第158話・自然淘汰の波

〔カルノ、勝手な事をいたすな〕

〔まあまあ、良いであろう。余興と思ってご老体はそこで休んでいなされ〕

〔年寄り扱いするでない。それにあの者は……〕

〔皆まで言うな、全部聞こえておったよ。魔王軍とやらなのだろ?〕


 この地に定着している英霊ならば、ティラノ達の会話を全て把握していてもおかしくはない。事実、カルノタウルスは魔王軍の目的まで読み取っていた。


〔地球征服が目的らしいが、そんな事はどうでも良い。力を求める者がいて、それに値する力量があるのなら、相手が誰であろうとかまわん〕


 このひと言を聞いて、魔王軍の面々は首をかしげた。現状の立ち位置としては、明らかに対抗勢力ではあるし、その垣根を無視した考え方に今一つ理解が及ばなかった様だ。


「あちきが言うのもスジが違うと思うざますが。敵味方関係なく力を与えるというのは、この地に生きる者の先人ルーツとして如何なものかと……」


〔戦いの中に生きる者がそれを問うか〕


 カルノタウルスは嬉しそうに口角を上げ、右手の中に白銀の大戦斧を具現化しながらダスプレトの前に進み出た。無造作に地面に叩きつけられ、ガンッと言う音と共に硬い岩盤に突き刺さる。ミノタウロスの持つ大戦斧よりも一回り大きい白銀の“それ”には、細かなレリーフが刻まれ、その溝に沿ってチロチロと青白い炎が這っていた。


〔所詮、力無き者が滅ぶだけの事だ。それもまた、自然の摂理よ〕


 結局の所、弱い生き物が生き残ったとしてもすぐに自然淘汰の波にのまれてしまうのが弱肉強食の世界。それならば善悪を超越した所で力のみを判断基準にする事は、最もシンプルで最も理に適った生存戦略の一つだ。

 要はそれを理解出来るか出来ないか、認められるか認められないかというだけの事でしかない。……なんて偉そうな事を言ったけど、ウチが白亜紀ここに来たばかりの頃にワニもどきに喰われかけ、『弱肉強食とは何か?』って事を身をもって体験したからこそやっと理解出来た様なものなんだ。


〔腹に力を入れて踏ん張れよ!〕


 直後、カルノタウルスからとんでもない量と勢いの覇気オーラが放たれた。際限がないエネルギーの塊が濁流となってティラノ達を飲み込む。息が出来ない感覚に陥り、あと数秒続いていたら溺れ死んでいたかもしれない程だったという。

 だがこの純粋な覇気オーラは、恐怖でもなく歓喜でもなく、ただただ、圧倒的な力の差を見せつけてきただけだった。


〔先に言っておこう。この力は我輩一人のモノではない。この地に眠る、何千と言うひと(注)むらの英霊達の力だ〕

「とんでもない力ざますわね……」

「ああ、流石は御先祖様達だぜ」 

〔貴様ら、一部とは言えこの強大な力を引き継ごうというのだ、覚悟をいたせよ〕


 覚悟は最初から決まっている。……はずだった。それでもこの予想を超越した圧倒的な力を見せつけられては、怯んだとしても仕方がないと思う。


〔とは言え、我輩とて結果の見えている戦いをするほど無粋ではない。ここからは我輩も自身の力のみで応じようぞ〕


 ゆっくり『ふぅ……』と息を吐き顔を上げるミノタウロス。


「誰も、手を出さないでくれ」


 右足を引いて、大戦斧を頭上に構えた。体躯も得物も、サイズではカルノタウルスに負けてはいたが、少なくとも気合だけは負けていない。


「そうは言うけどミノっちよう。こいつ恐ろしく強え~ぞ?」


 ティラノに言われるまでもなく、ミノタウロスは肌で感じとっていた。カルノ自身から放たれる覇気オーラも相当なものだ。強靭な肉体とパワーを持つミノタウロスですら、気圧されながら、何とか踏ん張り耐えている状態なのだから。


「それでもこやつはワシ一人でやらなければならぬ!」

「ですがどう考えても地力の差が……」

「って、ミノっち、お前まさか!?」


 メデューサもティラノも、そして他の面々も同時に一つの考えに行きついた。


「ああ、やはりここは、奥の手あれを使うしかないであろうな……」






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(注)ひと叢/一叢/一群(ひとむら)

一か所に集まりまとまっているもの。ひとかたまり。 


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