world:07 旅立ち人質マブのダチ

第98話・ウチのせいですか!?

 ウチとキティで南東に全力疾走している時、なんだか良く解らない不安に駆られてしまった。だからとりあえずティラノのジュラたまを、左手薬指に装着したんだけど……。

 丁度その時、ティラノは……ジュラたまブーストパワーでベルノを打ち上げてしまったらしい。宇宙飛行士ベルノ爆誕の立役者はウチだったという事だ。


 しばらくして、進行方向の遥か先に黒い雷雲が集まって行くのが見えた。明らかに異常事態。その時、ティラノのジュラたまが光ったんだ。それも、今までになく強く、そして強烈に。

「これ、なんかヤバイよね……」

「オラもそう思うだす(キリッ)」

 その時、力がす~っと抜ける感じがしてさ。そしたら今度はベルノのジュラたまも強く光り出して。『滅茶苦茶緊急事態じゃないか!』って事で二つ目のジュラたまも装着。

「キティちゃん、全力ダッシュで向かって。後の判断は任せるよ!」

「わかっただす(キリッ)」

 直後、風になるキティ。そして最後にウチは……キティのジュラたま、三つ目のリングを指にはめたんだ。

 左手に光り輝く三つのジュラたま。ガンガン激減するウチの体力。もうヘロヘロすぎてヤバイって時に、キティのジュラたまが強く輝いて体力がす~っと抜けて……何にしても、よくここまでたどり着けたなって感じだ。

「あぁ~、みんなぁぁ~~、無事~~~?」

「おい、『無事~?』じゃねえよ。亜紀っちの方がやべぇじゃねえか」

 とりあえず、ティラノやみんなの顔を確認したら安心してしまって気が抜けたのだと思う。


「ウチ、マジで死にそうや。ジュライチしんどいわ……」

 

 ……そして、その場に瀕死の猫人が倒れたらしい。後でベルノが『エクトプラズムが見えたニャ』と言っていた。





〔全力疾走しながらジュラたまを三つも使えば、そうなるのは当然ですね。自業自得というものです〕 


 気を失っていたのは五分くらいか。ベルノやラミアが介抱してくれていたみたいだ。そして、爽やかな目覚め直後の第一声がこれ。うう、なんか女神さんが冷たい。

「もうちょっと優しい言葉かけてくれてもいいじゃんか~」

〔そんな事をしたら、あなたは調子に乗るのでダメです〕


 ……うん、ウチの事をよくわかっていらっしゃる。



「ところで、説明してもらっても良い?」

 初見でこの状況が理解出来る人がいたらそれは天才以外の何者でもない。見た事もない赤デカい魔王軍が、そしてアンジーのとこのトリスがベルノに従っている。

「臣下ってどゆこと?」

「すまん、亜紀っち。俺様にもよくわからねぇ」

「でもこれ、亜紀ぴの影響ですよね」

「え……ウチのせいなん?」

「ええ、まず間違いなく」 

 冗談ぽく笑いながら断言された。そのラミアの手元には、ぐったりしている鳥がいた。まさしくあの時海岸で見かけた“ちっこかわいい鳥”だ。

「その鳥さんはどうしたの?」

「まあ、色々ありまして。大丈夫、もうすぐ目を覚ますと思います」

 そう言いながらヒールをかけ続けるラミア。

 

 軽く『色々と』なんて言っていたけど、かなり大変な事態だった事はこの場所の荒れ方と皆の顔を見ればわかる。砕けて折れた木刀、大量の血溜まり、地面の焼け焦げと数か所のえぐれた跡。そして辺り一面の薙倒された木々。

 何より、初代新生が真っ青な顔をして座り込んだままなのが一番気がかりだ。

「そこの血溜まり。お前のか?」

「……だったら何だってんだよ」

「なるほどね。貧血で立てないのか」

 地面に吸われ黒くなっている部分を考えると、相当の量の血が流れたはずだ。ヒール魔法では傷は治っても血は戻らないから、多分今の初代新生は眩暈めまいが酷かったり手足が異常に冷たかったりするはずだ。それでも死に至る程の出血じゃなかったのは幸いと言えるだろう。

「とりあえずさ、チョコ食えチョコ」

「てめ、ふざけんなよ、こんな時に」

「脳にブドウ糖は必要やで。エネルギー変換効率も良いし、疲労回復にもなる。貧血のオマエには今一番必要なもんや」

 と、半分聞きかじった様な、嘘か本当かわからない御託ごたくを並べながら、彼女の口に無理矢理放り込んだ。なんだかんだ言ってもJKだ、甘いものが嫌いな訳じゃない。黙って頬張る初代新生。


「あとは毛布でもあればいいんだけど……」






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