第144話・声の主

「力を見せろって……俺様は誰を殴ればいいんだ?」

 すでにやる気しかないティラノ。両手拳を胸の前で打ち合わせながら、声のする滝つぼに向かって進み出た。


〔はあ……なんとも血の気が多い事よのう。もう少し穏便に事を運ぶという考えはないのか〕

「あら『力を見せろ』しか言わなかったらそうなりませんか? むしろこれは“貴方の説明不足が招いた”とも言えるざます。ご自身の不備をティラノさんのせいにするとか、どれだけ高貴なお方なのかは存じ上げませんが、いささか横暴が過ぎませんこと?」

〔おい女、ワシを誰と心得ておる!!〕

「ですから、わちきは『存じ上げない』と言いましたよね? 人の話に耳を傾けようとしないのなら、ご自身の口も閉ざしておいてくださいまし。もっとも、女と見下してくる時点でたかが知れるざます!」

 “正体不明の声”というだけなら畏怖の対象にはならない。これは、良くも悪くも戦いに明け暮れた魔王軍だからこその思考とも言える。

「姉っち、何言っているかよくわからんけどスゲーな……」

「メデューサの本領発揮でヤンスね」

〔なんてヤツだ……〕

 謎の声が呆れ口調になったその直後、滝つぼの辺りから爆音とともに水柱が立ち、舞い上がった水は辺り一面に降り注いだ。そしてそこには、いつの間にか恐竜人の様な男性が立っていた。クセ毛風パーマスタイルの髪型は清潔感があり、スッキリ爽やかな印象で嫌味がない。ちょっと濃い目のバター顔に全身真っ赤なイタリアンスーツを着込み、胸には逆五角形の黄色いバッジみたいなものが見える。


〔こら、キピオ。勝手に出るでない!〕


ブォンジョ~~ルノ(ご機嫌うるわしゅう)! 初めましてですな、ご一行」

〔ワシの話はまだ……〕

「ああ、何という事! お美しいマドモアズェル(若い女性)がお二人も。これはこれはスクイズィ~~~ト(とても幸せ)です!」

 キピオと呼ばれた優男やさおとこは、オーバージェスチャーで天を仰ぎ、涙を流しながら叫んだ。……謎の声の主はガン無視だ。

「これは運命! フィ~ネ・デル・モン~~~~ド(もう、死んでもかまいません)!!」

〔キピオ、人の話を聞けと言うのがわからんのか!〕

「あら、どの口が言うのでしょう? 特大ブーメランざますわね」

〔……〕

 メデューサの的確なツッコミに無言になる謎の声。

「声だけの存在が無言になったら存在意義がないざます!」

「お、追い打ちがえげつないでヤンス……」


「おお、小うるさい爺やの声がなくなりました。グ~ルァッツェ(ありがとう)! 快適です。美しきフィ・オ~~~ルェ(可憐な花)!!」

「んで……そこの赤いアンタ。俺様達になんの用があるんだ?」

 このやかましさにいい加減うんざりしていたティラノは、素っ気ない態度を見せながら何も期待せずに聞いてみた。 

「これはこれは申し遅れました。我が名はキピオ。スキピオニクスの英霊とでも申しましょうか。爺や、いえ、ダスプレトサウルス殿の命により、あなた方の力を測りにまいりました。ブラ~ヴィ、ブルァ~~~ヴィィィ(なんてラッキーなのでしょう)!」

「あ、あんたと闘えば……いいのか?」

「戦う? いやいや。君達麗しきマドモアズェ~~ルが、この私の虜となり追いかけアッブラチア~~~レ(熱いハグを)!!」


 ……膝から崩れ落ち、ヤンキー座りのまま頭を抱えるティラノ。

「駄目だ、話がわからねえ。すまん、俺様が無知なばかりに……」 

「案ずるなティラノ、ワシにも解らぬ!」

 腕を組み、直立したまま漢泣きを見せるミノタウロス。

「あれは多分、逃げるから捕まえたら合格。と言う事ざますわ」

「あ、姉っち……アイツの言う事がわかるのか?」

ブラヴィッッッシ~~~モ(すばらしい、極上です)!! 流石です。これで私の心はあなたのもの、あなたの心は私のものになりました」 

 メデューサに向けて、両手で作ったハートマークを見せるキピオ。

 それまでまったく興味を示さなかったウェアウルフだったが、愛しのメデューサにちょっかいを出されては黙っていられない。大剣を抜き、キピオに剣先を向けて睨み付ける。

「おい……でめぇ殺すぞ」

「ああ、ホンム(男)どもは好きにしてくれて良いですよ。興味はありませんので」

 いきなりテンションが落ちるキピオ。初めて青汁を飲んだ子供の様な表情で“シッシッ”と追い払うようなジェスチャーをしながら、見下してきた。

「ふざけたヤツでヤンスね」

「ああ、ワシらを甘く見過ぎだろう」

ポル・ファボ~~ル(かまいませんよ)、六人全員でかかっていらっしゃい。私を捕まえる事が出来たら聖域の扉を開けましょう」






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※最近(2023・春~夏)ちょっと話題に上がったスキピオニクスの登場です。かなり変態キャラになってしまいましたが。真っ赤の衣装に黄色のエンブレムは、あの『イタリアの跳ね馬』のイメージで設定しました。

 ちなみにイタリア語のルビは意訳です。本来は“美味しい料理”を食べた時の誉め言葉を無理やり会話にぶち込んでいます。よって、イタリア語を話せる方には大変お見苦しいと思いますが、虚構という事でここはひとつ(´艸`*)

 

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