第119話・感謝して差し上げてしまうデスよ!

〔保護なんて、いったいどうやって〕

「わからん。わからんけど、何とかするしかないだろ」

 この辺りはゴツゴツをした岩が多い。それを関係があるのか分からないけど、砂の色も褐色寄りな気がする。そんな砂浜にポツンと、まるで何かから取り残されたかのように立っている黒ローブの猫幼女。

 この子はウチと同じ時代の子供なんだ。プニキュアに反応したり、飲み口付きの蓋を知っているのがその証拠。こんな場所に、こんな時代に居ていいはずがない。

〔気持ちは良く解ります。この子、まだ母親に甘える年ごろでしょうに……〕

 これには女神さんも同意はしてくれている。流石に手段は思いついていないみたいだけど。


「ねえ、お嬢ちゃん。お姉ちゃん達と一緒に行こうよ!」

 こういう時はネガティブな言葉を入れてはダメなんだ。『行きか?』という否定の言葉を入れず、『行こう!』と断言する様に話す事。それが人と話す時のコツなんだって、物心ついた頃……そう、丁度この子くらいの時にばあちゃんが教えてくれたんだ。


「ふん、何を言っても無駄だっペ」

「まさかお前、この子に何かしたんか?」

「さあな〜。しらんがな」

 相変わらずムカつくヤツだな。猫耳幼女が口を開いたのが見えるが、しかし相変わらず声は聞こえてこない。話す事が出来なくされているのか、それとも声が響かない様にされているのか。


 ……この子は、何を伝えようとしているのだろうか。


「ま、この娘は切り札だっペ。を持つ娘に何かする訳がないだわさ」

「最強って、それなら何で……」

「裏切らないかって話なら、ま、家族という人質がおるでな」


 ――なんだって? 


 なんつった今? 高笑いするグレムリンを目の前にして、ものすごい嫌な感情が沸き上がってくるのを感じていた。戦いを避けたいとか話し合いが出来れば、なんて言っていたけど、こいつだけは許しちゃいけないって感じたんだ。

「おい、毛玉(グレムリン)

「なんだっぺ」

幻体アストラルボディってよ……殺しても本体は死なねえんだろ?」

「当り前さね。お前様達みたいな脳筋とまともに戦える訳がないっぺよ」

「そうか、安心したよ……」


 ……ホント、安心した。


「なにがだっぺ?」

「――死なないなら殺してもいいよな」

 プルプルと怒りに震える指でグレムリンを指さしながら、言葉を、出来るだけ冷静な言葉を絞り出した。

「ルカちゃん、そいつ、。ウチの分もすり潰してくれ!」 

〔私の分も頼みますわ!〕

「言われなくても……。自分もコイツは大嫌いっスよ!」 

 相当イライラしているのが判る。キラキラと光っていた綺麗な金髪が、今はビリビリと放電しながら逆立っていた。まさしく怒髪天の様相だ。

「ハーピー、部長(ドライアド)達を洞窟の中へ。そこにいると巻き込まれるよ」

 しかし、ここでグレムリンの態度に違和感を覚えた。どう考えても怒り猛るルカにかなうはずがないのに、まったく様子が変わらないどころか余裕すら見せて来ている。

「お前様方、ワシが戦力外と思っているっぺな?」

「逃げ足が速いって事くらいしか知らんわ、ボケ玉。ガタガタ言わんとさっさと殴られろ」

 新生が斬りつけた時、命中したはずの剣鉈がすり抜けた。キティが蹴りを放った時も同様だ。つまり、グレムリンには、闇雲に物理攻撃を仕掛けても効果が。だけど肝心なのは『効果がない』ではなく『薄い』って事だ。

 必ず核となる部分があって、そこにだけは攻撃が当たるはず。ティラノの“レックス・ディザスターからは逃げていた”という話から、『避けようのない広範囲の攻撃ならダメージを与えられる可能性が高い』というのがアンジーの推測だ。



「ふう、無知は罪だっぺ。幻体アストラルボディだからこそできる事があるっぺよ」

 そう言いながらグレムリンは、ルカが破壊したゴーレムの破片に触ると、す~っと消える様に中に吸い込まれていった。

「え……なんスか、今のは?」

「……多分アレだ、毛玉(グレムリン)の核みたいなのが破片に入ったから幻部分が消えたとかじゃないのかな」

「なるほど、流石姐さんっス!」

 あ、いや、そんなキラキラした目で見ないでくれ。何となくそんな感じって話なだけだってば。


 グレムリンが入った破片に他の破片が引っ張られ、まるで最初から形が決まっていたかの様に徐々に合体していった。その形状は元のゴツく鈍い印象のストーンゴーレムではなく、ファンタジー世界特有の、あの最強生物だった。


「あれは……ドラゴン、なのか?」


 岩や小石が寄せ集まって出来た形だ。当然美しいとは形容しがたい。しかしそれでも、段々と組み上がっていくその形状は、ドラゴンで間違いなかった。頭高は七~八メートル位の、岩で出来たストーンドラゴンとでもいった所か。長い首、太い足、ごっつい尻尾に大きな翼。もっとも、材質からしてどうやっても飛べそうにはないけど。

「せっかく壊したのにズルいっスよぉ~」

「ルカちゃんの気持ちは良~くわかる。魔力が枯渇するまで何度でも復活させそうだしな。マジであれはズルいわ」

 関節部分がどうなって繋がっているのか良く解らないけど、普通に生物的な動きは出来る様だ。

「こんなん、どうやって攻めればいいんだよ……」


 丁度その時だ。『ズズズ……』という地響きに続いて、またもや海から大きな音と共に水柱が立った。それも先ほどとは比べ物にならない程の大きさで、続けて二本、三本と爆発したかの様な勢いで次々に吹き上がる。高く舞い上がった海水は霧雨の様に降り注ぎ、太陽に照らされ虹が出ていた。 


 呆気あっけに取られていると、恐竜人ライズが二人、海から上がってくるのが見えた。

 「え、何で……何でスーちゃんがそこにいるの?」



「ふっふっふ、皆さん、私をお待ちになられやがったデスね。感謝して差し上げてしまうデスよ!」






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