第120話・超える……力（？）
寄せては返す波の向こう、水平線のはるか上に見える太陽を背に、二人の
「遅くなって申し訳ないのです」
右手で“ゴメンの空チョップ”をするピノ。
「君は飲み会に遅れて来た営業部の中間管理職か！」
〔もうちょっと美しく、『デートに遅れて来た彼氏』とか言えないのですか……〕
「やめて、メンタル削られる。ウチが可哀想やで」
何故かピノとスーが並んで丸太を一本ずつ担ぎ……いや、あれは足？
「それにしても無事でよかったよ～。状況が全く見えないからすごく心配してたんだ……」
そして引きずっているあれがケルピーなのだろう。バルログほどではないがかなりの巨体だ。それを倒して片足ずつ担ぎ、海から上がって来たスピノサウルスとサルコスクスの
いつまでたっても河口の方から出てこないからどうしたのかと思っていたけど、二人で戦っていたとは……。
「ピノちゃん、スーちゃん、ナイス！」
「なんでケルピーが倒されているんだっぺ？」
怒鳴りながら猫耳幼女を睨みつけるグレムリン。ケルピーでピノを抑えて、河口の罠にスーがかかる
荒げる声を前にして、猫耳幼女はうつむいたまま動かない。ウチには、小さく……震えているようにも見えた。
「小さい子を責めてんじゃないよ、アホ玉！」
そもそも予知って予測演算とは違って“未来の結果”が見えるのだから、必ず当たるはずの力。それでもスーのイレギュラーが読めなかったという事は、その辺りに弱点がありそうだけど……。まあ、こういう考察はアンジーにまかせよう。
「スーちゃん、河口に行ったんじゃなかったの？」
それにしてもドライアドと同じくらいの強さ”と言われるケルピーを二人で倒してしまうとか、ピノもスーもかなり強いのね。
「もちろん行かれやがりましたよ。でも河口に到着したら、目の前でコイツとピノが戦っていやがったので加勢して差し上げやがったのデス」
あっけらかんと話す彼女がその手に持つのは、禍々しいオーラを放つ漆黒の大鎌。太陽に照らされてキラキラ輝き、その異様さを浮き彫りにしていた。
「え～と、つまり……」
もしやこの
でもそれが予知を超える力になったのか？ ……何かよくわからないけど、グレムリンが慌てる姿を見られて気分いいわ。
「おい
「お前様も計算が出来ないパープリンだっぺか」
「はぁ？ 何言ってんだよ。助さん格さん、やっておしまいなさい！」
右にルカと左にピノ、中央からスーと、三方向から攻めの構えを見せる。
「何で挟まれているのに気が付かないっペなぁ」
〔八白亜紀、後ろを……〕
女神さんのその言葉が終わるより早く、腰の辺りに熱いモノを感じた。振り返ってみるとそこには猫耳幼女がウチにくっついている。
「つ、痛ってぇ……」
猫耳幼女の手には短刀が握られていたんだ。そしてその刃先はウチの身体にしっかりと食い込んでいるのが見える。当たり前だが、こんな事は初めてだったのだろう。すぐに短刀から手を離し、血の付いた震える手を見つめたまま固まっていた。
ウチは猫耳幼女の襟首を掴むと、力いっぱいそのまま引き倒した。怒りで転ばした訳じゃない、下半身に力が入らないから加減がわからないんだ。上から覆いかぶさり、いや、倒れ込んだと言った方が良いかもしれなかったが……ウチは、声が震えない様に注意しながら声をかけた。
「大丈夫、怒ってないよ……」
どんな理由があったとしても、人を刺したと言う現実は変らない。だけど、この子に恨みを持とうとかまったく思わなかった。だって、この子が呟いていた声が……今やっと聞こえたから。
この子は最初からずっと、繰り返し呟いていたんだ。
――『ごめんなさい』と。
人を刺すなんて尋常な行動じゃない。それも、こんなに小さく、善悪の判断がつかない様な幼女に実行させるなんて。最低最悪なのは、それを強制したグレムリンの大馬鹿野郎だ。
それはそれとして……滅茶苦茶痛ぇ。
――――――――――――――――――――――――――――
ご覧いただきありがとうございます。
この作風がお嫌いでなければ、評価とフォローをお願いします！
☆とかレビューもよろしければ是非。
この先も、続けてお付き合いください。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます