第154話・芽吹き
死期を悟った恐竜達が訪れる火山の巨大洞窟。そこは、地球から吐き出されるエネルギーが溜まり、導かれた戦士達の霊魂が眠る聖域。
その中にあってこの部屋は、訪れた恐竜が最後に太陽の光を浴びる為の憩いの場所とも言えた。
「やめろ、アクローーー!」
そんな、心を落ち着ける為に設けられたであろうこの部屋に、ティラノの切羽詰まった声が響く。
実際その声がアクロの耳に届いていたかは分からない。しかし、それでもその直後彼女の動きが止まり、手の中からチェーンソーが消えていた。
「伝わった……ざますか?」
「止まったでやんすね……」
突然武器が現れて、最初から何もなかったかのように消える。それがどういう原理なのかは分からなかったが、それでも異常事態が治まった現実に、ティラノ達は安堵していた事だろう。
「お、俺様達の心の声が届いたんだぜ!」
「そうか……う、うむ、それが戦士の魂と言うものだ」
それでも炎の様に燃え上がっている赤髪と褐色の肌は変わらず、異様な雰囲気のままのアクロ。スッと立ち上がると足元のデスマトを一瞥し……つま先で小突いた。
「いね、まぎとろしいねゃ!」
(訳:どこかいけ、邪魔くさいんだよ!)
「え~……」
事態がわからず、転がり逃げるデスマト。
アクロはその場に片膝をつき、地面に手を伸ばした。そこには、差し込む光で芽吹いたばかりの新芽が見える。栄養豊富な土に水、適度な湿気と降り注ぐ太陽の光。よくよく考えてみればここは、植物が育つ条件が一通りそろっている場所だ。
「おまんら、この
(訳:お前ら、この芽を潰したらボコボコにするぞ)
小さな新芽を指先で撫でる様に触るアクロ。髪の毛は元の鮮やかな赤色に戻り、褐色の肌も指先から段々と元の色白になっていった。
「お、おう、気を付けるぜ……」
言葉の意味は分からないが、何となく察したティラノ。そんな事よりも今は、皆の気持ちが通じてくれた事が何よりうれしかった。
「とにかく、俺様達の魂が通じて良かったぜ!」
キョトンッとするアクロ。ティラノを見ると首を傾げ衝撃のひと言を放った。
「……なんね?」
(訳:何の事?)
どうやらアクロには、ティラノ達の声が届いていなかった様だ。怒髪天の怒りが治まったのは、たまたま新芽が目に入ったからなのだろう。彼女の心に響いたのは、戦士の魂ではなく大自然の芽吹きだったらしい。
シーン……とした空気の中、いたたまれなくなった面々。お互いに顔を見合わせると、バツが悪そうに各々
「……と、とりあえず再開しようぜ」
「だけど、暴れたら芽を踏んでしまうかもでやんすよ」
リザードマンのひと言に、竜牛狼の三人は背中に流れる冷や汗を感じた。
「皆さんお待ちになって。今のアクロさんの攻撃で解法が見えたざます!」
キピオとの戦いでもそうだったが、メデューサは現状確認できるだけの少ない情報から、最もリスクの少ない最適解を導き出していた。猪突猛進型の面々が揃う中で、ティラノに同行したのがメデューサだったのはラッキーだったのかもしれない。
皆を集め、小声で作戦を伝える。デスマトだけでなくダスプレトにも聞こえない様にする為だ。
「マジで? そんなんで行けるのか?」
「ええ、動きをずっと見ていましたので。間違いないざます」
「ふむ。それなら、芽を踏むこともなかろう」
ティラノ達はキピオの時と同じ様に四方向からデスマトを囲み、ゆっくりと近づいて行った。
「な、なんだよ! 近づくなコラ。とっとと帰りやがれ、クソガキども。……ああ、すみません」
更にじりじりと間を詰める四人。手を伸ばせば触れるくらいの距離まで近づいたがデスマトの攻撃が来ない。
「マジか、姉っちの言った通りじゃねぇか」
「なるほど“カウンター専門”って事でヤンスか」
「こら、近い、近いって! やめろ……てください。止めてってば……。触るなって、こら、ペタペタするな!」
タリスマンに手を出そうとすると攻撃が来る。しかしデスマト本人は自分から攻撃を仕掛ける事がない。つまり、攻撃をしなければ反応されない。ペタペタと触り、ペチペチと小突くだけなら、何ひとつ害がない草食系のデスマトスクスだった。
「よし、犬っち頼む」
「マジでやるのが?」
「当たり前であろう。お主にしか出来ぬ作戦ではないか」
「そうでヤンスよ。覚悟を決めるでヤンス」
皆から促され、仕方なく腹をくくるウェアウルフ。
「……恨むぞ。おいデスなんどが、覚悟じろよ」
周りを囲まれ、逃げようとしても逃げられないデスマト。更にはティラノ達三人に、腕や脚を取られて全く身動き出来なくされてしまった。
その場で後ろを向くウェアウルフ。そして……。
「え……なんですか、何をするのですか。止めやがれ犬コロ……ああ、ごめんなさい」
もふもふの尻尾でデスマトを撫で始めた。
「おい、止め、くすぐったいって。マジで……あふんっ」
先端を使い、触っていない様で触っているギリギリのもぞもぞするくすぐり方で、デスマトの首や耳を“攻撃”する。
〔何をやっておる、デスマト!〕
「そうは言っても、あふっ……じ、爺さんこれはキツイって……おぉう」
「いかがざますか? デスマトさん。まだ続けます?」
「うひゃひゃ……。ひぃ~、いいい~~。あ、そこそこ……」
「……なあ、姉っち。こいつ、喜んでねぇか?」
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習字の時間に前の席の人を筆でくすぐって怒られた人は挙手!
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