第86話・ベルノ奮闘
ベルノはグレムリン達から目を離さずに、動けなくなっている初代新生に手をかざした。外傷が激しい左腕からだ。
「痛いの痛いの……」
初代新生の左腕からモヤッとした“痛い”がベルノの手に集まる。それと同時に、砕けた腕が再生されていく。初代新生は痛みに顔を歪め、口から洩れそうになる呻き声を必死に我慢していた。そもそも傷の再生自体が自然の摂理に反するものだ。怪我そのものの痛みは取る事が出来ても、急激な回復に伴って発生する痛みは我慢するしかない。
ベルノはまず、的がデカいバルログを狙い“痛い”を投げる!
「飛んでいくニャ!」
ハッキリと見える訳ではない。それでも良く見るとモヤッとした空気の塊みたいなものがベルノの手から飛び出していった。
「あれはなんだっぺ……」
「ヒョ???」
バルログは投げつけられたモヤっとしたものを無造作に左手で払った。しかしその瞬間『ボキボキッ……』という音と共に、左手の指が数本折れてしまっていた。
「うグあぁ、痛デぇ!! なンじゃコれは」
薬指と小指があらぬ方向に折れ曲がっている。折れた指を右手で押さえながらベルノを睨むバルログ。
グレムリンは最初、何が起きたのか判らなかった。しかし、ほんの十数秒前には左腕が砕けて動けなかった猫人が、何事もなかったかの様に起き上がっている事に違和感を覚えた。
「ふむ、もしや……」
「グレ、痛ぇよ~」
「騒ぐなっぺ。おい、バルログ。あのガキ捕まえれば魔王様から褒美が出るっぺよ」
「ヒョ、本当かや?」
「ああ、間違いないっペ。あれは敵の中で一番の脅威だ」
魔法に頼らない回復能力。それでいて攻撃に転じる事が出来るスキル。これを『脅威』と判断したグレムリンは、やはりただ者ではないという事なのだろう。
「ベルノ、頼みがある」
「ニャ!?」
「こいつの傷を治してやってくれないか?」
初代新生は両手で瀕死の鳥を抱き上げると、ここにきて初めて、他人に頭を下げた。どのような心境の変化があったのかは判らない。だが、自分の身代わりになって死にかけている鳥に対して、何をしても救いたいと思ったのだろう。
「……駄目ニャ」
「なんでだよ、オレを治してくれたじゃないか」
「ベルノは恐竜さんを治せないのニャ……」
「嘘だろ……」
鳥を抱いたまま目に涙を浮かべる初代新生。人に裏切られ、人を信じる事が出来なくなっていた少女が、わけもわからず一羽の鳥の為に涙を流していた。
「諦めるのはまだニャ。あの中にミアがいるニャ」
「ミア……そうか、回復魔法をかけてくれたアイツか」
「何を無駄話しているのかや」
言うと同時にバルログは右手に持った杖を振り下ろし、二人の目の前に叩きつけた。その直後、ベルノの足元が勢いよく盛り上がり、鋭いトゲとなって攻撃をしてきた。
「なんニャ?」
「ヒョヒョ、避けれルものなら避けてミろ」
バルログは続けざまに地面を小突く。それに反応して、足元から、後ろから、土が盛り上がって攻撃をして来る。なんというかこれは、“逆モグラ叩き”状態といった感じだ。
飛び出るまでどこから攻撃が来るかわからない。初代新生は怪我に加え、鳥を抱きかかえたまま避けるのが精一杯だ。
「くそ、何もできやしねえ」
「ヒョヒョヒョ、甘い。甘すぎる!」
足元にばかり気を取られたせいなのは明白だった。直後、初代新生はグレムリンの放った
ボコボコの足元、直撃の
「その
転びかける彼女を受け止めたのはトリスだった。初代新生はもちろん、ベルノですら気が付かない間に、そっと後ろに降り立っていた。羽ばたき音もさせず、静かに、紳士的に。
「てめぇ、アンジュラのとこの……」
トリスを睨みつける初代新生。アンジーに殺されかけた身としては、その
「ケツニャ。ジェントルメンのケツニャ!」
「意味わからねえ……」
「あの、
トリスは怪我した鳥を抱きかかえるとフワッと浮かぶ。
「この
ひとこと言い残し、攻撃の及ばない距離まで一気に飛び上がった。この状況でわざわざ急かす様な事を言う位だ、相当危険な状態と判断出来る。
「新生ニャ。まだ怪我は残っているかニャ?」
「はぁ? どう言う意味……」
そこまで言って初代新生はベルノの考えが読めた様だ。
「ああ、いろんなとこが痛てぇし、まだ今から死なねぇ程度に怪我するぜ!」
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