味ないぜ?」

 ……これはバトルマニア同士だからこそわかる感覚。常人にはここまでバトルを己の中心に据える事はないと思う。

「だから俺様には止める事は出来ねぇし、逆の立場だったら止めて欲しくないんだよな」

「あ~もう、バトルマニアってなんて厄介ざますの」

 ニカッと笑うティラノ。あまりに呆気あっけらかんと笑うその表情を見て、メデューサは毒気を抜かれてしまった。

「だけどティラノはん……ひとつだけ警告しておくでやんす」

 リザードマンは念を押す様に、言葉を選びながらティラノとアクロに向かって話し始めた。いつになく真剣な顔のリザードマンの一言に、ティラノは固唾を飲む。

「解放したらミノはんの真の姿が現れるでやんす。二人とも驚かない様に心構えをしておいた方が良いでやんすよ」

 わざわざリザードマンが警告をして来るくらいだ。どんな異形の禍々しい姿を現すのか、二人は少しだけ緊張の色を見せ、ミノタウロスを注視した。

 

 当のミノタウロスは、今や完全にカルノタウルスしか眼中になかった。ティラノと戦うための武器を見つける為の冒険で、思わぬ強敵に遭遇し、戦う機会を得る事が出来た幸運。魔界に帰れなくなるリスクなんて遥かに凌駕する邂逅。

 ミノタウロスは大戦斧を逆手に持って地面に突き刺すと、まるで身体を固定するかの様に柄をしっかりと握りしめた。


「能力解放……ドラゴニック・バース!」


 ズドンッと、何か落ちて来たかのような音が響き、ミノタウロスの身体が紫の炎に包まれた。足元から吹き上がる闘気は風を生み、かまいたちとなってタキシードを斬り刻んでゆく。

〔ほう、これだけの闘気を秘めておったか〕

 爆発的な魔力の増加に驚く事もなく、楽し気なカルノタウルス。やはり彼もバトルマニアと言う事なのだろう。

〔それでこそだ。楽しませてくれよ、ジェントルメン〕


 あらわになったミノタウロスの背中には、真っ白のタトゥーで雄々しい角を生やした野生の獣が彫りこまれていた。そして、それはまるで生き物のように全身に広がり始める。腹部から脚へ、腕から指先へ、首から頬へと四肢を駆け巡るかのように伸びて行き、やがて全身を覆った。

 しかし最も変化があったのはミノタウロスの頭部だった。誰がどう見ても“牛”そのものだった頭部、ラミアに『病み顔』とまで言われたその牛顔が、まるでハリウッドで主役を張る俳優の様な欧米ハンサム顔になっていた。波打った黒髪から生える角は紛れもなくミノタウロスだが、名乗られでもしない限り、誰も彼だとは解らないだろう。


 角が生えた黒髪ガチムチの爽やか彫り深イケメン。これがミノタウロスの真の姿だった。


「マジかよ……これが『ジュライチ来た!』ってやつか」






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