world:09 結構毛だらけ猫灰だらけ!
第130話・対策
「その予知能力ってのにはなにか制限がありそうだね」
「やっぱりアンジーもそう思う?」
ウチ達の拠点“しっぽの家”に戻ってすぐ、アンジーと
「でもさ、その”正体不明の黒ローブ”ってのが、まったく見当がつかないんだよね」
――ドキッ。
「少なくとも、私が魔王軍と戦った頃は予知なんてチート能力を持ったやつはいなかったよ」
心臓に悪いわ~。目を合わせたらなにか悟られそうな気がして、思わず初代新生の方に視線を移してしまった。
「予知出来る時間幅に限界があるのか、それとも範囲かもしくは……。八白さんはどう考える?」
「か、回数とか? 一度に予知出来る事象の」
「つーかよ、どっちにしろ戦うんだろ。気にしても意味ねぇじゃん」
話が進まないことを面倒臭く思ったのだろう、初代新生がイライラした様な声で口を挟んだ。確かにここでの話は予測でしかないし、無駄なことなのかもしれない。
でもリスクをいくつも想定してその対処を考えておくというは、今回に限らずどこかで役に立つ場合も多い。……って、社会人経験のないJKに言ってもピンとこないだろうけど。
「なにも考えないで戦おうとするからお前は成長しないんだよ」
「あ? なんか言ったか、おばさん」
「おい、ちと表出ろ。クソガキ!」
「はいはい、君ら止めや~。ったく、顏合わせるとこれだもんな」
アンジーは言い方がアレだ、言ってることは正しいけど言葉がちょっと足りない。
でもさ……。口では喧嘩ばかりだけど、本当はお互いを認めているってウチは知っているんだぞ。
「消し炭にしてやるよ。ビビッて逃げんじゃねえぞ!」
エクスカリバーを取り出し、肩に乗せて余裕を見せるアンジー。
「不意打ちしか出来ねえくせに偉ぶるんじゃねぇよ、おばさん」
剣鉈を抜き、左下段に構える初代新生。
「ねおりん、ケンカはダメだって言ったでしょ~。もおお……」
必死で止めに入るミキの言葉もむなしく、睨み合うアンジーと初代新生。一触即発の状況だ。
だが……
「あ、リコりん、よろしく~!」
「はいなっ!」
黄色のカートリッジを装填と同時に、二人の足元に撃ち放つリコりん。“目にも止まらぬ”とはまさしくこのことだ。そして魔法耐性のある彼女達にもかまわず効果を発揮する
あのドラゲロアンジーをも封じるこの力、やはりこの娘の能力は使い方次第で場の制圧すら可能になりそうだ。
ビリビリしているアンジーと初代新生。麻痺ってるのに睨み合いが止まらない。その上なにか言おうとして口が回らず、唸り合っているだけという状態になっていた。
「君らは狂犬か……。ま、とりあえず耳は聞こえると思うからそのまま聞いといてくれ」
共有しなければならないことは三つ。
「謎の黒ローブの能力はさっき話した通り。そして二つ目なんだけど、ケルピーってヤツが結構厄介でさ、スピードが滅茶苦茶速くて目で追い切れないんだ」
「ホント、あれは半端なかったっスよ。キティと同等かそれ以上っスね」
ルカもあの速さを目の当たりにして、色々と考えるところがあったのだろう。キティを比較対象に出した一言が最も皆に伝わりやすく、そして的を得ていた。
「なんか燃えるだすな(キリッ!)」
……そして闘志を燃やすキティ。
他に対策として考えられるのは、ドライアドが解放ってのをすればケルピーを凌駕出来るということ。そもそもが同等の強さって言われている位だし。
ただ、それは無理強いは出来ない。捕虜になってでも解放しなかったのは……多分魔王軍に戻れないと言いながらも、異世界に帰ること自体は諦めていないのだろう。もしかしたら家族がいるのかもしれないし、ハーピーやセイレーンの処遇を考えての選択という場合もある。
「三つ目は魔王軍の人数が合わないってことなんだけど……」
「どうやらグレムリンは、我ら仲間をも騙していたのでござろうな。誰かが捕まって情報が漏れても良い様に……」
「相変わらず
ドライアドもハーピーも呆れていた。“敵を騙すにはまず味方から”という言葉があるけど、それは信頼関係が成り立っている上での作戦だ。グレムリンみたいに味方を利用するだけの奴が使うと、単にコミュニティの絆を壊すだけになってしまう。
「社会人経験がこんなところで役に立つとはな。真っ黒だったけど……」
〔
「まったくやで。あそこまで酷いのは滅多に……あれ……」
〔どうかしましたか? 八白亜紀〕
「いや、なんでもない。……と思う」
……なんで女神さん、ウチの職場を知ってんだろ?
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